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日本が警戒する「台湾有事」との決定的なズレ。中国の「軍事演習」が突きつけた厳しい現実と米国の「冷徹な計算」

2025年末に中国軍が台湾を取り囲む形で実施し、日本でも大きく報道された「正義使命‐2025」なる軍事演習。大規模に展開された当演習は、どのような意図を示しているのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、さまざまな要素を手がかりに中国が発したメッセージを分析。その上で、「今日のウクライナは明日の台湾」という言葉すら現実に追いついていない可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:2025年末の中国軍事演習が発したメッセージとは

2025年末の中国軍事演習が発したメッセージとは

アメリカの権威ある外交誌『Foreign Policy』(FP)が2017年以降毎年出してきた年始企画、「トップ・グローバル・リスク」が今年も発表された。

タイトルは「混沌の時代へようこそ」である。

アジアの視点から見る「リスク」とはまた一味違った項目が列挙されていることも多く、興味深いランキングだ。

ちなみに、今年のトップ・ファイブを並べてみると、以下のようになる。

  1. トランプ経済の泥沼
  2. 秩序の崩壊
  3. アメリカの西半球への軸足移動
  4. 第三の核の時代
  5. Z世代の反乱

ちなみに、第9位に「人工知能:偉大なる破壊者」というのが入っているのは時代を象徴しているのかもしれない。

どうだろう。やはり、日本人からすれば「あれっ?」となるランキングだったのではないだろうか。

何といっても、日本であれだけ大騒ぎになっている「台湾海峡危機」が入っていない。また、もはや新しい危機とは位置付けられていないのか、ウクライナもガザも入っていない。

さらに朝鮮半島だ。5位までには入っていない。「第三の核の時代」に含まれという話なのかもしれないが、本文でスポットライトが当てられているのはイランの核問題である。

アメリカのアジアへの関心の薄さを反映しているのだろうが、だとしても日本人として釈然としないのは台湾海峡危機の扱いだろう。

昨秋には、高市早苗新首相の台湾問題に絡んだ国会での答弁をめぐり、日中関係は一気に冷え込んだ。

日中の対立は年を越すどころか、かなり長期化するとの予測も出ている。

また米中の接近やアメリカから台湾への武器売却、そして頼清徳・民進党が「台湾独立」に向けた言動を繰り返すたびに大規模に展開される軍事演習も、日本人の記憶には新しい。

実際、2025年末(12月29日から)には台湾をぐるりと取り囲んだ大規模軍事演習「正義使命‐2025」が行われたばかりだ。

この演習は、トランプ政権による過去最大規模の台湾への武器売却への反発を目的としたものとされている。

台湾への武器の売却は総額約111億ドル(約1兆7,000億円)にも上った。

中国の軍事演習「正義使命‐2025」は、台湾独立派の動きに対するけん制と、外部勢力の介入を阻止することだと説明されている。

中国人民解放軍東部戦区が中心となり、陸海空、ロケット軍などの兵力が動員された演習は、台湾海峡、台湾島の北部、南西部、南東部、東部の海域で実施された。

今回の「正義使命‐2025」の特徴は、圧倒的な装備と作戦能力を見せつけることにあるとされた。

ドローンをはじめとした無人兵器の質と量。宇宙との連携を含めてスキのない攻撃を大きなテーマとしていた。

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軍事演習を解説したCCTVのある番組では、「演習を重ねるごとに台湾島にどんどん近づいている」ことも指摘された。

演習後、中台のネットで大きな話題となったのは、中国軍の無人機のカメラがとらえたとされる台湾のシンボル、「台北101」の映像だった。

「台北101」は、101階建ての高層ビルで、かつては世界一高いビルと呼ばれた。無人機のカメラがそれをとらえたということは「このランドマークはいつでも攻撃可能」というメッセージとなる。

中国側が「台北101」の映像を公開した直後から、台湾のネットでは、「フェイク」「AI生成画像」との書き込みがあふれたのも無理からぬことだろう。

私はこの論争に興味はないが、中台の応酬が象徴しているように、アメリカが背後にいようといまいと、もはや台湾側の守勢はどうにも覆せないようなのだ。

とくに今回、中国側の強い反発を招いた台湾への武器売却と重ねて考えると、その傾向は顕著である。

米誌『ニューズ・ウィーク』は、記事「トランプ政権、台湾に「約111億ドル」の武器売却承認──「安定化」のはずが…米中に火種?」の中で、兵器の内訳を〈高機動ロケット砲システム(HIMARS)とM109自走榴弾砲で各40億ドル以上、対戦車ミサイルのジャベリンやTOWなどで7億ドル以上などが含まれる〉と報じている。

何か聞き覚えのある名前が並んでいると感じるのは当然で、ウクライナにも大量に供与されてきた武器と重なるからだ。

以前であれば戦闘機F-16などが話題の中心であったが、今回は違う。

その理由を『ニューズ・ウィーク』は、〈武器の携行式、小型化、低コスト化を進めて「非対称戦」能力開発を求めている〉と解説している。

しつこく繰り返せば、「非対称戦」の能力開発のための武器の小型化なのだ。

この意図をさらに少しわかりやすく解説すれば、「(中国が)侵攻すれば、代償を払わせる」というメッセージだ。

つまり、侵攻を跳ね返し、阻むというものではなく、まして撃退のための武器ではない。持ちこたえることや相手に少しでもダメージを想像させることが目的だ。

今日のウクライナは明日の台湾どころの話でもなくなっているようなのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年1月4日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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