ウクライナ危機以降、外交的孤立をしていたロシアが急遽シリアに軍事介入。一方、ロシアに経済制裁をしていた欧米は、懸念を示しながらも空爆を黙認しているかのようです。シリアをめぐっていま世界の覇権争いに何が起きているのでしょうか? 人気メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんが、過去10年の世界情勢の変動を詳しく解説しながら、今後、日本が取るべき方針についても触れています。
世界の現状と日本の針路
私は05年1月に、一冊目の本「ボロボロになった覇権国家」を出版しました。
34歳のときに出した本で、今読み返すととても未熟です。
しかし、中身の方向性は、はっきりしていました。
・アメリカは没落していく
・中国はますます強大になっていく
この中で、「08~10年に危機が起こるが、中国はまだ成長期の前期であり、立ち直りは速い」と書いています。
(当時は、北京オリンピックと上海万博後にバブルがはじけ、中国は体制崩壊まで進むとする「崩壊論」が流行っていた)
07年、「中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日 ~一極主義 対 多極主義」を出しました。
なんか、今でも通用する話ですが。
実をいうと、中国とロシアがひっついたのは、「クリミア併合後」ではありません。
05年です。
アメリカとロシアは、03年から熾烈な戦いをつづけていました。
03年、ロシアの石油利権をめぐる「ユコス問題」
03年、グルジア「バラ革命」をめぐる争い
04年、ウクライナ「オレンジ革命」をめぐる争い
05年、キルギス「チューリップ革命」をめぐる争い
「勢力圏」「影響圏」である「旧ソ連圏」で次々と革命が起こり「親米反ロ政権」が樹立されていく。
苦境に立たされたプーチンは、中国と組むことにしたのです。
両国は、「ドル基軸通貨体制をぶち壊すことで、アメリカの一極支配体制を崩壊させる」と決めました。
08年、「隷属国家日本の岐路 ~今度は中国の天領になるのか」を出版しました。
いろいろ書いていますが、二つ重要な予測をしています。
1、日本に親中反米政権が誕生する
これは、小鳩政権誕生で現実化しました。
2、尖閣から日中対立が激化する
これは、10年の「尖閣中国漁船衝突事件」で現実化しました。
そして、12年の「尖閣国有化」から現在に至るまで対立はつづいています。
「反日統一共同戦線」で、「対日戦争」は開始された
日本政府の「尖閣国有化」は、12年9月です。
そして、12年11月、中国の代表団は、事実上の同盟国ロシアの首都モスクワで、
「反日統一共同戦線」戦略を披露しました。(@必読証拠はこちら)
いつも書いていますが、この戦略のポイントは三つです。
1、中国、ロシア、韓国で「反日統一共同戦線」をつくる
2、中ロ韓で「日本の領土要求」をあきらめさせる
日本に断念させる「領土」とは具体的に
・北方領土
・竹島
・【沖縄】
である。
日本には、尖閣だけでなく、【沖縄】の領有権もない!
3、【アメリカ】を「反日統一共同戦線」に入れる
私はこの記事を読んで、「あ~~~、戦争がはじまったのだ」と思いました。
日本人は「戦争」というと「撃ち合い」しかイメージできません。
しかし、戦争は、「情報戦」からはじまるのです。
「情報戦」、日本人は甘くみています。
「情報戦」とは、「情報“戦争”」のことで、これは「戦争の一環」なのです。
その目的は、
・「敵国」(この場合、日本)の評判を失墜させ、悪魔化することで、世界的に「孤立させる」こと
なぜそんなことをするのでしょうか?
実際の戦闘がはじまったとき、誰も「敵国」(この場合、日本)を助けないように。
この場合は「アメリカが日本を助けたくないように誘導すること」。
2013年、中国は全世界で強力な「反日プロパガンダ」を開始しました。
安倍総理、ロシアと中国に救われる
2013年12月26日、安倍総理は靖国神社を参拝しました。
「反日統一共同戦線戦略」の存在を知らない日本政府は、
「反対するのは中国、韓国だけであろう」
と甘くみていた。
なぜかというと、小泉さんは総理時代6回も靖国を参拝し、中韓以外からほとんど反対されなかったから。
ところがふたを開けてびっくり。
靖国参拝を非難したのは「中韓だけ」どころか、
アメリカ、イギリス、EU、ロシア、オーストラリア、台湾、シンガポールなどなど。
日本政府は何が起こったかわからず、オロオロしていました。
このネガティブ反応は、「中国の戦略が原因である」ことに気づいた政府高官はいたのでしょうか?
安倍総理は世界的に孤立し、非常に厳しい状況に立たされました。
ところが、「歴史的大事件」が起こり、安倍総理は救われます。
それが、2014年3月のクリミア併合。
これで、アメリカの敵ナンバーワンはプーチン・ロシアになった。
アメリカは、安倍総理を敵視するのをやめました。
それからちょうど一年後の15年3月、今度は「AIIB事件」が起こりました。
イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国などが、あからさまにアメリカを裏切り中国についた。
(つまりAIIBへの参加を決めた)
これで、アメリカの敵ナンバーワンは、ロシアにかわって中国になりました。
前号でも触れましたが、現状は、
・ロシアは、イスラム国(と反アサド派)と戦う
・アメリカは、中国と戦う
という構図になっています。
今後の日本の方針
現状を把握できたところで、日本のこれからの「針路」を考えてみましょう。
日本のとるべき戦略は、
「アメリカを中心とする中国包囲網を形成すること」です。
もう一度書きますが、
「“アメリカ”を中心とする中国包囲網を形成すること」です。
なぜ、
「日本が中心となって中国包囲網を形成する」ではダメなのでしょうか?
これだと、アメリカが、「じゃあ日本に中国と戦ってもらおう」となるかもしれない。
リベラルの人たちがいう、「アメリカは梯子をはずす」かもしれない。
実際、アメリカは、ジョージアやウクライナをロシアと戦わせ、状況が変わるとあっさり捨てました。
ウクライナも、アメリカに利用され、ロシアと戦い、今は見捨てられ、みじめな状態に置かれています。
ですから、「アメリカを中心とする」なのです。
ここを確認したうえで、
1、アメリカとの関係をますます緊密にする
「希望の同盟演説」「安倍談話」路線ですね。
これさえしっかりしていれば、中国は尖閣も沖縄も奪えません。
2、中国との関係は、アメリカの「対中姿勢」とあわせること
安倍総理が米議会演説や談話で、どんなに美しいことをいっても、なかなか信頼されません。
その理由は、日本人の「誰とでもできるだけ仲良くすべき」という文化というか態度にあります。
たとえば、「希望の同盟演説」の翌月、中国に3000人も送り、「戦略的互恵関係を深めよう」とかありえません。
これでアメリカは、「安倍の希望の同盟演説はウソだ」と失望した。
中国との距離感をどうとるか?
これはとても重要な問題ですね。
まず、中国を挑発することは絶対避けるべきです。
アメリカ抜きで日中関係がひどく悪化すれば、アメリカは、
「じゃあ日中で戦って! アメリカは漁夫の利を得れてうれしいからね」
となるかもしれません。
しかし、アメリカが不信感を抱くほど中国に接近してはいけない。
中国との関係は、「アメリカ追随」でいいのです。
アメリカが、「南シナ海埋め立て問題」を非難する。
その後、日本も非難する。
アメリカが、なんらかの理由で中国と和解する。
すると日本も、ちょっと和解する。
日本の戦略はあくまで、
「アメリカを中心とする中国包囲網の形成」。
ですから、単独で中国を挑発したり、単独で中国と和解してはいけないのです。
こんな話をすると、「北野は従米主義者だ!」と批判されるかもしれません。
批判するのは簡単ですが、ではどうすればいいのでしょうか?
・小鳩時代のように中国に単独で接近し、日米同盟をメチャクチャにしますか?
日米同盟が破壊されれば、中国は容易に尖閣・沖縄を奪えることでしょう。
・2次大戦時のように米中両国と戦いますか?
勝てる可能性は1%もありません。
小学生でもわかるでしょう。
なにも考えずにアメリカに従いつづけるのは、確かに「従米」です。
しかし、情勢を冷静に分析したうえでアメリカと組む。
これは、「戦略的選択」です。
image by: Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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