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北朝鮮は核兵器を小型化している。日本は笑って見過ごせるのか

「ハリボテ」「見世物」などとメディアでたびたび揶揄されている北朝鮮の弾道ミサイル。しかし、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さんはメルマガ『NEWSを疑え!』で、「北朝鮮は核弾頭の小型化に成功している」という情報はおそらく事実であり、このことを軽視してはならないと強く呼びかけています。

北朝鮮は核兵器を小型化している

 北朝鮮の金正恩第1書記は3月9日、「核融合反応を即発させることのできる核弾頭を小型化し、弾道ミサイルに合わせて標準化しており、これは真の核抑止力といってよい」と、国営メディアを通じて主張した。

9日付の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、金正恩氏が核兵器研究部門を現地指導したとして、核弾頭の模型のような物体や、米本土に届く射程を目指して開発中の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)「KN08」の二つのタイプと撮影した写真を掲載した。朝鮮中央テレビは、日本に届く準中距離弾道ミサイル「ノドン」(ペイロード600キログラムの場合、射程1100キロ)の映像も放送した。

 北朝鮮の主張に対し、韓国国防部は9日、「小型化された核弾頭とKN08の実戦能力は確保できていない」との見方を示した。

しかしながら、「核融合反応」と、ICBMの弾頭を保護するため必要なのに試射さえしていない再突入体はさておき、弾道ミサイルに合わせた核弾頭の小型化は実現していると考えたほうがよい。

米国や韓国の専門家の間では、北朝鮮に核弾頭をそれほど小型化する能力はないという見方も少なくない。この見方には、核兵器を新たに保有する国が製造する核爆発装置は、米国が長崎に投下した「ファットマン」(重量4.67トン、全長3.3メートル、直径1.5メートル)ほどの巨大なもので、それを徐々に小型化・兵器化していくものだ、という前提がある。

しかしながら、核技術が拡散するにつれて核兵器開発国が新たに保有(または設計)する核兵器は、最初の段階から過去のものより小型化している現実が見過ごされている。北朝鮮の核開発も、前提そのものを改めて検証する必要があるのだ。

各国の最初の核兵器の大きさは「ファットマン」程度という前提は、ソ連、英国、フランス、中国については正しかった。インドが1974年の核実験で用いた装置も、重量は1.4トン、直径は1.25メートルあった。南アフリカが1980年代に製造し、91年までに解体した広島型(砲身型)原爆6発も、大型で実戦能力は低かった。なお、イスラエルの初期の核兵器については、今も秘密が守られている。

この前提は、中国が1966年に準中距離弾道ミサイル「東風2号」に搭載して試射した核弾頭の設計を、80年代初めにパキスタンに提供したことによって崩れることになった。パキスタンは1998年、この設計を用いて核実験を行っている。

パキスタンの核兵器開発の責任者、アブドゥル・カディール・カーン博士が、東風2号の核弾頭の設計をリビアへ転売していたことは、リビアが核開発を中止し、2004年に文書・設備・物資を米国に引き渡したことによって判明した。カーン博士がリビアへ派遣したスイス人技術者フリードリヒ・ティナー氏は、直径60センチ、重量300キロ以下の核兵器の設計図も所持していた。

カーン博士のリビア、イランとの取引は私欲のためだったが、カーン博士はパキスタンの国策に沿って、ウラン濃縮技術を北朝鮮のノドンミサイルやミサイル製造技術と交換しており、核兵器の設計を北朝鮮に提供した可能性は否定できない

それに、湾岸戦争前のイラクは重量900キロ、直径80センチの核兵器を独自に設計した。米政府は2003年にこの設計文書を発見し、06年にいったんウェブサイトで公開したものの、核拡散を助長するとして公開を中止した。

韓国の『月刊朝鮮』2005年8月号は、「北朝鮮はプルトニウム4キログラムを用いる重量1トンの核兵器を製造したが、開発した科学者は信頼性が低いとみており、重量500キロの核兵器を設計中である」という脱北者のインタビューを掲載した。この脱北者キム・イルド氏(仮名)は脱北時点で最高人民会議議員であり、核兵器と弾道ミサイルの生産を担当する第二経済委員会に勤務した経験があるという。

北朝鮮は2006年に最初の核実験を行う前、威力は4キロトンと予告したが、各国政府等による実際の威力の推定は1キロトン以下とするものが多く、その意味では実験は失敗した。しかし、北朝鮮は最初の核実験を重量1トンの装置で行い、その教訓をもとに重量500キロの核兵器を改良し、2009年の核実験を成功させた可能性があることを見逃してはならない

(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

 

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