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トランプの所業を見れば一目瞭然。米中対立の記事から習近平の「ズルさ」や「危険」を伝えるフレーズが消えた理由

これまで国内外を問わずメディアで盛んに喧伝されてきた中国の脅威。しかし今現在、そうした論調はトーンダウンしつつあるのが現状です。その裏にはどのような事情が存在しているのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、中国の狡猾さや習近平政権の危険さを伝えるフレーズがほとんど使われなくなった理由を解説。さらに揺るぐことがない中露の蜜月関係と、多くの日本人が理解できていない「現実」を紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:デカップリングが一部で本格化する裏側で注目される中露の本当の距離

蜜月は揺るがず。デカップリングが進む世界で注目される中露の本当の距離

米中の対立をテーマにした記事が相変わらずメディアを賑わせている。しかし巷にあふれる米中対立の記事で、最近ほとんど使われなくなった中国批判のフレーズがある。

一つは「不公正な貿易慣行」で、もう一つが「武力による一方的な現状変更」だ。

バイデン政権下では、それこそ耳にタコができるほど使われた。

前者は中国の経済発展をターゲットに、中国の狡さやインチキを表現し、後者は習近平政権の「危険さ」を知らしめた。

これらの批判が見当たらなくなったのは、批判の急先鋒であったアメリカの変化だ。トランプ政権が「不公正な貿易」を世界に押し付け、経済を大混乱に陥れると同時にグリーンランドやパナマに対し威嚇をともなう「現実変更」を行っているのだから当然だ。

日本メディアはそもそも欧米メディアの尻馬に乗って騒いでいただけだった。

振り返れば、トランプ1.0で米中間に貿易戦争の端緒が開かれ、対中制裁関税や輸出規制が次から次へと発せられるなか、日本では「やっとアメリカが中国の問題に気づいてくれた」と、アメリカの行動を歓迎した。

そうした空気のなか、米中デカップリングを望むような声まで高まった。

アメリカの世界経済における圧倒的な存在感もあり、中国を「サプライチェーンから排除する」ことが日本への追い風になると考えたのだろう。背景には中国の生殺与奪権をアメリカが握っているとの誤解があった。

だがトランプ2.0で起きている米中対立を見れば、アメリカ主導の中国排除が幻想であることは瞭然だ。

まず第一次トランプ政権からバイデン政権を通じて維持されてきた制裁関税と輸出規制のなかでも、中国が相変わらず力強く発展を続けたことを世界は目撃してきた。

一企業としてターゲットにされた華為技術(ファーウェイ)は、スマートフォンの生産を絶望視されたところから独自の半導体を開発し、最終的には史上最高益を叩きだすまでに回復した。またAIでのアメリカ優位を維持するための半導体関連技術の輸出規制がバイデン政権下で試みられたにもかかわらず、DeepSeekが生み出された。

そして現在、第二次トランプ政権がスタートして数々の関税政策が発表されているなかでも、中国はほとんど動じていないのだ。

中国が平静を保っていられる理由についてはこのメルマガでも何度か取り上げてきた。

復習の意味でまとめれば、まず中国側がしっかりと時間をかけて備えてきたこと。さらに関税戦争を継続することの非現実性を見極めている点が挙げられる。

【関連】トランプ関税が中国の人民を本気で怒らせ団結させる。米大統領の“オウンゴール”が習近平政権に吹かせた最大の追い風

ドナルド・トランプが大統領選に勝利し、世界は新たなアメリカに適合するために動き出したが、中国はそれ以前からずっと関税戦争、ひいては中国をサプライチェーンから排除しようとする目論見から目を逸らすことはなかった。

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中国の「体質転換」に不可欠だったASEANとロシアの存在

この8年間、中国は貿易の多元化を進め、対米貿易への依存体質を改善しながら貿易のパイを拡大することに努めてきた。

事実、2024年には中国の物品貿易総額は43兆元(1元は約20円)を超え、課題だった対米貿易依存度も2018年の19.2%から2024年の14.7%へと減少させてきたのだ。

この中国の体質転換に不可欠だったのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)であり、「一帯一路」沿線国であり、ロシアだった。

なかでもロシアは、エネルギー不足の中国にとって貿易の相互補完の観点からも相性が良く、伸びしろも期待できた。

だからこそ中露の蜜月は揺るがない。

中国の習近平国家主席は5月7日からソ連・大祖国戦争勝利80周年記念式典に出席するためロシアを訪問。欧米メディアが新しいローマ教皇を決める秘密選挙「コンクラーベ」に熱狂している裏で、ウラジミール・プーチン大統領とがっしり握手を交わした。

日本の報道では、ロシアに急接近する北朝鮮をめぐり「中露関係は微妙」との見立てもあったが、そもそも次元の違う話だ。

中国のテレビは習訪露の前後に、抗日戦争で貢献のあった旧ソ連の空軍兵士の特集を組み、両国の絆の深さを繰り返し報じた。

当然、首脳会談の中身は、中露関係の良好さと同時にアメリカに対するけん制のメッセージとなった。

習近平はトランプ政権を「現在の国際社会における一国主義という逆流及びパワー・ポリティクス的覇権行為」と批判。「中国はロシアと共に、世界的大国及び国連安保理常任理事国としての特別な責任を担い、共同で正しい第二次世界大戦史観を発揚し、国連の権威と地位を守り、第二次世界大戦の勝利の成果を断固として守り、中露両国及び多くの発展途上国の権益を断固として守り、手を携えて平等で秩序ある世界の多極化及び普遍的に恩恵をもたらすインクルーシブな経済のグローバル化を促進していく」と語った。

また「中国はロシアと共に、時代が与えた特別な責任を引き受け、世界の多角的貿易体制及び産業・サプライチェーンの安定性と円滑性を維持し、両国の発展と振興の促進、国際的な公平と正義の維持に、より大きな貢献を果たすことを望む」と呼び掛け、プーチンも、「断固として揺るぎなく露中関係の発展を推進し、互恵協力を拡大することは、ロシアにとっての戦略的選択だ」と応じた。

「断固として揺るぎない露中関係」があれば、ロシア・ウクライナ戦争めぐる協議で安易な妥協は避けられ、中国も対米関税戦争で右往左往することを避けられる。

中国に145%の関税が課されると発表されて以来、中国からアメリカへと向かう輸入品は激減した。これがアメリカ国内で価格に反映されるまで6週間から9週間かかるとされるが、コンテナ港ではすでに作業員の大量解雇が始まっているとも伝えられる。

米中ともにダメージを避けられない無益な戦争だが、この戦いが一定の落ち着きを見せた後も、このデカップリングの流れは止まらないかもしれない、との予測が中国側に出始めているのは注目すべきことだ。

アップルのスマホやグーグルがない世界など、日本人には想像すらできないかもしれない。しかし、いまの中国では誰も何も困らず生活できる。この現実を多くの日本人が理解できていないのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年5月11日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: miss.cabul / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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