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「今が支持率のピークかもしれぬ」高市首相を“大義なき衆院冒頭解散”へと駆り立てた不安と焦燥

国民が正月気分から抜け切ろうかというタイミングで突如として飛び込んできた、通常国会冒頭での衆院解散という情報。なぜ高市首相は「伝家の宝刀」を抜く決断を下したのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、早期解散をめぐる政権中枢の動きと水面下の力学を解説。その上で、党利党略と自己都合が色濃くにじむ「サナエ流解散」の舞台裏と、政権が抱え込む不安定要因について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:サナエ流自己都合解散の舞台裏

今が国民の信を問うタイミングなのか。サナエ流自己都合解散の舞台裏

やっぱり、伝家の宝刀を抜く誘惑には勝てないのか。高市首相は通常国会の冒頭で「衆院解散」を断行するようだ。

読売新聞が1月9日深夜のオンライン版と翌日の朝刊一面で、こんなスクープ記事を掲載した。

高市首相(自民党総裁)は9日、23日召集が予定される通常国会の冒頭で衆院を解散する検討に入った。衆院選は2月上中旬に実施される公算が大きい。

首相の退陣と衆院の解散はメディアにとって超ド級の特ダネだ。「検討に入った」というのではいささか腰が引けているが、なにしろ扱いがデカい。

むろん、通常国会での冒頭解散説は昨年来、永田町でまことしやかに流れていた。その意味では“新味”のない情報ではある。解散時期の「検討」はずっとしてきたことだろう。

だが、永田町の観測筋は、1月23日の召集という日程が決まった段階で、解散は新年度予算の成立が見込まれる3月末か、通常国会の会期末という見方を強めていた。

そこにあえて読売は、「冒頭解散」の予測記事を放った。よほど確実な情報源でもなければ、できない芸当といえた。常識的には高市首相本人か、その意を受けた人物しかあるまい。なにしろ、昨年7月の参院選後、石破首相の退陣をめぐって大誤報を飛ばした同紙としては、同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。

読売のスクープに対し、麻生副総裁、鈴木幹事長ら自民党幹部は「寝耳に水」と驚いて見せた。とぼけていたのかどうかはわからない。14日になって高市首相は鈴木幹事長や日本維新の会の吉村代表ら与党幹部と会談し、正式に「解散」の意向を伝える“儀式”をすませたが、自民党内には「準備が間に合わない」と反発する声も続出しているらしい。

自民党の萩生田光一幹事長代行は1月7日夜公開のインターネット番組で、解散時期についてこう語っていた。

「予算を成立させ、重要法案を執行し、通常国会を閉め、その後考えたらどうか」

「安定政権をつくるには連立拡大が必要だ。優先順位はこちらが先だ」

たしかに、物価高や経済政策など国民の気持ちに寄り添う政策を掲げてはいても、まだ「実績」に至っておらす、評価ができる段階ではない。だからいま「国民の信を問う」というのも、なんだかおかしい。新年度予算案を成立させ、満を持して「信を問う」のが王道であるには違いない。

読売の記事によると、昨年11月下旬、高市首相は「私が年明けに解散すると言ったら、どう思うか」と複数の自民党幹部に意見を求めていた。つまり、早期衆院解散はその時点で高市首相の頭にあったということだ。

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首相に早期の解散総選挙を決断させた国内外の要因

昨年11月に自民が極秘に行った情勢調査では、いま総選挙をすれば自民だけで260議席を超え、単独過半数を奪回できるとの結果が出ていた。「高い支持率のうちに信を問うのが得策だ」。党内で主戦論が盛り上がった。

自民党の山田宏副幹事長は昨年12月9日公開の「Web Voice」で、こう語っている。

「年初に通常国会を召集したら即解散すべきだと考えています。衆参いずれも過半数割れしている現在の状況で通常国会に臨むのは、日本の政治にとって得策ではありません。選挙を通じて自民と維新という連立政権への支持を得ることができれば、政治を前に進めやすくなる」

山田氏は総裁選で推薦人になるなど、高市首相の同志ともいえる保守派の政治家だ。むろん、早期解散を勧めてきた一人である。

支援者たちの期待が高まる中、高市首相が大いに迷ったであろうことは想像に難くない。政策を重視する自分が、党利党略、自己都合そのものといえる「七条解散」を強行していいものかどうか。少なくとも1月23日に通常国会を召集する日程を決めた昨年12月25日の段階では、決心がつかないままだったはずである。1月23日からだと、新年度予算を3月末の年度内に成立させるためには総選挙を行う時間的ゆとりがないからだ。

年末年始、高市首相は公邸にこもった。「今が支持率のピークかもしれない」という状況は、不安をかきたてる。通常国会がはじまると、野党は待ってましたとばかり統一教会問題や維新の「国保逃れ」を追及して、連立政権に揺さぶりをかけるにちがいない。

外交面でのショックも大きい。トランプ大統領が「モンロー主義」ならぬ「ドンロー主義」と称し、ベネズエラで軍事作戦を強行して石油利権を中国から奪回。中国やロシアの支配が及ばぬよう、デンマーク自治領のグリーンランドにも「領有」の食指を伸ばして、西半球(南北アメリカなど)だけは他国に触らせない体制を確立しようとしている。

トランプ大統領は米中を「G2」と呼び、招待に応じて4月に中国訪問を予定していることから、「高市首相はハシゴを外されるのでは」と心配する声さえ出ている。中国は日本向けレアアース輸出制限をちらつかせるなど高市政権攻撃をエスカレートさせており、米中会談の前に高市首相が訪米しトランプ大統領とどのような話をするかが、外交上の勝負どころとなるだろう。

このように考えると、一刻も早く総選挙を行って政権の基盤を固めておくのが得策という高市首相の思惑が透けて見えてくる。

高市首相の決断の背景にあるもう一つの問題点は、日本維新の会との連立の不安定さだ。維新は閣僚を出さず、衆院議員定数削減という難題を連立の絶対条件として押しつけてきている。いつ連立から飛び出さないとも限らないのだ。

社会保障改革を謳う維新の兵庫県議らが、本来は国民健康保険に加入すべき立場でありながら、仕事の実態のない一般社団法人の理事に就いて、国保より負担の少ない健康保険に乗り換えていた実態も、国民の怒りを買っている。

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読売記者に「解散の意向」をリークした人物の名

高市首相がもともと連立相手として望んでいたのは、国民民主党だ。「年収の壁」を178万円まで引き上げる国民民主の看板政策に合意し、新年度予算案の年度内成立に協力する約束までとりつけたのは、言うまでもなく自民・維新・国民の三党連立を実現するための布石であろう。

だが、全都道府県で候補者を擁立し「51議席」への倍増を目標とする国民民主は、容易に連立話に乗ってこない。連立に加われば、自民との候補者調整で擁立を断念せざるをえない選挙区も出てくる懸念があるからだ。むろん、支持母体である連合が反対している事情も大きい。

FNNプライムオンラインの報道によると、読売のスクープ記事が出る直前の1月9日午後、高市首相は赤坂の衆議院議員宿舎に入り、国民民主の玉木代表と会談したという。

玉木氏は「断じて会っていない」と言い、衆院解散については「経済後回し解散と言わざるを得ない。昨年12月の自民党との合意で、新年度予算案の年度内成立に協力するとしたが、前提が変ってくる」と強く批判した。

しかし、会談はあったのではないか、と筆者はにらんでいる。高市首相の目的は、再び連立入りを要請することだっただろう。自民・維新に国民民主が加われば、政権は安定する。あえて、当初予算の成立が遅れるリスクを冒してまで衆院を解散する必要はない。

玉木代表が首を縦に振らなかったため、高市首相は腹をくくったのではないか。解散総選挙に打って出て、自民単独過半数を狙うほかないと。だが、どうコトを運ぶか、高市首相にはノウハウがない。

ここで動いたのが安倍政権で首相秘書官をつとめ“影の総理”といわれた今井尚哉・内閣官房参与だといわれる。おそらく、高市首相から相談を受けた今井氏は知り合いの読売記者に「解散の意向」をリークし、記事による既成事実化をはかったのだろう。

すると、与野党の国会議員たちが慌てふためいてポスターの発注や事務所の確保に走り、他のメディアも読売に追随、総務省が各都道府県の選管に「衆院解散に伴う総選挙の執行について」と題した事務連絡をして、あっという間に日本列島は事実上の選挙モードに突入してしまった。

衆院選は1月27日公示、2月8日投開票になりそうだが、新年度予算の今年度内成立は難しく、暫定予算で対処することになってしまいそうだ。物価高対策に影響が出るのは避けられない。高市首相はどんな「大義」を掲げるのだろうか。

「Web Voice」のインタビュー記事で山田氏はこう語っていた。

「臨時国会で補正予算を通したあと、高市政権が打ち出している政策と維新との連立合意内容について国民の信を問いたいと呼びかければ、それは解散を決断するに十分な大義と言えるでしょう」

年度内の予算成立を犠牲にしてもなお十分な「大義」などありえない。だから、こういう取ってつけたようなものになる。高市首相がどれほど立派な「大義」を編み出すか、楽しみに待つとしよう。

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