報道では、時として重要な話題が軽く扱われ、わかりやすく消費しやすいニュースばかりが前面に押し出されます。このような現象を「パーキンソンの凡俗法則」と呼びます。メルマガ『在米14年&海外販路コンサルタント・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』の著者・大澤裕さんは今回、日本国内ではほとんど注目されていないけれど、海外メディアでは大きく報道されている円滑化協定を例に、今の報道が抱える課題について語っています。
パーキンソンの凡俗法則が当てはまる報道
「パーキンソンの凡俗法則」をご存じでしょうか?
「組織は些細な物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く」という法則です。
例を挙げます。
「原子力発電所の建設」と「自転車置き場の建設」を審議する委員会があったとします。
原子炉の建設計画は、巨大な費用が必要です。しかし技術が複雑であるため一般の人には理解できません。
それで一般の人は、委員会の専門家は理解しているのだろうと思いこみ、口を出さないのです。審議はスムーズに進み、大きな建設計画は了承されます。
しかし自転車置き場の建設は組織の全員が理解できます。
どの場所に、どれぐらいの規模で、どのような色で、建設するかなど、誰でも口を挟めます。議論は紛糾して、長く審議が続きます。小さな自転車置き場の話なのにです。
今の報道もそれに似ています。
分かりやすい話がメインになります。
TVもウェブ報道も同じです。視聴率が稼げてクリックされる話が取り上げられます。
重要でも分かりにくい話はサラっと触れられるだけです。
この傾向はますます強くなってきています。
閑話休題。
本日の話題は、日本とフィリピンの準軍事同盟「円滑化協定(RAA)」が6月6日の国会で正式に承認されたことです。
6月6日の岩谷外務大臣の記者会見では、サラっと重要案件ではないように触れられています。そのユーチューブ動画の視聴者も数えるほどです。
しかし、海外から見るとそうではありません。
例えば、韓国中央日報日本版はコラムで「アジア版NATOに向けて動き出した米国と日本」と取り上げています。
記事抜粋
アジア版NATOに動き出した米国、日本…オーストラリア・フィリピン加勢
中国によるインド太平洋地域の安保脅威に対抗してアジア版NATO創設の動きが本格化している。
「アジアにNATOのような集団的防衛機構がなければ戦争が起こる可能性が高い」という石破茂首相の日本が主導し、米国が後押しする状況だ。
ここにフィリピンとオーストラリアが加勢した。
現在のところ仮称「太平洋防衛条約(Pacific Defense Pact)」と呼ばれるこのアジア版NATOには、中国の安保脅威を最も強く感じる3カ国(日本、フィリピン、オーストラリア)と米国が初期メンバーになると予想される。
解説
日本政府の説明は「円滑化協定(RAA)は、自衛隊とフィリピン軍が、共同訓練を行う際の取り決めである。災害支援の際にも適用される」といった平和的な説明です。
しかし、海外の見方は違います。世界の枠組みを変える重要な軍事同盟への第一歩という見方です。
私は、この円滑化協定RAAに反対するものではありません。
しかし、日本の政府発表とその報道のされ方には違和感を持ちます。
重要な問題を、しっかりと報道してほしいと願うだけです。
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