日本経済は長期停滞を経て、新たな成長局面へ向かう兆しを見せています。ジャーナリストの勝又壽良さんは自身のメルマガ『勝又壽良の経済時評』で今回、名目GDPの成長や労働力不足への対応、フィジカルAIの可能性を踏まえ、日本経済が「第2発展期」を迎えるとする見方について解説しています。
日本経済「第2発展期へ」、AI・ロボティクス活用し「成長力」取り戻す
日本経済は今、大きく動き出している。企業が、設備投資に対して前向き姿勢を取戻しつつあるからだ。企業を突き動かしているのは、日本経済の成長期待が高まっている結果である。具体的には、名目GDP成長率の高まりである。名目GDPは、企業活動の羅針盤である。企業にとっては、「売上高」にも匹敵する指標であろう。名目GDPが伸びることは、売上高増加へのシグナルになる。
この名目GDPは今、「歩幅」は狭くても確実な足取りを見せている。2020年は、コロナによってマイナス成長(3.1%)を余儀なくされたが、22~25年は「2~5.3%」と成長角度を上げている。IMF(国際通貨基金)によると、26~31年の名目GDP成長率は、3%近いものを見込んでいる。日本経済が、超長期停滞を脱し次の成長過程へ進んでいることを裏付ける。「超長期不況よ、さよなら」だ。
今年の新入社員の意識調査では、これまでとない特色が浮かび上がった。リクルートマネジメントソリューションズの調査結果では、「個人として成長しなければいけない」という意識が、過去10年で最高になった。背景には、就活活動の過程で訪問企業から受けた感触が、若者の意識を「成長」へシフトさせている面もあろう。
調査は、若者に「成長しなければいけないという切迫感や焦り」があると指摘する。終身雇用制の弱まりで、転職市場が活況を呈している。初任給の上昇で、他人と「比較される環境」が増えたこともあろう。簡単にSNSで、他人のキャリアが見えすぎる時代であり、世間から「置いていかれたくない」という焦りに繋がる。個人が、キャリアを磨く動機になり、社会全体にとっても「経済成長」へプラス効果となる。単なる自己啓発ブームではなく、 社会全体が「停滞から前進」を求める空気に変わった。
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明治維新と近似の条件
いつの時代でも、若者の意識変化は社会を動かす前兆である。明治維新を振り返っても、若者が時代を先取りした。あえて、明治維新と現代日本を比較すると、似通った条件がいくつかある。
明治維新の本質は、危機感の噴出である。長い鎖国が、日本の「惰眠」をもたらした危機感が主因である。具体的には、外圧(黒船)である。これが、国家存立の危機感へつながり、開国による産業化(工業化)への道を開いた。
現代の危機構造を突破させるものは何か。やはり、外圧(AI・半導体の世界競争)である。若者は、AI(人工知能)とロボティクス(精密機械・電気・情報の組み合わせ)の到来に敏感である。日本は、国策半導体企業ラピダスによって、世界最先端の分散型フィジカルAIチップの製造に成功し、27年から量産体制に移る。若者は、こういう大きな技術革新の波が、日本で起っていることをおぼろげながらも感じ始めている。だから、自己成長の必要性を強く感じ始めているのだ。
日本経済は今、黎明期を迎えている。過去の超長期停滞が、いかに「異常」であったか。それが、バブル経済の後遺症であったことを再認識させる。日本経済の超長期停滞は、名目GDP500兆円時代の期間が、常識外れに長かったことで証明できる。実に、1991~2022(32年間)も続いたことは、江戸時代末期と同様に超長期の経済停滞を立証するものであろう。
ちなみに、名目GDP300兆円時代は5年間、400兆円時代は3年間(バブル期)であった。これと比べて分かるよう、500兆円時代の32年間は、日本社会から成長意識を奪い、成長感覚を麻痺させたことは言うまでもない。今、その麻痺感覚が若者の成長意識によって、異常と認識され始めている。「個人の成長」という認識の全面化は、過去のような社員の「企業奉公」と全く異なるものになる。
企業は今後、社員を繋ぎ止めることが重要になるであろう。形式的には、企業が新入社員を選ぶ。だがその前に、個人が企業を選んだので応募したもので、主体はあくまでも個人にある。この因果関係をたどると、労働力不足を背景にして、終身雇用制は空洞化する。企業は、これにどう対応するか。設備投資をして生産性を引上げ、賃金ファンドを確保して、企業間競争に打ち勝つことだ。これが、企業生残り主要な手段となろう。
こうした、企業の生残り戦術は、名目GDP成長率を引上げる。IMF(国際通貨基金)予測によれば、現在の名目GDP600兆円時代は、2023~26年(4年間)。700兆円時代が、2027~31年(5年間)と日本経済の正常化を予測している。日本が、正常な成長感覚を取戻したことは疑いない。時代は今、大きく変ろうとしている。
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自前のフィジカルAI
フィジカルAIとロボティクスが今後、日本経済の主軸産業になる。具体的にその中味を見ると、いかに国際的な影響力の大きいかが理解できよう。
一般的に「AI」(人工知能)が、今後の世界経済を動かすことは常識になった。すでに、チャットGTPなどで日常生活にまで入り込んでいる。これは、中央処理(クラウド)によって作動している。この裏で、膨大な電力が消費される。今、始まっている技術革新では、この矛盾を解決しよとしている。「中央処理・大量電力」に代って、「分散・小電力」の流れだ。入手した情報をクラウドへ送らず、現場のエッジで処理する分散型で、消費電力を大幅に削減する。これが、フィジカルAIの真骨頂である。
フィジカルAIの象徴例は、人型ロボットである。現在、世界に話題を提供している中国の人型ロボットの裏には、クラウドが控えている。これは、現場の情報に従って即時に判断して動くフィジカルAIではない。現場のエッジで処理する分散型フィジカルAIは、日本のラピダスが27年から量産化する2ナノ半導体の登場を待たなければならない。こうした肝心の技術情報は、社会へ伝わらずに間違った情報が飛び交っている。
分散型フィジカルAI半導体は、ラピダスの量産化によって「号砲一発」、世界的な動きになるが、すでにその前哨戦は始まっている。ラピダスと10年間の業務提携関係にある米国テンストレントが、ラピダスAI半導体を組込んだデータセンターを発売した。
テンストレントは6月30日、日本で高性能サーバーを本格展開すると発表した。同社によると、米エヌビィディアと比べて性能が3倍ほど高く、価格は4分の1程度に抑えられるという。テンストレントのサーバーは、米国エヌビィディアの高価なGPU(画像処理装置)を使わず、CPU(中央演算処理装置)によって操作できることだ。CPUへアクセラレーターを組込むのがテンストレントの技術である。こうして、世界を牛耳ってきたエヌビディアへ、強烈なライバルが登場する形になった。
テンストレントが、エヌビディアのライバルになるのは、技術体系の流れから言えば当然である。「集中から分散へ」「大から小へ」は、あらゆる技術の基本的な変化パターンである。コンピュータがパソコンに取って代わられるようなものだ。テンストレントへは、ラピダスが半導体を供給する。これまで、エヌビディアと一体化してきたTSMCへ大きな影響を及ぼすことになろう。
TSMCは、ロジック半導体の世界最大手である。事実上、市場を独占している。ロジック半導体は、演算や制御などのデータ処理を行う。スマートフォン、PC、サーバー、自動車の制御装置などで「頭脳」の役割を担う。一方、サムスンなどが手がけるメモリ半導体は、データを記録・保存する役割を持つ汎用品半導体だ。PCやスマホなどの「記憶」を担う中核部品である。ラピダスは、技術的に高度のロジック半導体でTSMCの牙城を攻める。ラピダスの背後には、テンストレントという強力な技術・販売の支援網が出来上がっているのだ。
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ラピダスTSMC接近
ラピダスは、TSMC半導体へ真っ正面から対抗する形になった。これまでラピダスは、先行企業との競争はないと明言してきた。最近は、コスト競争で大きな自信を深めている結果、攻めの姿勢へ転じた。ラピダスの小池淳義社長は7月8日、半導体受託生産の価格をTSMCと同等か、それ以下に抑える方針を示した。競争力ある価格設定で、TSMCの顧客奪取を目指すという意欲的経営姿勢へ転換した。
量産規模で劣るラピダスが、TSMC並みかそれ以下の価格を設定できるのは、TSMCを上回る高い歩留まり率の実現見通がついたことだ。半導体コストは、歩留まり率が勝負である。ラピダスが、最初からTSMCへ挑戦できるのは、歩留まり率がTSMCよりはるかに高いからだろう。
ラピダスは、世界半導体で初めて「前工程・後工程」を全自動化で結合することに成功した。それだけではない。1枚ずつ生産するウェハー単位制御にも成功した。ロット単位ではなく、ウェハー1枚ごとに条件の最適化・フィードバックが可能になった。これで、不良品が出ても「次の1枚」で補正が効くため、歩留まり率は上がる。もう一点強調したいのは、ラピダスが「新興企業」でない点だ。日本半導体が世界一時代のNEC、東芝、日立、富士通、三菱電機などの人材による「再起動」である。成功の下地は十分にあった。
ラピダスが、技術面とコスト面で突き抜けた競争力を備えていることを確認した上で、今後の日本経済が取組むべき課題は、労働力不足解決策として、「AI・ロボティクスの技術」であることは明白である。これは、「AI技術と精密工業」で成り立つものだ。この両者を揃えている国は、世界で日本しか存在しないことに気付かれるであろう。
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日本だけ唯一可能分野
分散型フィジカルAIは、ラピダス技術によってすでに証明されている。精密工業については、改めて説明するまでもないほど、日本の「十八番」技術である。世界を見渡すと、AI技術と精密工業の両者を揃えている国は他に存在しないのだ。
1)米国は、AIに強いが精密工業で弱い。
2)中国は、精密工業は存在するがAIで脆弱。
3)欧州は、精密工業は強いがAIで弱い。
4)韓国は、メモリ半導体で強いが、ロジック半導体とロボティクスで弱い。
主要国は、いずれか片一方が優れている状態であり、両者を兼ね備えるのは日本だけという独壇場である。 日本は、AIとロボティクスの「完全体系」を備える唯一の国と言って差し支えない状態にある。
AIとロボティクスの完全体は、「人型ロボット」である。この人型ロボットは、100%日本技術で完成する。理想型人型ロボットは、現場の情報に応じて即時に反応しなければならない。日本で最初に、このメリットを受けるのは、中小企業など労働力不足に悩む現場である。特に、中小製造業・運輸・介護への本格導入が、日本の潜在成長率を押し上げることは確実である。次に、その概要をみておきたい。
1)中小製造業は、日本の製造業の約7割を占める。人手不足で設備稼働率が上がらないので、自動化投資が遅れている分野だ。ここへ 人型ロボットが導入されれば、最も効果を発揮するはずだ。人型ロボットは、既存の工場設備・作業動線を変えずに導入できるため、 従来の産業ロボットより「投資回収が早い」という利点がある。
2)運輸(物流)は、トラックドライバー不足が、2024年時点で約36万人にも上がっている。物流の停滞は、日本経済の「血流」の低下に繋がる。人型ロボットが、重労働である荷役・仕分け・倉庫作業を代替すると、 物流のボトルネックが大幅に緩和される。
3)介護は、介護職の不足が2030年に約32万人と推計されている。高齢化で需要は増える一方である。人型ロボットは「身体介助」「移乗」「見守り」を代替する。同時に、家族を介護すべく離職する介護離職減少と労働参加率の上昇という効果につながる。
以上のような3業種で人型ロボットを導入するだけで、潜在成長率がどれだけ引上げられるのか。潜在成長率は、労働投入量・資本ストック(設備投資)・TFP(全要素生産性)の3点で決まる。人型ロボットは、この3つのすべてにおいて、効果を押し上げる希有の存在であり、まさに「三刀流」である。
こうして潜在成長率は、年間0.3~1.0%程度の押し上げが現実的な試算である。これは、日本経済にとって「革命的」な数字になる。現在の潜在成長率は、0.5%前後である。これが、導入後に1.0~1.5%へ引上げられるからだ。日本経済は、「様変わり」となることは間違いない。潜在成長率が1%を超えると、 名目GDP率は年3~4%成長が常態になる。日本は、明らかに「第二の明治維新」を視野に入るであろう。
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人型ロボットで勝者へ
日本の人型ロボットは、「ラピダス半導体(国産AI)・精密工業(日本の伝統技術)」という、日本の強みを凝縮した「象徴的製品」になる。これは、かつてのトヨタ、ソニー、キャノンの製品が世界を席巻した時と同じ構造となろう。それだけ、大きなインパクトを世界へ与えるはずだ。その理由は、次の点にある。
1)安全性が世界最高水準である。 介護・医療・公共インフラで安心して採用しやすい。
2)精密動作が可能 である。 製造業の生産工程へそのまま適用できる。
3)国産AIでセキュリティが高い。米中対立の中で「信頼できるAI」が価値を持つ。
4)高い耐久性・低い故障率。総保有コストを引下げ、企業が導入しやすくなる。
これらは、日本産業界が長年積み上げてきた「安全・精密・信頼」のブランドそのものである。当然、日本の新しい輸出主力産業になる高い可能性を持っている。人型ロボットは、最終的に以下の市場を狙えることになろう。製造、物流、介護、医療、警備、災害対応など多分野で需要の拡大が見込める。
世界の人型ロボット市場予測(2035年)は、約40~60兆円規模と推計されている。日本がこの市場で、20~30%のシェアを取れれば、 年間 8~18兆円の輸出産業 になる。これは、自動車産業に匹敵する規模だ。これは、1980~2000年代の日本製造業黄金期の再来と言えよう。
日本は、32年間の「冬眠期」を経て再び、過去の栄光時代へ戻れる基本条件を揃えることができた。その基盤は、たゆまぬ技術開発の継続にあった。イノベーションこそ、国家経済の岩盤である。ここを涸らしてはならないのだ。
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