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進撃のロシア、IS空爆は「迷走オバマ」を救うためだった?

批判的な報道が目立つロシアによるシリアへの空爆。しかしジャーナリストの高野孟さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で米国発の情報操作に屈する日本のマスコミを批判するとともに、プーチンはアメリカが犯した過ちからオバマを救い出そうとしていると述べています。

ロシアのIS空爆

プーチンは、28日にオバマと会談した翌日に、シリアで対ISの爆撃作戦を開始した。会談ではシリアのアサド政権の扱いについて意見の対立が解けなかったと報じられているが、オバマの少なくとも暗黙の了解がなければプーチンはこんな行動をとるはずがない。この問題でのロシアの姿勢についてのマスコミの解説はほとんど見当外れで、「弾圧と内戦で自国民25万人を死に追いやった極悪非道のアサド大統領と妥協の余地があるわけないだろうに」という大前提で「ロシアが長年の盟友を守り自国の権益を保つために国際社会に逆らって横車を押している」という調子の「米国発」の情報操作に屈している。いずれ本格的に論じようと思うが、要点は、

(1) アサドが市民に対して抑圧的な独裁体制を敷いてきたのは事実だが、それは(イラクのフセインやイランの宗教者たちと同様)戦乱の中東で国家破綻を防ぐにはそうするしかなかったからで、彼の人品骨柄が「極悪非道」であるかどうかというようなレベルの話とは次元が違う。

(2) アラブの春の波がシリアにも押し寄せて市民の民主化要求デモが始まったこと自体は正当なことで、シリア市民が内から独裁を跳ね返して体制変革に挑む可能性を示したものであるし、それに対してアサドが力で圧し潰そうと弾圧したことは不当極まりなく、非難されてしかるべきである。

(3) しかしその時に米国のネオコン過激派が手を突っ込んで、反体制派に資金や武器を提供して、これをアサド政権打倒の内乱に持ち込んで行くよう促したのは(ウクライナの場合と同様)致命的な間違いで、それが多数の市民の殺傷とISの台頭、数百万人の難民を生み出した決定的な要因である。

オバマを救い出そうとしているプーチン

(4) 米国の過激派が「アサド政権は4カ月で倒せる」と豪語し、それを欧州なども支持して(ためらいながらも)米国に追随したのは(イラクの場合と同様)シリアの国柄を全く理解していないことによる判断ミスでしかなかった。

(5) とりわけ、ISが台頭してそれが中東のみならず全世界のテロとの戦いにとっての重大な脅威となってからは、米欧は、主要な敵がアサド政権でなくISとなったという局面変化を機敏に捉えて、アサド政権とは一時「休戦」しても対IS作戦に全力を集中しなければならなかったはずだが、それをためらい、相変わらず反体制派を支援してアサド政権と戦いつつISにも立ち向かわせるという両面作戦を維持しようとして失敗し、泥沼化した。

(6) およそ戦争にせよ国際政治にせよ、この局面で主要な敵はどこか、毛沢東「矛盾論」の思考方法に従えば「主要な矛盾」は奈辺にあるかを正しく認識して、敵を最小限に狭め味方を最大限に増やすことが戦略論の肝心要で、それが巧くできずにオロオロしているのがオバマであり、その間違いからオバマを救い出そうとしているのがプーチンである。

繰り返すが「敵を最小限に狭め味方を最大限に増やす」のが戦略の初歩である。その当たり前のことをプーチンが言っているのに、「シリアの権益確保が狙いでは」とか「ウクライナの苦境から目を逸らせようとしている」とか、分かったような解説をしているのがマスコミだ。じゃあ、あなたの対IS戦略の提案は? と問えば、たぶん彼らは答えを持たない。私は決してプーチンを好きではないし、その言動すべてを支持するわけでもないが、この点に関する限り一貫した戦略的理性を保って世界をリードしようとしているのは彼である。

image by: Oleg Pchelov / Shutterstock.com

 

 『高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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