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米国でも中国でもトルコでもない。我が日本こそが「ウクライナ戦争の仲介役」として“稀有な存在感”を見せられる理由

ウクライナ戦争をはじめ、各地で立ち上る戦火に対してあまりにも無力であると言わざるを得ない国際社会。いついかなる場所で核兵器が使われても不思議ではないのが現状ですが、それでも世界はこのまま分断を深めていくのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在進行形の国際紛争を解決できる国は日本をおいて他にないとする理由を解説。その上で、「我が国は持てる力を存分に発揮し世界平和に最前線で貢献すべき」との国際交渉人としての考えを記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:奇跡的な立ち位置をキープする日本の役割-未曽有の危機を回避するためにできること

「世界戦争前夜」を回避する役割も。奇跡的な立ち位置をキープする日本の力

いつ終わるかわからない(いつまでも終わることができない)ロシア・ウクライナ戦争。過激さを増すイスラエルの攻撃と、ガザにおける悲劇の拡大。イスラエルの傍若無人な振る舞いを受けて、反イスラエル包囲網を強化するアラブ諸国とイラン。イスラエルによるイラン核施設攻撃の可能性の高まり。一触即発と言われるインドとパキスタンの争い。燻り続けるアゼルバイジャンとアルメニアのせめぎ合い。スーダンやコンゴ民主共和国での終わらない内戦と周辺国への波及。

現在、世界で起きている紛争や紛争の種を挙げればきりがない、一刻も気を緩めることができないような緊張が続いています。これらの紛争や紛争の種が、ある偶発的に起きた武力衝突を機に、一気に周辺国に飛び火し、それぞれの紛争の間で呼応することで、それが世界全体を巻き込む大戦争に発展しかねない状況といっても過言ではありません。

そのような状況に直面しても、欧州各国は口ばかりの格好のよい介入ばかり続け、実質的には何ら役に立つことができない状況です。その原因は、各国で深刻化する経済状況と、政府に対する国民の不安に後押しされた極右勢力または自国ファーストの政治勢力の台頭により、機能不全に陥っている各国とEUの実情です。

世界一の経済力と軍事力、そして7つの海すべてに港を持ち、唯一、世界どこにでもアクセスできる超大国アメリカ合衆国の威光と実力は、クリントン政権あたりから始まり、オバマ政権下で方針として固定化した国際情勢への不介入主義です。

オバマ大統領の「アメリカ合衆国は世界の警察官としての地位を降りることを決めた」という宣言は、すでに分断が深まり、後戻りできなくなっている現状の国際情勢への転換のきっかけになったものと、今、感じています。

アメリカは相変わらず各国の状況に口を出し、時折、遠隔操作を試みますが、良くも悪くも紛争勃発の抑止力として機能していた姿はもう見ることが出来ず、政権・政党が変わっても基本的にアメリカファーストの利害に沿った介入に形状が変化してきました。

国際情勢にアメリカによる抑止力の穴・空白が続々と生まれ、その穴を新しくグローバルパワーとして台頭しようとする中国が埋め、着々と影響力を伸ばしているのが現状となっています。

国際情勢でよくみられる「ナンバーワンの国がナンバースリーの国と手を組んでナンバーツーの国を叩く」というセオリーが見事に当てはまるのが、ここ10年ほどで顕在化してきた米中対立と言えます。

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必ずしも世界各地で歓迎されているわけではない中国

ただかつての米ソ冷戦時代とは違い、中国の軍事的なプレゼンスは決してグローバルなものではなく、あくまでも自国のSphere of influenceであるアジア太平洋地域圏に留まっており、世界の7つの海にプレゼンスを誇るアメリカの比ではありませんが(とはいえ、長距離弾道ミサイルは北半球経由でも南半球経由でも全米に届くほどの技術があるそうですし、最近は核戦力の拡大に勤しみ、軍事力の拡大を急速に進めています)、経済力ではアメリカ経済に並ぼうとするほどの発展を見せ、内政不干渉主義が多くの途上国の支持を集める外交姿勢を通して、中国経済の影響を世界各地に拡げています。

中国経済の浸透力が広がるにつれ、それを梃子にした外交的な力を身に着け、ここ数年はミッションインポッシブルと言われてきたサウジアラビア王国とイランの仲介や、パレスチナの諸勢力をUnited PalestineとしてまとめあげるPower Houseになってきています。

ただ、中国の影響力の拡大は必ずしも世界各地で歓迎されているわけではなく、支援が債務の罠として各国の権益を奪い去ったり、支援と並行して中国人移民の増大が社会問題化したり、地域への経済的恩恵(雇用含む)の波及が期待していたほどないことなどをベースに、中国に対する嫌悪感がクローズアップされることが多くあります。

それはまたグローバルサウスに類される国々からの対中警戒心の増加にも寄与し、欧米諸国と中国がグローバルサウスの支持を挙って取り付けようとする際に、landslideで支持を獲得できないことにも繋がっています(その背景には、インドのプレゼンスの大きさが存在することも一因としてあります)。

グローバルサウスは緩やかな結びつきで、その場の利害に基づいて連携する実利主義のグルーピングと定義づけられるかと思いますが、すべての構成国に共通する軸としては、「これまでの欧米諸国による支配的な状況を打破し、アメリカ離れ・欧州離れを加速し、世界の第3極としての勢力圏を集団として築き上げる」という共通認識が存在すると考えます。

その他、トルコの稀有な立ち位置など、特筆すべき姿勢はありますが、世界が見事に多極化する中、嫌われることなく、どのグループに対してもそれなりの発言力を持つ国が、わが国日本です。

もちろん、各国の内政上の理由で日本をやり玉に挙げる中国や韓国の方針、自国の存在意義として完全なる反日の姿勢を必要とする北朝鮮という特異な例はありますが、北朝鮮という例外を除き、中国も韓国も日本を完全に無視しては存在し得ないことをよく理解しているため、実質的な敵対を選択しないのが通例です。

問題があるとすれば、その稀有で奇跡的ともいえる日本の国際情勢における立ち位置を、私たち日本人が理解しきれておらず、その奇跡的な立ち位置と持っている力を存分に発揮できるリーダーがいないことだと考えます。

では、現行の国際紛争の解決に向けて、日本が自らの立ち位置を活かしてできることとはどのようなものがあるでしょうか?

まずロシア・ウクライナ戦争について見てみます。

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日本を切り離して生き残ることは出来ないロシア

先週末からトルコ・イスタンブールにおいて久々のロシアとウクライナの直接協議が行われましたが、かなり前のめりなゼレンスキー大統領の姿勢をあざ笑うかのように、ロシアは高官級の協議に止め、欧米諸国およびウクライナ政府が提示していた30日間の停戦を含むすべての呼びかけをスルーし、さらにはこれまでトランプ政権が提示してきた“かなりロシア寄り”と解釈される停戦合意の内容をさらに上回る条件をウクライナに突き付け、実質的に進展はない状況を見せつけました。

イスタンブール入りしていたルビオ国務長官の同席も拒絶し、ロシアが戦況で圧倒的優勢に立つ状況を活かして一気にウクライナを追い込む算段をしていたロシアは、基本的にウクライナの属国化によるロシアの国家安全保障の確保を条件に掲げ、一切の譲歩を見せない戦略を取りました。

その後19日に行われたトランプ大統領とプーチン大統領の電話首脳会談でも、2時間余りにわたる協議も和平に進展はもたらすことができず、ついにトランプ大統領の口から仲介からの撤退を引き出すことにロシアは成功したと見ることが出来ます。

ゼレンスキー大統領および欧米諸国は多国間協議を進めようと提唱し、トランプ大統領もお得意の関税措置や対ロ制裁の厳格化などを掲げますが、ウクライナ案件以外の国際情勢において、アメリカの面子を保つためにはロシアの協力が欠かせない状況ゆえに、実際にはアメリカは一切手を打たないと思われるため、ロシア・ウクライナ戦争はこのままズルズルと、恐らく年末ぐらいまで継続し、なかなか現状では解決の糸口が見つからない状況になると思われます。

唯一前に進んだと思われるのは、今回、平行線に終わったと非難されましたが、直接的に協議をするチャンネルが再開したことは、話し合いによる(交渉による)解決のベースが出来たことと解釈できるところです。

この話し合いによる解決のベースは、ロシアとウクライナが直接協議するというスタイルが大前提ですが、このままアメリカが仲介するのは望ましいとは思われず、欧州は全く役に立たないことは明白ですし、中国は“中立”を謳いつつも実際にはロシア寄りであるため適任ではありません。

ここで候補に挙がるのが、実際に仲介トラックを走らせているカタールや、今回の直接協議のホストとなったトルコなどが有力ですが、どちらも強い外交力と交渉力を持つことは間違いないものの、協議を通して出来上がった合意を実行に移す後押しをするだけの力(経済力・資金力、そして場の設定をする調整力など)を有していないため、合意後のexecution能力に疑問が残ります。

そこで私はそれらを兼ね備えている日本が今後、仲介の労を取るべきだと考えています。単独で行うのもいいですし、トルコなどと協力して行うのもいいかと考えますが、ロシア・ウクライナ戦争が継続している中でも、戦後の復興に焦点を当て、そのプロセス・話し合いを主導しているのは日本であり、唯一、偏りなく長いスパンで状況を捉えられている稀有な存在であると見ています。

ロシアとの間には懸案の北方領土問題は存在し続けますが、かといってロシアも日本を切り離して生き残ることは出来ず、また日本側も欧米諸国が主導する対ロ経済包囲網にフルには参加せず、表向きにはエネルギー供給の安定のためという理由を掲げつつ、ロシアとのつながりをキープしていますので、ロシアとしても日本を無視することは、今後の国際情勢を考えるにあたって不可能です。

ウクライナについては、日本の存在は、大口をたたく欧米諸国ほど目立たないものの、約束した支援はすでに完遂していますし、先述の通り、戦後復興の音頭を取る立場に立っていることから、中長期的なパートナーとなるため、ウクライナも日本からの働きかけに耳を傾けざるを得ません。

日本にこの大役を担う能力はあると信じますが、唯一残念なのが、この仲介を仕切ることができるリーダーが思いつかないことです。

ロシアとウクライナ双方に顔が効き、リーダーと直接協議出来るリーダーが思いつきません。ここは大きな課題として残るかなと思います。

(中略)

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印パ両国の緊張緩和にも大いに貢献できる日本

そして比較的近いところで緊張が高まるインドとパキスタンの紛争ですが、これについてもインドおよびパキスタンと、偏りのない友好関係を持ち、話し合いのチャンネルを持つ日本の立ち位置は、緊張の緩和に大いに貢献できると考えます。

カシミール地方の緊張緩和においては、当事国でもある中国の存在は大事な要素なのですが、中国は自らが利害を抱えているため、仲介の立場には向きません。

日本の場合、仮にインドとパキスタンの武力衝突が起きても即時に直接的な影響を受けませんし、カシミール地方に利害を有さない状況から、中立な第3者として調停を行うことが可能になります。

その際、大事なのは中国を無視しないことですが、上手に中国を巻き込みつつ、中国の顔を立てて功は取らせつつ、世界戦争前夜という危機を救ったというより大きな成果を実現する役割を果たすことができると考えます。

これらすべての役割を果たす十分なポテンシャルと素地は整っていると考えるのですが、先述の通り、これを執行できる人的なリーダーが不在なのではないかと懸念します。

現在進行形の3つの国際紛争どれをみても、実は日本は直接的な被害を受けることはありませんが、日本のグローバル化したサプライチェーンとエネルギーと食糧の確保という観点から、いかなる戦争の拡大も望ましくないことは確かですから、等間隔で距離を保ちつつ、直接的には関与しない方針という姿勢で守備を強化するのではなく、あえてアクティブに持てる力を存分に発揮して、世界平和に最前線で貢献してもらいたいと願っています。

日本がこれまでに行ってきた様々な国際貢献と戦後の行いを通じて築き上げてきた全世界的な信頼と親日感情、そして今でも経済大国であり、かつ数々のdisastersから立ち上がってきた復興のノウハウをすべてパッケージ化して動員すれば、解決は不可能と言われている紛争案件の解決と、崩れてしまった国際協調体制の復活に大いに貢献し、力を発揮できると私は信じています。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年5月23日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: 首相官邸

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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