MAG2 NEWS MENU

© storm - Fotolia.com

【国際政治】安倍政権とイスラエルが「F35友達」であることの意味

ネタニエフ=イスラエル首相訪米をめぐる緊迫

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.175より一部抜粋

イスラエル政府は2月22日、米主導で国際共同開発されつつあるF35ステルス戦闘機を米国から新たに14機、調達する契約を結んだことを発表した。イスラエルは同機の第2番目の購入契約国で、2010年に19機を契約しているので、これで計33機となる。さらに今後17機の追加契約も検討しているという。

これは、同国のネタニエフ首相の訪米を前にしたこれ見よがしの“手土産”である。

同首相は、米議会の招きで訪米して3月3日に上下両院本会議で演説をする予定だが、その演説では、オバマ政権が苦心して取り組んできたイランの核開発疑惑問題の交渉による解決の模索を正面切って批判することになっている。これは、軍産複合体や在米ユダヤ人ロビー≒ネオコン残党などの米国の退廃的な右翼勢力ブロックが、ネタニエフが主張する「イラン核疑惑施設空爆」作戦にオバマを引きずり込もうとして仕組んだ策謀で、共和党主導の議会がホワイトハウスと何の相談もなしに勝手に同首相を招いた。ホワイトハウスのスーザン・ライス安保担当補佐官は「米国とイスラエルの関係にとって破壊的な意味を持つ」と公然と議会を非難している。

それはそのはずで、ようやくイラク戦争の泥沼から抜け出しつつあるというのに「イスラム国」という一層面倒な問題に直面してしまい、その対策のためにはイラクのシーア派中心の政府やその後ろ盾のイランの協力が不可欠だという時に、いま米国がイランとの核交渉を断ち切ってイスラエルと一緒に空爆して対イランの新たな戦争を始めることなど、出来るはずがない。その状況でイスラエルは「F35を買い増しますよ。何か文句があるんですか」とオバマに対して嫌みたっぷりな牽制球を投げているのである。

イスラエルの野党=労働党のアイザック・ヘルツォグ党首は3月1日付のNYタイムズで「イスラエルは米国の挙国一致的・超党派的な支援を必要としており、ネタニエフが米共和党とだけ手を結ぶかの行動に出ているのは重大な誤りだ」と主張している。

ご記憶だと思うが、ネタニエフは12年9月に国連総会で演説し、導火線に火が着いた爆弾の絵を描いたパネルを示して、イランの核兵器開発が数カ月ないし半年後に迫っており、ここまで来たら(と赤マジックインキで手書きの線を引いて)イスラエルはイラン攻撃に踏み切ると、極めて挑発的な発言をした(本誌vol.50/12年10月8日号「米大統領選を人質にしたイスラエルの脅迫」を参照)。最近、イギリスのメディアやアルジャジーラが暴露したところによると、当時、イスラエルの情報機関モサドは「イランの核開発が進んでいる兆候はない」との報告を同首相に上げていたとされており、だとすると同首相はあの時、全く根拠のないデマで国際社会とオバマを惑わせて対イラン戦争を煽動しようとしていたことになる。

しかも、12年9月と言えば、オバマにとっては再選を賭けた大統領選が終盤に突入しようという時期であり、そのタイミングを狙いすましてネタニエフは「ユダヤの票と献金がなくてもいいんですか?」と言わんばかりに下品な揺さぶりをかけたのである。オバマは、国連演説の後に首脳会談を希望したネタニエフを「彼奴の顔も見たくない」とまで言って断った。今回もオバマは首脳会談を開かない。

結局これは、悩みつつも「戦争をしない国」に脱皮したいオバマや米リベラル勢力と、「戦争をする国」のままでいたいと思う米共和党右派≒ネオコン≒イスラエルの右翼連合との抗争がついに極点に達しつつあることを示している。

 

F35ステルス戦闘機困った現実

さて、イスラエルがF35最初顧客だとして、そこでクイズです。2番目契約国はどこでしょうか? 日本なんですねえ、これが。野田政権が11年にイスラエルを上回る40機購入を表明、安倍政権になって正式契約した(消費増税も、原発再稼働も、TPP も、オスプレイ配備も、これも、野田が安倍政権単なる露払いに過ぎなかったことはますます明らかになってきた)。3番目は韓国で最近(日本と張り合ったか)40機を契約した。他にF35 を買う国は? いや、今ところこの3みなです。

エッ、どうして? そ国際共同開発コンソーシアムには、英国(出資額20億ドル)、イタリア・オランダ(10、8億ドル)、トルコ・豪州・カナダ・デンマーク・ルウェー(1億7500~1億2500万ドル)が最初から参加しているに、購入しない?

実は同機開発は技術とコスト両面で難航を極めていて、12年3月にはペンタゴンが19年まで実戦配備は不可能と発表したために、コンソーシアム参加国も自国議会や世論支持を得られにくいと判断して購入契約を延期もしくは見直しを決めている。セールスを受けていたインドは購入を止めてロシア製に切り替えた。まあ簡単に言うと「いつ出来るかわからん」状態なである。にもかかわらず、イ・日・韓が目をつぶって飛び降りるが如きに契約に踏み切ったは、米国お覚えめでたくしようという政治的な魂胆からことなだ。

実際に製造が始まるとして、そ組立・検査・メンテナンス拠点は米フォートワースロッキード・マーティン社工場、欧州ではイタリアカーメリ空軍基地、そして日本たぶん三菱重工業どこか(たぶん名古屋)工場の3カ所に設けられる。そもそも同機には日本製高度部品が組み込まれていることに加えて、の3拠点はお互いに部品を融通しあうシステムで結ばれることになっているで、日本製部品が米国でもイタリアでも使われる。そうして出来上がった戦闘機は、まずは米国からイスラエルへと輸出されるが、それは事実上武器輸出に当たるということで鳩山内閣以降、「例外」規定が積み重ねられた挙げ句に、昨年4月、安倍内閣は閣議決定により武器禁輸3原則を撤廃し「防衛装備移転3原則」に置き換えた。

ということは、米国右翼や軍産複合体勢力がF35を真っ先にイスラエルに輸出して、イランやパレスチナを爆撃するを応援しようという軍事挑発的な策謀に同調して、安倍は武器禁輸政策を転換したであり、そ背景には、オバマ“弱腰”路線は米国主流ではなく、2年後には必ず共和党政権が戻ってきて強硬路線を採るに違いないという情勢分析が(外務省あたりで)行われているからだろう。

こういう背景を知っていないと、安倍がイスラエルと日本国旗が立つ前で「テロと戦い」を叫ぶことが、「イスラム国」みならずアラブ・イスラム世界にどう映るかということ想像力が働かない。日本とイスラエルは「F35友達」であり、イスラエルが真っ先に入手する世界最先端ステルス戦闘機は(「イスラム国」には向かわないが)パレスチナやレバアラブ民衆を大量殺戮したり、イラン核施設を空爆したりするに使われるに決まっている。米国がそういう武器を開発して、欧州や日本が言わば「グローバル化された軍産複合体」一員としてそれに協力し、イスラエル虐殺作戦を助けている──と、向う側からは見えてしまう。

 

それでも“中国包囲網”路線にしがみつく?

2年後に共和党政権が戻ってきて、米国が軍事優先路線と対中国強硬策に振れると見るであれば、安倍にとっては今が我慢しどころで、オバマ政権から「中国、韓国と仲良くしろ」「歴史修正主義は許さない」という繰り返し警告も聞き流しておけばいいということになる。

しかし、2年後に共和党政権が生まれるかどうかは定かではないし、なったとしても共和党右翼政権になるかどうかは分からない。私はむしろクリントン女史出馬で民主党政権が続く可能性が、少なくとも現時点では60%可能性があると見ていて、そうなると、(安倍政権が2年後まで続いていたとして話だが)日米関係は非常にまずいことになる。

そこ見極めがつかないうちに、安倍が今年5月訪米際に米議会で演説をするとなると、彼は一体何を語るか。対中国姿勢硬軟については確かに民主党と共和党右派に違いはあるけれども、日本歴史修正主義を許さないという点では民主党も共和党もない。米国内政治では、在米中国人と韓国人ロビイスト力が両党とも無視できないほど強まっているで、なおさらそうである。とすると、いずれにせよ安倍は「私は歴史修正主義者ではありません」と弁解に努めなければならないが、それを言ってしまうとオバマ政権からは「じゃあ何で中国、韓国と仲良く出来ないんだ」と押し込まれるし、他方、国内安倍支持右翼勢力からは裏切りだと糾弾されることになる。8月15日に予定された「戦後70年首相談話」ため「有識者会議」結論を待つことなく、安倍は自分言葉で語らなければならない羽目となるである。

本質は、本誌が安倍第2次政権発足当初から言い続けているように、自民党における伝統的な右翼愛国と親米保守なあなあ的同居矛盾が、安倍政権では張り裂けてしまいかねないアイデンティティ危機に陥っているということである。河野洋平=元衆院議長は24日、名古屋市で講演で、「自民党がこれ以上“右”に行かないでほしい。いまは保守政治というより右翼政治ような気がする」と語ったが、まさにそ右翼と保守間で安倍フラフラ状態戦略思考混濁こそが世界中心配事なである。

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.175より一部抜粋

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.175 《目次》
【1】《INSIDER No.774》
ネタニエフ=イスラエル首相訪米をめぐる緊迫
──日本とイスラエルが「F35友達」であること意味
【2】《FLASH No.088》
「農協潰し」は安倍政権政治的怨念
──日刊ゲンダイ3月5日付から転載
【3】《CONFAB No.174》
閑中忙話(2015年02月22日~28日)
【4】《SHASIN No.151》付属写真館

 

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
≪無料サンプルはこちら≫

まぐまぐニュース!」の最新更新情報を毎日お届け!
マスメディアには載らない裏情報から、とってもニッチな専門情報まで、まぐまぐ!でしか読めない最新情報が無料で手に入ります!規約に同意してご登録ください!

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け