かつて中国市場で『外資車の王者』として君臨していたフォルクスワーゲン(VW)のEVが、今や「ダサい外資合弁EV」と揶揄されるまでに評価を落としているようです。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では、信頼と技術でリードしてきたグローバルメーカーが、地場勢の急進に直面しながら見せる軌跡を追っています。
独VWのEVが中国でダサくなった!トヨタbZの巻き返し実現へ?
かつて「ドイツ車=品質と信頼の象徴」として中国市場でも厚い支持を得ていたフォルクスワーゲン(VW)。
それはガソリン車では今も健在の面もあるが、新エネルギー車(NEV)においては、大きく揺らいでいる。
VWは外資勢の中国王者(BYD台頭以前は外資に限らず王者)として、電動化の波を受け、中国でも2021年9月という、日系ではまだ市販車一台もないという早い段階で、EVシリーズ「ID.」を展開してきた。
それから今まで、さすがVWと呼べる販売実績を残したこともあったが、2025年になり、急激に売れなくなった。
中国でダサいEVを指す「外資合弁EV」の典型例にすらなり下がっている。
何が起きているのか。そして、それに相反して、トヨタのEVシリーズ「bZ」が中国でも根付き始めている。
グローバルOEMの両雄の中国における現在地とは。
外資合弁EVとは?
中国のEVユーザーの間で広く使われている外資合弁EVという言葉は、かつての外資系メーカー(VW、トヨタ、ホンダ、GMなど)が、現地合弁会社とともに開発・販売するEVを指す。
しかしこの呼称には、「古臭い設計」「高いだけで機能が劣る」「スマート化が遅れている」といった揶揄のニュアンスが強く含まれている。
つまり、テスラや蔚来(NIO)、小鵬(XPeng)、BYDなど、中国発のスマートEVが急成長するなかで“蚊帳の外”に置かれてしまった旧世代EVたちへの、冷ややかな評価だった。
VW ID.シリーズとは?
VW ID.シリーズには、コンパクトHB「ID.3」、コンパクトSUV「ID.4」、中大型SUV「ID.6」などが展開されている。
さすがのVWもこの分野当初は苦戦し、2021年~2022年は低空飛行が続いたが、ラインナップがそろってきた2023年、7月にはシリーズ月販1万台を突破した。
月販1万台は、中国においてブランド生存ライン。ID.もようやくその水準に到達したことになる。
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一時は月販2.4万台も、急落
2023年12月にはピークとなる月販2.4万台を達成、外資勢のEVとして、当時の水準であれば十分な成功例と言えた。
それ以降も、春節などの季節変動で月販1万台を割れることはあったものの、2024年12月まで、月販1万台を確保してきた。
2025年は1,2月、春節もあったりで、それぞれ月販6000台にとどまったが、3月には月販1万台を回復。
このまま進むかと思われたが、4月、5月ともにそれぞれ8000台弱にとどまった。前月比において、実は2024年9月からずっと、マイナス成長が続いている状況だ。
急落原因は明確
もう往時の勢いは無いのが明確。その原因は主に三つに集約される。
第一に、製品力の劣化である。モデルチェンジを繰り返すたびに航続距離が伸びるどころか短くなり、装備も削減されるという退化が起こっている。
第二に、スマート化・ローカル適応の遅れがある。インフォテインメントシステムや音声アシスタント、運転支援機能の進化は中国ローカルブランドに大きく劣り、「退屈な欧州車」との評価が定着してしまった。
第三に、価格と価値の乖離である。ID.4など主力モデルは依然20万元(約400万円)前後に位置しながら、同価格帯ではBYDやXpengなどが航続・装備ともに圧倒的に優れる車種を提供している。
トヨタbZは失敗からの出発
対照的に、トヨタのbZシリーズは「失敗からの修正力」で存在感を高めたと言える。
初期モデルのbZ4Xは中国において明確な失敗作であり、売れ行きも芳しくなかった。
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bZスマート化急加速
しかしトヨタは早々にこの状況を見切り、一汽トヨタがBYDの電動パワートレインと電池技術を採用したbZ3を投入。
2023年後半以降、月販数千台規模で安定して販売され、bZシリーズの再出発の足場となった。
そして2025年、広汽トヨタからbZ3X、一汽トヨタからbZ5が登場。
これらはともに10万元台という中国の主力価格帯に設定されており、現地のスマート化トレンドにもきちんと対応している。
爆発的ヒットには至っていないものの、bZ3XとbZ5は“普通に売れている”という堅実なポジションを確保しつつある。
bZが一時、ID.を上回る
2025年4月、中国におけるVW ID.とトヨタbZの販売台数は瞬間的ながら逆転、トヨタbZの月販は8000台を超えた。
5月にはまたVW ID.が盛り返したものの、近接はしている。販売曲線の傾きから見て、2025年後半にはbZがID.を確実に上回ると予想される。
特にbZ3XとbZ5は、中国ローカルブランドと同等の価格・機能に加えて、トヨタブランドの信頼性という「武器」を保持している点で、ID.とは明らかに対照的な立ち位置にある。
先行者VWを射程に
トヨタは近年、年間世界販売台数でVWを上回ることが続いているものの、こと中国においては、VWの後塵を拝している、という意識が強い。
BEVでもVWに先行されたが、今ここにきて、両者のBEVの評価が販売台数という形で、中国で逆転しようとしている可能性がある。
出典: 中国の販売データ及び、中国現地の評価をもとに構成
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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