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EVと同じ流れになるのか。他国が批判ばかりしている間に中国が世界を席巻しかねないヒューマノイド・ロボット市場

様々な分野で日本を大きく引き離し、今やアメリカと対等に張り合うまでの大国化を果たした中国。そんな隣国の後塵を、またも日本は拝すことになりかねないのが現状のようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、中国のヒューマノイド・ロボット開発の現場を訪れた際に感じざるを得なかった「日本の存在感の低下」を記すとともに、今後のロボット市場の展開を予測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:中国、EVの次はヒューマノイド・ロボットへの殺到となるのか 生産現場を覗いてみた

ヒューマノイド・ロボット市場でも完敗か。すでに量産体制に入った中国に太刀打ちできなくなる日本

もう10年以上前のことだろうか。

政治家の主催する勉強会に出席したときに、話題が「次の時代の日本の強みをどう確保するのか」になった。そのとき真っ先に名前が挙がったのが、環境技術とロボットだった。対中国でも、まだまだ強みが生かせると。

8月中旬に中国を訪れ、その時のことを思い出した。

当時はまだ、ロボットといえば産業用に限定された作業ロボットで、日本の存在感は確かに大きかった。

だが、上海市と蘇州市を回り、実際に先端メーカーを訪れた印象は、そうした現場では日本の存在感はもはや薄らいでいるというものだ。

それはロボットという言葉が、従来の生産ラインの一部からヒューマノイド・ロボットを指す言葉に変化し、「炭素VSシリコン」の分野が脚光を浴びる時代になったからだ。

技術の中心も工学からAI(人工知能)へとシフトしてしまった。

中国のメーカーがヒューマノイド・ロボットの未来で、圧倒的な自信をもっているのは、AI技術に裏付けされている。

まるで内燃機関で比肩する者がないほど先行した日本やドイツが、いまや中国のAI技術無しでは車(EV)が造れなくなった現状とオーバーラップするようだ。

中国国内の雰囲気もロボット生産へのシフトが顕著に起きている。

8月6日の中国中央電視台(CCTV)『新聞聯播』は、14日に北京で開幕した「2025年世界ヒューマノイド・ロボット運動会」に絡んだ特集のなかで、以下のように伝えている。

<わが国の上半期の工業用ロボットの生産量は対前年比で35.6%の伸びとなり、サービス用ロボットの生産量は同じく25.52%で、それぞれ大きく伸びました。

ロボット生産に従事する企業はいま全国で93万社となり、そのうち10万社あまりが今年の上半期に設立されていて、対前年比で45%増ともなっています。>

流行りの分野に殺到して過当競争が生み出される──。まさに中国の宿痾ともいえる現象が始まったというマイナスなイメージも付きまとうが、その一方では、この混沌から抜け出した企業が、第二の華為技術(ファーウェイ)や電気自動車(EV)におけるBYDになってゆくという流れも同時に予測されるのが、中国という国の一つの特徴だろう。

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「明日のファーウェイやBYD」ともささやかれる企業の開発現場

今回、私が訪れた上海智元新創技術(AGIBOT)は、上海に拠点を置くヒューマノイド・ロボット開発企業のリーディング・カンパニーで、明日のファーウェイやBYDに近いともささやかれる企業だ。

私がAGIBOTを訪れた日から5日後の18日、正式にロボットの販売を開始した。

AGIBOTが最初に国内で大きな注目を集めたのは昨年12月。同社が生産するヒューマノイド・ロボットが「量産態勢に入った」と発表したからだ。

23年2月に設立された同社は、そのわずか半年後の8月に第1世代の汎用型ロボットのプロトタイプ「遠征1号」を披露して注目された。そして前述のように18日からネットでの販売を開始した。

会社設立から販売に至るまでのスピード感にはただただ驚かされる。

AGIBOTの研究開発の現場では、およそ「出勤」というイメージとは程遠いラフな服装の若い男女が、体育館ほどの広さに数十台置かれたヒューマノイド・ロボットの脇にそれぞれ寄り添い、ただひたすら同じ作業を繰り返していた。

仕切られた別の作業場では、夥しい数のノート・パソコンと向き合いながら、やはりTシャツ姿の若い研究者たちがせわしくキーボードを叩き続けている。

実際に目で見たロボットの仕事ぶりは、例えばTシャツを折り畳むという作業では、人間がリモートで操作しているのだが、その作業の完成度は毎回違い、また成功後の仕上がりも一定ではなかった。

「こうした作業を繰り返したなかから成功したケースをデータとして蓄積、それを動きごとに細分化し、そのデータをロボットに学習させることで精度を高めてゆくのです。とても手間のかかる作業ですが、ロボットの良いところは一つのロボットが一度できるようになれば、どのロボットも同じことができるようになるとい効率の良さなんです」(関係者)

前述した「2025年世界ヒューマノイド・ロボット運動会」が北京で行われる少し前、同じ北京の経済技術開発区(亦荘)で「2025世界ロボット大会」が開催されていた。

その大会には中国国内外のロボットメーカー220社が集まり、期間中、ロボット及び関連商品の販売台数は1万9,000台に上り、売上高も2億元(1元は約20円、約40億円)以上に達したという。

もちろんヒューマノイド・ロボットの現状には課題も多い。しかしEVの時と同じように「航続距離が」「寒冷地では」「価格が」などと批判している間に、いつのまにか中国勢は市場を席巻してしまうのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年8月17日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)

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image by: Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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