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「わたしたちの」という言葉に込めた願い。芸術と対話に見る共鳴の力を知ろう

やさしい絵に触れたときや音楽のハーモニーを聞いたとき、あるいは誰かと心を通わせたとき、胸の中に共鳴が起こる瞬間があるとメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは語ります。今回の記事では、引地さんの著書『わたしたちのケアメディア─誰もが生きやすい社会のコミュニケーション』に込めた共鳴する社会への願いについて紹介しています。

やさしい絵と「わたしたちの」に込めた共鳴すること

9月2日に刊行される拙著『わたしたちのケアメディア─誰もが生きやすい社会のコミュニケーション』(晶文社)の表紙にはイラストレーターの春日井さゆりさんの「底の花」が描かれている。

8月中旬に東京・表参道で行われていた個展で展示された作品には、淡い色合いで描かれたモチーフが現実と空想の狭間に揺らぎながら、何か痛いところにすっと入ってくようなしなやかなやさしさがある。

作品の持つ雰囲気と、拙著のテーマである「ケア」の持つ響きが共鳴したことで、編集者の提案により表紙を飾っていただくことになった。

この共鳴し合うこと、思いを響き合わせることの、嬉しさをかみしめながら、ギャラリーでは一人でほくそ笑みながら、その作品の数々に見入っていた。

さて、この共鳴し合うという行為に、私は惹かれているから目につくのか、社会がそれを求めているのか、メディアの中で演出された「共鳴」は多い。
しかし、心の底から幸福感を味わえるような瞬間はそんなに多くはない。

特にバラエティ番組やトーク番組で演出された会話はどこかよそよそしい共鳴が強調されているようで、心にすっと入ってこない。

一方で、音の共鳴を極限まで引き出そうとする交響曲の演奏にはぐっと心をつかまれる。

真剣に演出されたもの、偶然に成り立ってしまうもの、どちらも美しい共鳴となって伝わるから面白い。

さらに音楽としての人の声によるハーモニーも美しい。

数人の声の音の高さを変えて、同じフレーズを歌うことで、心を包まれるような感覚になるのは、声の共鳴が心に響くのと同時に引き込まれてしまう感覚になる。

夏の浜辺に流れる米国のビーチボーイズの楽曲の多くは、彼らの初期の作品群でハーモニーの美しさが強調されている。

「サーフィンUSA」「サーファーガール」「サーフィンサファリ」など。1960年代初めの米国のカルフォルニアにいた若者のはじけるような陽気さを表現したこれらの楽曲は、豊かなハーモニーに装飾されて「アメリカの豊かさ」の象徴にもなった。

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そんなイメージと相対し、ビーチボーイズの内実は苦悩がつきまとう。

マネジャー役を買って出たメンバー3人の父親の横暴、リーダーのブライアン・ウイルソンの精神的な病状やメンバーの麻薬、権利をめぐる争い。

知れば知るほど、混乱を極めるバンド内のいざこざではあるが、不思議とこのグループは解散はしない。

そして、5人のメンバーのうち今年、3人目が亡くなった。

しかし、ハーモニーは今も色褪せない。

それはどこか、世界が硬直化する中で、人を賛美するような響きを伴い、輝きが増しているようにも思う。

こんな話を展開したのは、共鳴に関する普遍的な価値を共有したいのが、拙著の論点でもあるから。

表題の「わたしたちの」に込めたのは、共鳴する社会、コミュニケーションを作っていきたいからである。

最近では対話調整の一環として、みんなの大学校の研究部門であるケアメディアラボの大内雅登・主任研究員が「共在対話」との考えを説いている。

これは「他者の語りを導き出すための問いを持ち寄りながら、正解を前提とせず、評価を保留しつつ、関係そのものを立ち上げていく実践」との定義である。

それは共鳴ではあるのだけれども、正解を前提としないことが重要なのだろう。

そう、交響曲もビーチボーイズも、そして個人同士の対話も、その瞬間のハーモニーの美しさに感動していくことが大切。

ここからまた新たな共鳴が始まっていくのである。

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image by: Shutterstock.com

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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