何よりも優先して安全が担保されなければならない、子どもたちが毎日を過ごす学校施設。ところが多くの公立学校では、児童生徒らが危険にさらされているのが現状のようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、公立小中学校に必要な改修の7割超が行われていないという事実を紹介。その背景を解説するとともに、もはや先進国とは呼べないような日本の状況を大きく憂いています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:学びの場崩壊!天井落下、雨漏りも
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
天井の落下に雨漏りも。崩壊する日本の学びの場
公立学校で老朽化による深刻な事態が発生していることをご存知でしょうか?
2年前には埼玉県久喜市の久喜東小学校で、「バーン」という大きな音と共に校舎3階、高さ9メートルの外壁からモルタルが突然、落下。
子供たちは授業中で、音に驚いた先生らが駆けつけたところ、1階の学童保育に使われている部屋の前に無数の破片が散らばり、部屋の出入り口のひさしには大きな穴が開いていたそうです。
モルタルの大きさは縦85センチ、横2メートル、厚さは約4センチ。重さは数十キロです。幸い近くに誰もおらず、ケガをした人もいませんでしたが、あわやの事態に衝撃が走りました。同じような事故は、その1年前に市内の中学校でも発生していたのです。
文科省の調査によると、全国の公立小中学校の校舎や体育館などの3割が築45年以上。このうち7割超は必要な改修が行われていません。天井が一部落下するなどの不具合も、1年間に2万件以上発生しています。
公立小中学校の多くは,昭和40年代後半から50年代にかけての児童生徒数の急増期に一斉に整備されているものが多く、校舎の面積も大きくなっています。一方で、地方公共団体が施設の維持管理に掛けた費用は減少傾向にあり、十分な対策が取られているとは言えない状況です。
しかも自治体によっては民間のビルメンテナンス会社と提携するなど、建築物の専門家が施設の点検を行なっていますが、ほとんどの学校では現場の教職員や教育委員会の担当者が担っています。これでは危機を事前に察知するのも難しいといわざるをえません。
トンネルや橋などのインフラ施設の老朽化対策はかなり進んでいますが、公立学校の老朽化はあまり知られていないことも修繕が進まない要因です。
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多くの学校で生じている雨漏りや設備機器・配管の破損
恥ずかしながら私自身、その深刻さを知ったのは数日前でした。高校の同窓会に参加した際に、募金のお願いがありまして。雨漏りがしていると聞き、衝撃を受けました。
4年前に「創立80周年記念式典」で講演をした際には、久しぶりに訪問した母校のプールがなくなっていることや、旧体育館がなくなり、おしゃれな3階建てのビルになっていて、ずいぶん変わったと思っていたのですが。
なんとなんとの雨漏りです。しかも、トイレなどは私たちが使っていた時のままなので、老朽化が著しく、衛生的にも、バリアフリーの観点からも問題があるとのこと。
文科省の調べでも、構造体の耐震化が多くの学校施設で図られきた一方で、機能面では改善がほとんど進んでおらず、多くの学校で雨漏りや設備機器・配管の破損など多くの課題が生じていました。
雨漏りで、学校での活動に支障を来した事例や施設設備、備品等の財産を損傷するおそれがあった事例は年間3万件を超えるそうです。
私が調べた範囲ではありますが、母校以外の県立高校でも卒業生に募金を呼びかけるケースが多く確認できました。ふるさと納税の制度を使っているとのことですが、募金に頼るだけいいのか。
国立大学もカネがない、公立高校もカネがない、義務教育の場である公立小中学校もカネがない。
これが先進国の姿なのでしょうか?
子は宝、と誰もがいうのに、子が危険と背中合わせの状況を余儀なくされている。日本の学びの場が危機に瀕していることを、もっと多くの人に知っていただきたいです。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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