障がいをもっている人や疾患などで支援が必要な人のためにウェブ上を基本にした学びの場である「みんなの大学校」。生きづらさを抱える人たちの支援に取り組むジャーナリストで宮城県出身の引地達也さんは、当学校の学長であり、講義も行っています。引地さんは自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の中で、みんなの大学校が目指す新しい学びに向けた展開について語っています。
学びの「あしがかり」を念頭に可能性を広げるために
2025年春、新学期が始まった。
支援が必要な人の「学びの場」であるみんなの大学校も入学式・始業式を終え、講義を開始した。
今学期は「語り合う心理学」(月)、「音楽でつながろう」「けいざいで世界を知る」(火)、「対話と支援」(水)、「メディア論」「禅・マインドフルネス」(木)、「体操をしましょう」(金)と毎日、講義が設定されおり、個別対応が必要な学生に「個別ゼミ」としても臨機に対応している。
すべてオンラインの開講だから、日本全国どこでも、講義によっては海外から受講する人もいる。
今年も各種障がいのある人や支援が必要な人、そして支援者がオンライン上で集い、その人に合った学びが出来るよう、工夫をしながら運営していきたい。
この学びが、広がるにつれて、新しい個性に出会い、新しい学びとコミュニケーションの形を作るのは、日々発見の連続である。
2018年度から始まった文部科学省の障がい者の生涯学習に関する委託研究事業は、昨年度で受託に区切りをつけ、今年度からは次の段階として、社会への周知をはかりながら、実際に学ぶ人を増やすことを目指している。
重症心身障がい者が肢体不自由の特別支援学校卒業後も学びを継続するための道筋を作ろうと、全国の特別支援学校や各自治体にある肢体不自由協会とつながっていく予定である。
さらに生活介護や訪問介護等の福祉サービスの中でも学びのプログラムを提供し、どこにいても、学びを通じてそれぞれの可能性を伸ばしていきたいと考えている。
これまでの委託研究で、みんなの大学校はオンラインでの学びの提供を軸にしながら、オープンキャンパスで直接会う機会を企画し、地域の青年学級と連携。
オフラインで集まる際の場所にも着目し、その場所である社会教育施設を運営する企業と共に「受け入れ」や「企画」に関する見識を広げてもらうガイドライン作りも行ってきた。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
これら学びの想定には、「交わって新しいことを発見する」との共通のイメージがあるものの、みんなの大学校としては、高等教育を提供したいとの思いと、それは各個人の次の可能性を信じての取り組みを前提としているのが特徴的だ。
学びを交流の場と考えるのもよいし、さらにその交流が何らかの発見を促し、次へのステップにつながること、それは「成長」と認識されるものである。
この成長する、には学びの要素が必然と考え、私たちは学びの「足場をつくること」「あしがかりを見出すこと」が仕事のひとつとも考えている。
あしがかりとは学びのベースのようなもので、それは高校までの学校で培われたものもあるが、実はそれがすべてではない。
特別支援学校などの学校で提供されるものには限界があり、その限界からバトンを受けて、新しいあしがかりで学びが構築できれば、継続した学びの先にさらなる可能性が広がるのである。
それまでの特別支援学校の学び、関わってきた先生や関係者の尽力に敬意を表し、新しいステップに向けての、リレーを新しいメンバーとともにつなげて、そして始まる。
例えば、文字認識が弱かった人に、それまでの「文字を意味のあるものとして覚える」から、「文字をさまざまな形の違いから意味づけられるもの」と認識し、形から文字を覚えていくことが、その人にとっての文字認識の最適な学び、足がかりかもしれない。
多くのものが意味を伴うことを前提にコミュニケーションが進む中で、その意味をいったん立ち止まって、その人なりの、それが障害と呼ばれる特性なりの、一般とは違うものがあるのであれば、それを優先したい。
この分野は、みんなの大学校の大内雅登教授が専門で、新しいコミュニケーションと学びの足がかりの構築を見据えて、学生とともに考え始めた。
考え、動き始めて、何が見えるのだろうか。
新しい学びに向けて今年度も面白そうな展開が続くことになりそうだ。
● みんなの大学校
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