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都合のいい消費税の「言い訳」にダマされるほど国民はバカじゃない

2017年4月から消費税は10%に増税しますが、それに先だって自公両党の合意で加工食品を含む食料品について8%に据え置くとした、軽減税率が決定しました。メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、今回の軽減税率が決定するまでの裏を、過去の消費税を巡る政治家と国民の歴史を紐解きながら分析しています。

消費税で社会保障と財政再建―果たされない約束の歴史

本日は「消費税の本質的な問題」についてということだが、この「消費税」については長い長い政治の歴史がある。今回、軽減税率について自民党と公明党での話し合いに決着がついた。税金を高くするのは良くないということで、食料品については原則8%に据え置くというように至った。基本的に税の目的は何なのかということをおさえて税の問題を考える必要があると思う。

公平・公正、簡素で税制再建に役立つ

税で昔から言われているのは、「公平公正簡素で税制再建に役立つ」という原則の中で考えていかなくてはならないと言われているのだが、税金の議論が始まると各党とも自分の党にとって有利なようにしていこうとする。さらに選挙に有利なようにしていき、税金の問題は段々わけのわからない議論にされてしまうというのが大きな特色。

消費税導入を検討

過去を振り返ると、消費税の話が出てきたのは大平政権の時代。それまでは法人税と所得税と言うのが税の中心だったが、田中内閣時代から公共投資などさまざまなことをしてきたことで税金が段々と足りなくなってきて、「財政赤字がひどいので薄く広く国民から徴収する」一般消費税の導入を決定した。しかしながら、猛烈な反対に遭い、選挙で大敗し断念。

続いて、1987年2月に中曽根政権時代に「売上税」法案を国会に提出したが、国民的な反対に遭い、5月に廃案。いかに税金を通すということが難しいかというのがあるものの、この辺にきて段々財政赤字が行き詰まる

消費税導入とその後の歴史

そこで竹下政権時代に竹下氏は腹を決め、88年12月に「消費税法」成立し、89年4月税率3%で施行。財政再建では国民が納得してくれないので「高齢化社会」のためにやるという宣伝をし、消費税は「社会保障と財務再建」のためにやるということを位置づけ、それ以降二大看板となって今までに至る。リクルート事件の影響もあったが、消費税を導入したことで6月に辞任せざるをえなくなった。これらのことからの税金というのは政治家にとって大きなハードルであると言える。

その後、細川政権では「消費税」を廃止し、税率7%の「国民福祉税」構想を発表したが連立政権内の足並みが乱れ、発表翌日には撤回するに至り失敗。そして、「自社さ連立」の村山政権3%から5%に「消費税」を引き上げる法案を可決し、橋本政権でその法律に基づき5%に引き上げを実施したものの参院選敗北。この辺でさらに政治家たちに税金は鬼門だと擦り込まれていく。

消費税10%への道

鳩山政権では「消費税率は4年間上げない」とマニフェストを掲げ民主党が総選挙で勝利し、政権交代を実現。しかしながら、税金の問題を今後どうするのかという問題は残る。結局、民主党も税金の問題を真面目に考えなければならないということで、菅政権になってから「消費税10%」を打ち出し選挙に惨敗。この問題は一時棚上げになるが、与野党の間で「消費税」の問題討議はずっと続き、結局野田政権で「2014年に8%」「15年に10%」に引き上る「税金と社会保障の一体改革」をすることで三党合意(民主、自民、公明)し、税金の問題は一旦落ち着くようにみえる。

そして安倍政権で消費税を昨年より8%に引き上げ、10%への引き上げは景気が悪くなることを憂慮し一年半延期17年4月)した。今回、庶民に一番関係のある税金の成り行きが決定し、外食を除く食料品は8%に据え置き、外食は10%に引き上げられる見通し。

消費税の使用に疑問

財政再建が必要だということは国民も理解しているが、税金の問題になぜここまで世論が厳しいのかというと、税金は直接国民の懐に直結してくるためなかなか同意することはできないからである。しかしながら税金を取らないでいると赤字が進行し大変な自体に陥る。日本の財政赤字は1千兆円と財政を健全化しなくてはならないことはわかっているが、弱者に税金を課すと負担がかかるということが今大きな問題となっている。

さらに、高齢者社会の為に税金を上げる、社会保障の為にもやっていると言うが、健康保険の医療費自己負担1割から3割に引き上げ、老齢年金の支給開始年齢が「60歳」から「65歳」になり、介護保険制度創設により保険料に加え利用者負担が請求されるなど社会保障の負担は増加の一途をたどっている。国民は消費税を社会保障にきちんと使われていないと思っている。

印象に残る逸話

消費税の変化の中で私が記者時代に一番印象的だったのは竹下政権時代。当時の消費税のキーマンは慶應大学教授の加藤寛氏。ミスター税調と呼ばれ、「カトカン」の愛称で親しまれた気さくな人だが、政府の批判をしばしばしており強烈な発言の一つとして「高齢化社会のためといわれ、われわれ税調もそう説明したが、本当はああ言えば一般に人にわかりやすいから」と消費税は福祉のためではないことを明らかにしたことがあった。
そんな加藤氏は消費税論議の舵取り役を任されていたため、増税反対運動に遭い「勤め先の慶應大学や自宅にカミソリの入った抗議文などが届き、1年で段ボール10箱分を超えた」と話していたことがあったので、当時の国民感情の怒りがどれほどすごかったかということがわかる。

そんな状況下でも竹下元総理は、消費税導入に並々ならぬ意欲を持ち、前の税制会長である野田毅氏の話では法案成立が決まった際、日ごろ感情を表わさない竹下氏が「目に涙をためて泣いていた」という。

消費税は法人税の穴埋め!?

そこまでして成立した消費税は、国民との約束と違い実際に何に使われているのかというと、実質的に落ち込んだ法人税収の穴埋めに使われている。金額を見ると消費税導入後27年間の消費税の税収は「304兆円」で、その間法人税の基本税率は「38%」から「25.5%」に大幅に引き下げられており、1989年の消費税導入時に比べ「法人3税」(法人税+法人住民税+法人事業税)の税収減は263兆円となっているのだ。

国のおカネの収支の考え方は、「入るをはかりて出をなす」。入る=消費税(事前に収入を見積もり)、資金繰りのメドを立て、出=支出=国の予算をたてなければだめだがこれ出来ていない。結局、消費税を導入し、おカネが入ると無駄に使っている。

消費税構成比の比較

参考までヨーロッパと日本の消費税が国税に占める割合を見てみると以下の通り。国、税収に占める消費税の割合(消費税率)の順に記載、数値は財務省ホームページより。

フランス:39.5% (20%)
ドイツ :46.7% (19%)
イタリア:37.1% (22%)
イギリス:41.3% (20%)
スウェーデン:38.4%(25%)
日本  :30.7% (8%

これらを見ると、各国とも消費税課税に大きなウェイトが置かれていることがわかる上に、日本以外の税率をみるとこれ以上消費税を上げることは難しい。

決して騙されない国民

いま、軽減税率がフォーカスされ「食品全般が8%に守られた」とホッとさせ、その財源の不足分確保の為の増税が進みそうな気配である。「増税」自体「本当に大丈夫なのか?」という根本的な議論を改めて行なう必要がある。安全保障関連法案の時のように強引に進めれば「国民は時間が経てばやがて忘れる」と政権は思っているのだろうが国民はバカじゃない

同じような約束を果たされない歴史を繰り返さないで欲しい。これで本当に「社会保障」と「財務再建」はうまくいくのだろうか。

(TBSラジオ「日本全国8時です」12月15日音源の要約です)

image by: Shutterstock

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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