MAG2 NEWS MENU

TPP「秘密」合意の全容判明…新聞報道から各紙のホンネを読み解く

TPPについて、日本が保護を求めていた農産物「重要5項目」のうち、ついに3割にあたる品目で関税が撤廃されると新聞各紙が報じました。この報道について、それぞれの論調には微妙な差異があるようです。TPPに対する各紙の「隠された主張」を、有料メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』が明らかにしています。

「TPPで重要5項目の3割で関税撤廃」を新聞はどう伝えたか

1面トップにも、解説面にも顔が出ていないが、TPPの関税撤廃に関するニュースが、実は今日の「隠されたライン」に相当するようだ。重要五項目の中に、関税が撤廃されるものがどれだけあったのか、この問いとそれに対する答えは、来夏の参院選の結果を左右するかもしれない。ということで…今日のテーマは……。

各紙、「TPPで重要5項目の3割で関税撤廃」をどう伝えたか、です。

まずは「基本的な報道内容」を整理しておきましょう。

新聞各社の基本的な報道内容

環太平洋経済連携協定(TPP)で関税を撤廃する品目の全容が19日、判明した。日本が保護を求めていたコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の「重要5項目」586品目のうち、約3割の174品目の関税が撤廃される。牛タンやフローズンヨーグルト、シリアルなどが含まれる。日本の農産物全体では、今まで関税を撤廃したことのない834品目のうち、395品目が撤廃となり、既に撤廃されているものを含む2328品目では、81%関税撤廃することになる。残るのは440品目ほどとなる。

ホンネはTPP賛成…【朝日新聞】

【朝日】は、まずは3面。自社世論調査のなかで、TPPについて「よい影響」という答えが60%あったと報じている。また、20~30代の若年層ではTPP参加への賛成が7割近くに上ったのに対し、農林漁業層では4割に満たなかったこと、農業への打撃があると答えた人は77%など。

4面では野党6会派が臨時国会要求で一致し、TPP追及の構えとの政局記事

9面にTPPのメインの記事。見出しは「重要5項目3割完全撤廃」。

基本的な情報に加え、この記事には「牛・豚肉の加工品などが関税撤廃となることが大きい」という記者の評価を記す。

uttiiの眼 政権の目を気にした世論調査

1面左肩に「内閣支持率上昇」という世論調査結果の記事を載せ、同じ調査でTPPについても賛成が多いという結果を伝えている。野党はTPP問題での追及を行う姿勢だが、一般世論はついてきていないということになる。記者のコメントには、牛・豚肉加工品の関税撤廃が大きな影響を及ぼしていくのではないかという生産者の不安が反映されているが、そもそも「守る」としていた「重要5項目」でさえ、3割も関税を撤廃せざるを得なくなったことを、もっと大きく伝えるべきではなかったか。9面経済面の小さなこの記事は、本来は1面に掲載するべきものではなかっただろうか。記者の評妥当なものだけに、もっと日の当たる場所に大きな紙幅を与えるべきだったのではないかと、惜しまれる。

政権が嫌がる報道を控えるために、世論調査が言い訳に使われているように感じられた。まだ萎縮が続いているのか、あるいはTPP賛成社論が透けて見えただけのことか。

「攻めの農業」イデオロギー…【読売新聞】

【読売】は、まず、4面に小さな政局記事があり、憲法53条を根拠に野党が臨時国会の召集を要求することを伝える。そのなかに、「環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の審議を求めることを提案」という記述。

続いて9面経済面には「「攻めの農業」へ効果カギ」「農家負担、米では定着」とある。森山農水相が表明した、農業生産者の負担で農産品の消費拡大や輸出促進を目指す新たな制度について書いている。

アメリカでは普通のことになっていると、義務化するためには新たな法整備が必要で、生産者側が同意できるほどの効果を示せるかどうかがカギを握る、としている。

uttiiの眼 刺激的な内容

《読売》のTPP関連情報の扱いは、やはり実に《読売》らしい。安倍政権が嫌がる「重要5項目の3割で関税撤廃」という見出しと記事を避け、「もうTPP交渉の結果を云々することは不要だ」といわんばかりの見切りの早さ。「攻めの農業」と騒いでいる。

ただ、この新たな制度の話は、関税収入が減ることについての対策という意味で重要。17日土曜日付のメルマガで書いたように、輸入牛肉の関税収入は国庫に入らず、特定の畜産振興策に使う「特別会計」のような仕組みになっている。《読売》が紹介している制度は、振興策の原資である輸入関税が減り、やがては枯渇することへの対策を、生産者自身の負担で行うという、実に刺激的な内容だからだ。

輸入品との価格競争を強いられる上に、新たな拠出金まで求められる。これでは、生産者が納得できるはずがない。だからこそ、「攻めの農業」というイデオロギーが必要だったのだろう。

国内への影響は限定的?…【毎日新聞】

【毎日】は唯一、関税撤廃のニュースを1面に持ってきている。見出しは「重要5項目3割関税撤廃」「TPP 国産品と競合少なく」。

基本的な情報に加えて、「撤廃されるのは、牛タンなどの内臓肉や加工品が中心で、国産品と競合しているものはほとんどなく、国内への影響は限定的とみられる」とする。だが、「ほかの品目は原則的に関税撤廃とされるTPPの方針に沿ってほとんどの関税が撤廃」され、「生産者などから不安の声が上がっていた」とし、そのために「全品目の交渉内容について精査を急いできた」という。そのことが今回の発表につながったという理解のようだ。11月には国内対策をまとめ、「生産者らの理解を得たい方針だ」という。

5面には、野党が臨時国会開催を要求し、TPP交渉の追及を目指すという政局記事。6面には全中の奥野会長が、TPPの影響を独自に検証し、対策提言を来月末までに出すと語ったことについての記事。

uttiiの眼 ホンネでは賛成

《毎日》のTPPに対する基本姿勢も、ホンネでは賛成ということなので、そうした方向性があちこちに表れる。

重要5項目」がどうなるかは、与党が公約を果たしたのかどうかの評価に係わる、政治的に非常に重要なことなので、慎重な検討が必要なはずだ。《毎日》は思い切りよく、「国産品と競合しているものはほとんどなく、国内への影響は限定的とみられる」としてしまっているが、大丈夫だろうか。どんな根拠があるのか、ハッキリ示してもらう必要があるだろう。おそらくは農水官僚が口にしたことなのだろうが、一種の発表報道になっていないだろうか。

膨大な関税撤廃項目…【東京新聞】

【東京】はまず2面に基本的な情報を伝える記事。ここには記事内容を表にしたものが二つ付けられている。一つは「関税を撤廃したことがない品目」を重要5項目とそれ以外とに分けてどんな扱いになったのかについて。もう一つは、重要5項目の中で関税が撤廃されるものについての概略。

6面では、その関税が撤廃される重要5項目のうち、主なものをさらに詳しく、6段3列にわたり100項目ほど載せている。

uttiiの眼 畜産業に暗雲

項目を列挙するという方法は、少し前、農産品834品目中400品目が撤廃されるという情報が出たときに、《毎日》が試みていた。その時、《朝日》は1面に「400」という数字を掲げ、《毎日》はその数の多さを直接に表現していた。《読売》はそのどちらも行わなかった。

今朝の《東京》は2面の記事で大掴みの品目理解ができるようにし、6面ではその数の膨大さを表現したと言える。だが、膨大さだけではない。一つ一つ見ていくと、やはりこれは容易ならざる事態が待っているのではないかという気がしてくる。特に、牛・豚肉加工品の関税撤廃は影響が大きいのではないか。そもそも、牛・豚肉自体、9%に向けて段階的に関税は引き下げられていく。《読売》が奇しくも指摘した振興策財源としての関税の減収も加えて考えると、少なくとも国内の畜産業には暗雲が垂れ込めていると言わざるを得ない。

 image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/10/20号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
≪無料サンプルはこちら≫

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け