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トランプ上機嫌と高市ぴょんぴょんに焦った習近平。隣国が急きょ「日中首脳会談」に応じたウラ事情

日米首脳会談ではトランプ大統領を上機嫌にし、日中首脳会談でも習近平国家主席相手に落ち着いた対応を見せた高市早苗首相。外交デビューとしては「上出来」な滑り出しと評価する声も多く上がっていますが、その裏には思わぬ追い風があったようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「高市外交」が順調なスタートを切った背景を分析。さらに米中の狭間に立つ我が国の現実を解説するとともに、日本政府に課されている今後の課題を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市流「媚態外交」が上々のスタートを切った真の理由

歴代の首相を凌駕。高市流「媚態外交」が上々のスタートを切った真の理由

物おじせず、外国の首脳の懐に笑顔で飛び込んでいく日本の女性首相。初めて見る光景に新鮮な気分を味わった国民は多いだろう。外交デビューを無事終えた高市早苗首相への期待感は、これから“試練の国会”が本格化するにもかかわらず、異常に高い。

韓国・慶州における高市首相と習近平国家主席の日中首脳会談を日本側が持ちかけたとき、中国側は色よい返事をしなかったという。対中タカ派的な高市氏の政治姿勢を警戒していたためだ。首相就任の祝電を送ったかどうかすらわからない。

ところが、ある時点から中国側が軟化した。高市首相とトランプ米大統領の日米首脳会談の成り行きを見て、影響されたためだ。

印象的な写真がある。トランプ氏が日米首脳会談を終え、韓国に出発した10月29日、インスタグラムに投稿したものだ。迎賓館でトランプ氏を見送るさい、高市氏がトランプ氏と腕を組み、階段を降りている。幸せそうな笑顔を浮かべる高市氏。映画のワンシーンのようだ。

image by: Instagram(realdonaldtrump

原子力空母「ジョージワシントン」で繰り広げられた光景は、中国にとってさらに刺激的だった。あまたの在日米兵が見守るなか、演説中のトランプ氏が高市氏をかたわらに呼び寄せると、高市氏は笑顔をふりまいてこぶしを突き上げた。トランプ氏が高市氏の肩に手をまわし、「日本で初の女性首相だ」と叫ぶと、大歓声に応えるように高市氏はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねてみせた。

「今や日米は世界で最も偉大な同盟になった」と高市氏。「米日関係がこれまでにないほど強固なものになるだろう」とトランプ氏。首脳会談におけるこのやりとりを北京が気にならないはずはない。

かりにトランプ氏が高市氏に冷淡だったら、「日米関係にすきまがある」と読み取り、さらなる「分断工作」で日本に“揺さぶり”をかける好機と見る。しかし、トランプ氏は終始、上機嫌だった。「日米は緊密だ」というメッセージを感じ取った中国は日本との関係を安定化させる方向に動いた。すなわち日中首脳会談の了承である。

習近平政権は今、国内の急激な経済減速に直面している。米国主導の「対中デカップリング」への警戒感は強い。トランプ関税をめぐって米中貿易戦争の様相を呈しているのも周知の通り。

こういう状況下で、日本を遠ざけて「四面楚歌」になるのは避けたいシナリオだ。だからこそ、石破政権との付き合いにおいては、水産物の輸入を一部再開するなど、日本との関係維持をはかってきた。

対中強硬派、親台湾派である高市氏の登場はむろん気にくわない。自民党の総裁に就任した直後、高市氏は中国共産党の人種的弾圧を批判し、日台関係の重要性を訴えていた。首相になってからタカ派的発言は鳴りを潜めたが、警戒を怠るわけにはいかない。

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高市氏のふるまいに野党から吹き荒れた「批判の嵐」

肝心なのは、日本が完全に米国についてしまわないようにすることだ。日本も中国依存の経済から脱け出せない弱みがある。いかに高市氏でも、のっけから強硬姿勢ではこないだろう。その証拠に、靖国神社の秋季例大祭に合わせた参拝を見送っている。

習近平氏はぎりぎりになって首脳会談の開催を了承した。日本のメディアは、高市首相が所信表明演説で「重要な隣国」と述べたのを中国側が評価したという理由をあげた。

両国間にはかつて日本の駐中国大使が編み出した「戦略的互恵関係」という便利な言葉がある。色々な問題があっても、経済などで互いに利益があればいいじゃないか。会談はまさにその考え方をベースに淡々と進んだ。両首脳の顔合わせが目的であり、結論は必要ない。

会談後に高市首相は、東シナ海での中国の海洋進出、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題について懸念を伝えたと記者団に語ったが、むろん取り立ててそれらを問題にしたということではない。中国側、日本側ともにかねてからの懸念点を羅列しただけのこと。だから何事も起こらなかった。

それでも不思議というか面白いことに、韓国で“早苗人気”が高まっていると韓国の人気ユーチューバーが発信している。米政府が「日米韓」の安全保障体制を重視しているせいもあるだろうが、習近平氏に臆することなく言うべきことを言ったと評価されているそうである。韓国嫌いのネトウヨ諸氏に支持される高市氏を賛美したくなるほど、韓国のイ・ジェミョン大統領は習近平氏にモノを言えないということだろうか。

それにしても高市首相があんなにパフォーマンス上手だとは思わなかった。トランプ氏や米軍の兵士に対しては、ロックスターのような乗りでアピールし、テレビカメラの入らないAPECの控室で習近平氏と会った時には、節度のある笑顔で習氏の柔らかな表情を誘い出した。交渉上手かどうかはまだわからないが、今はやりの“コミュ力”においては歴代の首相を凌駕しているといえそうだ。

むろん、こんな高市氏のふるまいに野党からは批判の嵐が吹き荒れる。かつて国連職員をつとめた立憲民主党の田島麻衣子参院議員はX(旧ツイッター)で、こうコメントした。

主催国(日本)のトップが、来賓にエスコートされるのは「立場の逆転」。そしてこの身体接触の濃さは異常。対等な国家同士、公的場面ではあり得ません。手も強く引き寄せ、一歩間違えば頬を引っ叩かれて良いレベル。

首相官邸は、この動画を出す事が、日本の国益に叶うと、本当に信じているのだろうか。

この意見はもちろん理解できる。潔癖な田島議員には許せないことだろう。しかし、相手はトランプ氏である。何事も気分しだいの因業爺さんである。まともにぶつかっても効果はない。“ジジ殺し”の技を繰り出すのも戦略だし、高市氏にはそういうスキルが備わっていそうだ。

しかも、なりたての総理だ。初の女性宰相だ。“おっさん”たちにできなかったことをやってくれるのでは。そんな期待感が大きい。ここしばらくは、お手並みをとくと拝見しようではないか。

米国と中国は、強大な軍事力を背景に、おたがい威嚇外交を繰り広げている。中国の圧迫を受け、防衛を米国に依存する日本の高市首相にすれば、トランプ大統領にすり寄り、味方にしておくほか仕方がないのも現実だ。独立国として情けないが、弱い立場でも、それなりにトランプ氏を操縦する賢いやり方はあるだろう。トランプ政権が経済ナショナリズムに走るほど、技術的パートナーとしての日本の存在価値は増しているはずである。そこを冷静に見据えて次の戦略を立てればいい。

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高市氏に期待したい義理人情の「オッサン政治」の抑え込み

高市首相が無難に外交デビューを飾った背景には、“時の利”というものもある。トランプ氏も習近平氏も国内の深刻な事情をかかえており、日本の力を必要としているのだ。

周知の通り、2026年秋に米連邦議会の中間選挙をひかえるトランプ大統領は「国内製造業」の復活を政策の中心に掲げている。その意味で、トヨタなど日本の代表的企業を米国への投資に呼び込むことは重要な政治的成果となる。今回、アメリカ大使公邸の夕食会で日本の経済界トップらと懇談した風景は、米国内へ向けて大きなアピールとなったはずだ。

一方の習近平氏も、不動産不況・失業率上昇・外資撤退の三重苦に直面している。日本企業の存在はまだまだ大きい。国家主席3期目に入って以降、習氏は権力をさらに集中させようとしたが、実際には経済失政などによって求心力が低下しているといわれる。だからこそ、外交舞台での成果が欲しいのである。

こうした背景のもと、高市外交は順調に滑り出したように見える。しかし、緊張感高まる米中の狭間にあって、いかに経済安全保障を確保するため荒波を乗り越えていくか。高市首相には大きな期待と重圧がのしかかる。

同時期に行われた米中首脳会談。注目されたのは、トランプ大統領の高関税政策に対抗して中国が打ち出した「レアアース」の輸出規制問題だった。

電気自動車、風力発電機、スマートフォン、そして防衛装備。これら先端産業を支える“見えざる資源”がレアアースだ。米国にもカリフォルニア州マウンテンパス鉱山という大鉱床があるが、問題は精製技術がなく、中国に依存していることだ。

米側が20%の追加関税を10%引き下げる譲歩案を示したため、中国側はレアアースの輸出規制を引っ込めたが、今後もことあるごとに中国はレアアースを外交上の武器として使ってくるだろう。

世界のレアアース精製の約8割を独占している中国が“制裁”の名目で日本への輸出を止めれば、日本のハイテク産業は一瞬で立ち往生する。“新冷戦”の時代にあって、経済安全保障戦略が大切であることは担当大臣をつとめたことのある高市首相が誰より深く認識しているはずだ。

南鳥島周辺の海域には、世界最高品位の「レアアース泥」が豊富に分布している。海底の泥からレアアースを分離するプロセスはまだ研究段階だが、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)と東京大学の手で、2028年前後を目標に採掘実験が予定されている。決して、はるか未来の夢物語ではない。防衛費の増額もいいが、こういうところに惜しまず予算をつけてほしいものである。

高市政権が発足して半月あまり。これまでのところ、高市氏の発言は概ね穏当、適切であり、極端な思想性は見られない。全体のバランスをはかるべき首相として、ひとまず持ち前の保守思想を封印しているのかもしれない。

だが、早くも連立相手の日本維新の会で、藤田文武共同代表の公金還流疑惑が持ち上がり、創設者の橋下徹氏がSNSで批判を展開、ただでさえ内紛の起こりやすい維新の体質を刺激している。連想で自民党の裏金問題にも再び火がつきそうな気配だ。

不安定な政治状況のなかで、少数与党の高市政権が生き延びるには「政治とカネ」の問題も避けては通れない。だが、旧安倍派に気を遣い、いわゆる“裏金議員”7人を副大臣、政務官に登用するなど、問題解決に消極的な姿勢が目立つ。党内力学を優先したと見られても仕方がないだろう。

義理人情の“オッサン政治”を抑え込み、「女の一本気」であらゆるシガラミを断ち切ってもらいたいものだが、果たして…。

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image by: X(@首相官邸

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