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高市陣営「ネガキャン動画大作戦」の論功行賞で大臣補佐官に。文春砲が暴いた“SNS班責任者”の正体

猛スピードで普及し、人類の働き方から生活に至るまでのすべてを一変させたAI。そんなAIはまた、選挙戦の風景までをも大きく変える「脅威」ともなっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、週刊文春が報じた高市陣営のSNS戦略と、大臣補佐官人事との関係性を検証。さらにAIによるネガティブキャンペーンが、選挙や民主主義そのものに与えかねない影響について警鐘を鳴らしています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市陣営「ネガキャン動画作戦」のグロテスクな論功行賞

「SNSで他陣営を中傷」の張本人が「子供をSNSから守る」立場に。高市政権の国民を舐めきった“ブラックジョーク”的人事

3月21日の記者会見で、黄川田仁志こども政策担当大臣は、この日閣議決定された大臣補佐官の人事を発表した。

「私を補佐する大臣補佐官として、西田譲氏が任命されます。西田氏の知見を生かして、私の所管するこども政策等について、インターネット戦略をはじめとする広報の企画及び立案を補佐していただきたいと考えています」

この人事になにがしかの違和感を覚えたのであろう、二人の記者が質問した。

「広報の担当ということですが、大臣との御縁など、なぜそういった分野を所管するのか、もう少し詳しく」

「西田さんの経歴には、こども政策がなかったので、どういった知見がある方なのか、教えていただきたい」

西田譲氏は2012年12月の衆院選に日本維新の会から出馬し、比例復活で1期だけ衆院議員をつとめたが、その後は自民党比例単独候補として二度の落選を重ねている。この間、こども政策や広報にかかわる仕事をした経歴は見当たらない。

黄川田大臣は概ね、次のように答えた。

「かねてから、こども政策について広報を強化する必要があると考えていた」

「西田さんとは旧知の仲だ。議員も務められ、経歴には出てないが、こども家庭庁が発足してから関心を持ってきたということだ」

元衆院議員であり、旧知の仲である西田氏がこども家庭庁に関心を持っていた。それだけでは補佐官登用の十分な理由にはならない。黄川田大臣は説明を付け加えた。

「もともと彼と出会ったのは、SNSとかインターネットとかで、そういう方面が強い方なので、最初はそういう形で話していたんですが、こども政策等も関心があるということなので、人材としては適任かなと思いました」

「SNSに強い」。「こども政策に関心がある」。だから、補佐官として適任。とても、黄川田大臣のこの回答に記者たちが納得したとは思えないが、補佐官人事についての疑問が記事にされることはないまま、時が流れた。

西田氏と補佐官人事が脚光を浴びるに至ったのは、週刊文春5月21日号に掲載された「高市“ネガキャン動画大作戦”に大臣補佐官が参加していた」というタイトルの記事によってである。

記事はまず、高市陣営が昨年10月の自民党総裁選、今年2月の衆院選で、ライバル候補や野党を中傷する動画を作成、陣営の関与を隠し、「真実の政治」と名乗るアカウントなどを使用してSNSで拡散していたことに言及する。

現在、その動画は削除され、見ることはできないが、例えば以下のように煽り立てる内容だという。

小泉進次郎氏を

カンペで炎上!無能で炎上!ボロが出まくって大炎上!!

林芳正氏を

政界の119さん あなたがピーポーピーポーなんですけどぉーーw

こうした一連のネガキャンを牽引したのが、高市事務所の木下剛志公設第一秘書で、総裁選の途中からは、AI分野に造詣の深い起業家の松井健氏にも依頼。松井氏は「1日100~200本、YouTube、インスタグラムなど複数のSNSに投稿していた」と証言している。

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文春砲が暴き出した「さらなる重大な事実」の内容

これはどういうことなのだろうか。文春が入手した木下秘書と松井氏のメッセージ記録などから、次のようなやりとりがあったことがわかっている。

木下秘書は「真実の政治」の動画について、総裁選期間中の昨年9月26日、「これからアップしてアカウントを送付いたします」と松井氏に伝えた。

想像するに、こういうことだろう。木下秘書は手持ちの写真などの素材を使い、「真実の政治」アカウントで投稿をスタートさせていたが、昨年9月26日に「これからアップしてアカウントを送付」というメッセージとともに、素材データとアカウントの管理権限を松井氏に引き渡した。

それを受け取った松井氏は、自身のAI技術をフル稼働させ、「真実の政治」だけでなく、YouTube、インスタ、TikTokなど複数のSNSアカウントへ、1日100~200本という、人力では不可能な規模でネガキャン動画を自動量産・大拡散させ、世論をハックしていった。

記事には他に以下のような記述がある。

木下秘書は「真実の政治」の動画内で使った画像の“元データ”を松井氏に送付していた。高市陣営が動画の作成・拡散を主体的に行っていたことを示している。

衆院選でも木下秘書は、馬淵澄夫氏、安住淳氏ら、中道候補への中傷を具体的に依頼。投開票後には「旧立憲民主の害虫をたくさん駆除することができました」と、松井氏に送信した。

高市陣営が主体的にSNSでの誹謗中傷動画作戦を実行していたのは確実だと文春は指摘する。高市氏が自民党総裁になり、首相にのぼりつめたのも、衆院選で歴史的な大勝利をおさめたのも、このような裏工作の成果なのかと思うと、空恐ろしい。

そして、木下秘書と松井氏が総裁選告示の2日後に交わしたショートメールから、文春砲はさらなる重大な事実を暴き出す。

まず、松井氏が「明日21時~Zoomミーティングよろしくお願いいたします」とウェブ会議のリンクを送信。すると木下秘書はこう返信した。

「よろしくお願い申し上げます。明日は、うちのSNS班の責任者の西田と統括のNも参加させていただいてよろしいでしょうか?」(注:Nは実際は実名)

松井氏は「もちろんです」と返答した。この会議で、松井氏は西田氏らと総裁選の情勢等を相談し、「小泉氏へのアンチ7割、林氏アンチ1割、高市氏のポジティブ動画を2割」作ることで一致したと証言している。

この「西田」氏とは、実は自民党や日本維新の会に所属した元衆院議員の西田譲氏なのだ。

ここで初めて西田譲氏の名前が出てきた。西田氏は高市陣営の「SNS班の責任者」だった。つまり、木下秘書のSNS活動も、西田氏との相談のもとに行われていた可能性が濃厚だ。さらに驚くべきことに、陣営の総指揮にあたる選対責任者こそ、高市政権発足と同時にこども政策担当大臣に就いた黄川田仁志氏なのである。

総裁選後、SNS作戦の総合プロデューサーとして大成功をおさめた西田氏をどう処遇するかは、高市陣営にとって最重要事項の一つとなったに違いなかった。裏工作の全貌を知る西田氏を「野に放っておく」のは危険だ。そこで考え出されたのが、黄川田氏の補佐官という役どころだったのだろう。国費を使って西田氏を抱え込み、いざというときにはSNSチームを再稼働することもできる。ちなみに、大臣補佐官の推定年収は2,000万円近いといわれている。

文春が報じたこの問題について、テレビ、新聞など記者クラブ加盟のメディアは素知らぬ顔で沈黙を保っている。権力組織から提供された情報しか安心して取り上げようとしないこの国のメディアの体たらくは相変わらずだ。

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「私は秘書を信じます」とうそぶくのみの高市首相

国会でこの件を追及された高市首相の反論ぶりも「そのような動画を作成して発信するといった事は一切行っておりませんと報告を受けております」と回りくどい。野党議員に「記事は捏造なのか」と問われて、それにはまともに答えず、「週刊誌の記事を信じるか秘書を信じるかっていうと私は秘書を信じます」とうそぶくのみ。真摯に向き合う姿勢は全く見られない。

SNSを使って他陣営を誹謗中傷したとされる張本人が、子供たちをSNSから守るための規制を考える側の椅子に座っているというブラックジョークのような現実について、なんの痛痒も感じないのだろうか。

筆者が心配するのは、AIを使い匿名で他候補を叩き潰すという手法が、今後の日本の選挙戦において「勝てば官軍の裏ルール」として定着してしまうのではないか、ということだ。かつて、他候補の足を引っ張る「裏工作」には、莫大な資金と人手、そしてリスクをともなった。しかし、AIの登場によってそれはがらりと一変した。

松井氏の「1日100~200本」という証言が示すのは、ネガキャンがAIによって大量高速生産される時代に突入したということだ。匿名アカウントであっても、AIで「刺激的な動画」を数百本単位で絨毯爆撃すれば、どれか数本くらいはバズるだろう。

現行の日本の法制度は、このステルス作戦に対して現実的には全く「無力」だ。被害者側が発信者情報開示請求をしても、特定するまでに数ヶ月から半年もかかるため、「投票日までに相手を社会的に抹殺するほうが勝ち」というモラルハザードが成立してしまう。

選挙が「嘘と誹謗中傷の空中戦」に変貌するとしたら、日本の民主主義は壊滅する。「勝てば官軍」の裏ルールをハックした者たちが、涼しい顔で国のかじ取りを担う。私たちは今、そんなディストピアの入り口に立っているのかもしれない。

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