薄毛が目立ちはじめた40代の冴えない中年男が、20代の女性配信者をサバイバルナイフでメッタ刺しにして殺害した事件。第一報の時点では、誰もが女性に同情しただろう。だが一晩が経ちネットでは「女性の自業自得」という見方が急増している。どういうことなのか?
高田馬場 女性ライバー刺殺事件で「自業自得」の声「続出」のナゼ
東京・高田馬場の路上で11日、ライブ配信サービス「ふわっち」で生配信を行っていた20代女性が、リスナーの40代男に刺殺された事件。事件発生直後は2人の関係性が不明なこともあり、「若くて可愛らしい女性配信者が、冴えない中年の“弱者男性”に殺された」という構図の理不尽な事件とみられていた。
ところが、時間が経つにつれて世間の受け止めは、「女性側の自業自得」「復讐されるのも無理はない」といった白けムードに変化してきたという。どういうことなのか?
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ネットメディア編集デスクが説明する。
「凶行に巻き込まれた東京・多摩市の佐藤愛里さん(22)は、“最上あい”名義でライバー活動をしており、当日は“JR山手線一周企画”の“外配信”中でした。殺人容疑で逮捕された高野健一容疑者(42)は、彼女の配信にあわせて栃木県から“上京”し、現在位置を特定のうえ、サバイバルナイフで数十箇所を複数回メッタ刺しにして殺害したとされます。
路上に倒れた“最上あい”さんの体を蹴る、彼女のスマホで“外配信”を続けるなど容疑者の異常な行動が注目され、極めて猟奇的な犯行というのが第一印象でした。SNSでも、女性配信者に対する男性リスナーの“勘違い”や、プラットフォーム上での投げ銭をめぐる“逆恨み”が噂され、当初は女性側に同情的な反応がほとんどだったのです。
ところがその後、警察の取り調べに対し高野容疑者が、『“最上あい”さんに約250万円を貸したが、返ってこなかったため殺害した』という趣旨の供述をしていることが伝わり風向きが一変します。本来、容疑者の言い分など鵜呑みにすべきではないのですが、容疑者の知人がSNSにリークした“証拠”によって、多くの人々が見方を変えたようです。昨晩から今朝にかけては、≪これって女性の典型的な自業自得だよな≫≪なんだ、女が返り討ちに遭っただけやん≫≪人を騙して金を騙し取る奴の末路よなぁ≫≪一瞬でも同情して損したわ…≫といった意見が急増する状況になっています」(ネットメディア編集デスク)
SNSにリークされた“証拠”は、仮に事実だとすれば、被害者と加害者が入れ替わってしまいかねない衝撃的な内容だという。高野容疑者は具体的に、いったい何に激怒したのか?(次ページに続く)
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最上あいは何をしたのか?どちらが「被害者」か?深まる疑念
各紙報道によると“最上あい”さんと高野容疑者は2021年頃、「ふわっち」の配信者とリスナーという立場で最初の接点を持った。2022年には“最上あい”さんが働く「飲食店」に高野容疑者が通う関係になったという。
高野容疑者は、約250万円の金銭貸借トラブルについて、ライブ配信の投げ銭機能ではなく、女性の銀行口座に直接、振り込んだものと供述している。
その容疑者の知人がSNSにリークした“証拠”を要約すると、おおむね次のようなトラブルをうかがわせる内容となっている。ただし現時点では事実かどうかは不明で、噂の域を出ない情報も含まれる。
- 容疑者は女性から「財布をなくした」「生活費がなくなった」「偉い人に高額のシャンパンを開けさせられた」といった理由で断続的に金を要求されていた
- 容疑者は女性に対し、251万4800円の貸金等返還請求裁判を提起し勝訴していた
- 容疑者は再三にわたり金の返済を求めたが女性は応じず判決も無視した
- 容疑者は経済的にギリギリの生活を送っていた
これらの内容は、「金を貸したが返ってこなかった」という高野容疑者の供述と大筋で整合する。報道によれば貯蓄を取り崩し、一部はサラ金から借り入れて女性に金を貸した。2024年1月には警察にも相談していたとされる。また、きっちりと訴訟を起こすなど、“精神に異常を抱えた弱者男性”というイメージとはかけ離れた冷静な一面も垣間見える。
一部では、リーク情報が事実なら、女性が男性の善意につけ込んだ“寸借詐欺”事案とみる向きもあるようだ。
ただ、警察は供述の裏付けを慎重に進める方針。そのため、きょう朝から午後にかけてのテレビ報道は、金銭トラブルこそ取り上げたものの、高野容疑者による“残忍で身勝手な一方的犯行”という構図は変更しなかった。ウラの取れていない情報なのでやむを得ないが、思わぬ形で“SNS世論”とのへだたりが生じている格好だ。(次ページに続く)
「正論で命は守れません」ライブ配信サービス関係者の指摘
今朝方のテレビ各局報道は、そのほとんどが“ライブ配信中のショッキングな凶行”という点にフォーカスしていた。スマホ・SNS・ライブ配信全盛時代ならではの、極めて現代的な“前代未聞の新しい殺人事件”という伝え方だ。
そのため、ネットでの生配信やSNS利用における“本人特定”や“場所特定”、“リア凸”のリスクを挙げ、配信者がセキュリティを確保するための安全対策を詳しく解説する内容が多かった。そのさいには、「異常な容疑者による残忍で身勝手な一方的犯行」という構図や、「金銭トラブルがあったとしても、殺人は決して許されないこと」といった“正論”が常にセットになっていた。
これらは、一般論としては間違いではないのだろう。ただ、今回の高田馬場の事件に限って言えば、そんな“正論”では配信者の命を守ることはできなかった、という見方もある。
「ふわっち」の競合にあたる、準大手ライブ配信サービス関係者が次のように語る。
「仮にSNSへのリーク情報が事実なら…ですが、テレビなどのマスコミはもっと積極的に“他人から金を騙し取ることの危険性”や“借金を踏み倒すことの危険性”を報じるべきではないでしょうか?それは最悪、自分が命を落とすかもしれない行為なんだよ、と。
私は、今回の殺人事件は“前代未聞”でも何でもなく、豊田商事会長刺殺事件や西新宿タワマン刺殺事件の再来とみています。“たかが200万円で…”という人もいるでしょうが、10万円だろうが1000万円だろうが、金の恨みは恐ろしい。これは江戸時代も令和の今も変わらない真理でしょう。これを若い人たち、特に周囲からチヤホヤされがちな女性が理解しないかぎり、定期的に同じような事件が起こると思います。
豊田商事のときは殺害の模様をテレビが中継しました。それが今回は被害者⇒容疑者のリレー配信に置き換わった。その点で目新しさはありますが、そもそも金銭トラブルがなければ、サバイバルナイフで刺されるような悲劇はまず起きなかったはずです」(ライブ配信サービス関係者)(次ページに続く)
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「他人の金を奪えば返り討ちに遭う」という暗黙の掟
ライブ配信サービス各社は、トラブル防止のために様々な対策を講じている。だが、それにはおのずと限界があるともいう。
先の配信サービス関係者が事情を説明する。
「この商売ではサーバーコストだけでなくユーザー監視コストが肥大化しがちです。すべて利用者の自己責任、と突き放せば圧倒的に安く済むのですが、社会的責任がありますし、自社サービスで人を不幸にしたくありませんからね。各社さん、人力やAIによる配信内容のリアルタイムチェックや、リスナーによる通報システムを整備して、トラブル防止に努めていますよ。
ただ、たとえば弊社の場合、“自殺予告配信”や“薬物オーバードーズ配信”からユーザーを守ることに防止の主眼を置いています。配信者とリスナーがプラットフォーム外で連絡を取り合い、私どもの関知しないところで多額の金銭を貸し借りするとなると、これはもう対応のしようがありません。
生配信時に居場所を特定されないようにする、といった細かいノウハウはもちろん啓蒙していく必要がありますが、それ以上に“不当な金の稼ぎ方をすると不幸になる”ということをメディアの方には伝えていただきたいです」(前出のライブ配信サービス関係者)
あくまで現時点では、金銭貸借トラブルは高野容疑者の一方的な主張である点には注意したい。とはいえ早晩、警察の捜査により真相が明らかになるだろう。
仮に容疑者の言い分が本当だった場合、テレビは「殺人は決して許されない」という“正論”に逃げることなく、「他人から奪うなら、返り討ちに遭うのは自己責任」という“暗黙の掟”を伝えることができるだろうか?正論だけでは命がいくつあっても足りないのが世の常だ。
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