実は、マイナンバー制が導入されたからといって、国家は、「今まで知りえなかった国民の情報」を取得できるようになるわけではありません。
というのは、現在の税法においても、国家は、「すべての国民の収入と資産を知る権利」を持っているからです。
そもそも、税務当局というのは、現行の法律の中でも、市民の財産を丸裸にしようと思えばできるのです。
現在、税務署の国税調査官たちには、「質問検査権」という国家権限を与えられています。
質問検査権とは、国税調査官は国税に関するあらゆる事柄について国民に質問できる、という権利です。
国民はこれを拒絶する権利はありません。
これは、見方によっては警察の捜査権よりも強い権利だといえます。
警察は、何か犯罪の疑いのある人にしか取り調べはできません。任意で話を聞くというようなことはありますが、それはあくまで「任意」です。
その人には、拒否する権利もあるのです。だから、誰かを取り調べしようと思えば、逮捕したり拘留する以前に客観的な裏付けが必要となります。
また拘留期限なども法的に定められており、何の証拠もないのに、誰かを長時間拘束したりはできません。
しかし、国税調査官の持っている質問検査権の場合は、そうではありません。
日本人に対してならば、どんな人に対しても、国税調査官は税金に関して質問する権利を持っているのです。
赤ん坊からお年寄りまでです。
国民はすべて国税調査官の質問に対して、真実の回答をしなければなりません。拒否権、黙秘権は認められていないのです。
また「国税に関することはすべて」というのは、かなり範囲が広いのです。国民の収入に関するあらゆる事、国民の財産に関するあらゆることを、国税調査官は質問する権利を持っているのです。
国民の経済生活のすべてといってもいいでしょう。
国税調査官は、経済生活に関するものであれば何でも見せてもらうことができるのです。
帳簿や領収書だけではなく、事業や仕事に関するあらゆる書類、データ、預貯金などの金融資産、不動産資産、自家用車などの固定資産などを調査することができるのです。また国税庁(税務署)は、日本中の金融機関をくまなく調べることができます。
つまり、今の税法においては、すでに国家は国民の経済性生活すべてを監視、把握する権利を持っているのです。
もし、国が、市民運動家などをターゲットにして、財産を把握しようと思えば、今の法律でもすぐにできるはずなのです。
逆に言えば、マイナンバー制が導入されたからといって、市民の権利が今よりも侵害されることはない、ということです。つまり、マイナンバー導入の目的は、市民生活の監視などではないのです。