世界最強の韓国人棋士があっさり敗北。人工知能は次に何を奪うのか?

 

車の運転に特化したAIがこの域に達すれば、乗り込んで「セブンイレブンに行ってくれ」と命令すればいいだけになって、運転免許証は要らないし、高齢者の免許証返上という問題もなくなって、実用的には便利だし安心なことこの上ないが、例えば「今日は天気がいいし、何となく海岸の方にドライブしてみようか」というような時に、「海岸に行きたい」と命令すれば、AIは最短距離で行ける海岸を検索して一直線にそこを目指すに決まっている。「そうじゃないんだ。のんびり走って、何か面白い店でも見つけたら立ち寄るとかしたいんだよ」と言っても、AIも私自身も、私が偶然何を見て面白いと思うかは分からないから、完全自動運転にというわけにはいかず、やっぱり免許証を持った人間が運転席に座らなければならない。あるいはまた、F1レースにAI自動運転が参入するとどうなるのか。囲碁の場合と同じで、AIが勝つに決まっているからF1レースで興奮することの意味がなくなってしまうだろう。

株のナノ秒取引というのも同じことで、どんなに速くても10分の1秒でしかキーボードを叩けない人間と、10億分の1秒で作動するAIが競うことは、不公平だという以上に、株式投資そのものが意味をなさなくなるのだろう。ところがすでに米国市場の5割、日本市場の4割はナノ秒の超高速取引に占められている。

結局、これは文明論上の大難問で、人間は何をAIに任せ自分では何をすればいいのかの棲み分けを真剣に考えないといけない。AIにはどこまで行っても出来なくて、どうしても人間にしか出来ないこととは、何なのか……。

ちなみに、今日の米ウォール・ストリート・ジャーナル電子版が伝えた調査結果によると、50年以内にロボットやコンピューターが必ずいま人間がやっている仕事の多くをこなすようになると予想した米国人は15%、たぶんそうなると思う人は50%だった。しかし、前掲の坂村教授は「いつか『その日』は来る。しかしもう少し余裕があると思っていた。アルファ碁の勝利はその日が意外と近いことを示している」と言っている。日本のコンピューター・サイエンスの頂点にいる健さんが「意外と近い」と驚いているのだから、これは大変だ。私らはそんなAI万能世界は見なくて済みそうだからどうでもいいのだが、若い人たちはそれに対する文明論的・思想的準備が出来ているのだろうか。宇宙物理学者のホーキングは「本当に知的なAIが完成したら人類は終わる」と言っていたが、ひょっとすると諸君はその人類の終わりに立ち会うかもしれないのですよ。

image by: Shutterstock.com

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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