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【地方創生】なぜ交通の便もよくない温泉地に、若い女性が集まるのか

アベノミクスのひとつの柱とされる「地方創生」。担当大臣まで据えていますが、無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の中で嶌さんは「期待外れ」と一刀両断し、民間の力で「再生」を果たした2つの成功例を紹介してくださっています。

チームワークとアイディアで地方創生

本日は地方創生の話。アベノミクスは最近、賞味期限がきたという感じがある。例えば黒田日銀政策も第1弾は成功したが、第2、第3弾は今ひとつうまくいっていない。それから、物価目標2%もうまくいっていない。そして、安倍首相が盛んに言っている官製春闘もうまくいっていない。なによりも期待外れなのは地方創生。さまざまなところで地方創生の話をし、盛り上がっているかというとそうでもない。しかしながら全国津々浦々まわってみると成功例は沢山ある。なぜもっとこれらの成功例を世界含めアピールしないのか。それらによって過疎化現象はなくなっていくように思う。

人気を博し、全国にも展開

実際に成功例をいくつか紹介したい。まず、「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」。忍者で有名な三重県伊賀市にあり、こちらは自分たちの農産品や加工製品を全国展開するのに成功した。当初農協職員だった木村修氏ら4人がもう少し自分たちの感性にあうような手作りのファームを作ろうということから始まり、テーマ型農園ファームが誕生。

テーマ型農園ファームとは、東京ドーム3個分以上の広大な土地、そこで作っている農産品や加工品を園内で販売しているほか、私も宿泊したことがあるがログハウスなどの温泉宿泊施設、「ウィンナー作り」「乳しぼり」「パン作り」「レンコン掘り」「田んぼ作り」「こんにゃく作り」などさまざまな体験教室やそこで採った農産品を自分で購入することもできる。名古屋や大阪から1時間半くらいかかるがいつもバスが20台くらい止まっている。

私も4、5年位前に大学のゼミの生徒と一緒に行ったが、特に中京、関西地方からの来場者が多く非常に人気を博している。脱サラした4人で農業法人を立ち上げ、開始当初1年は経営が苦しかったが、20年以上経ち、年間50万人が来場。今や社員が140人以上となり、若い人が中心となって働いている。

6次産業化により現代の忍者の里へ

収入源の大きなポイントとなっているのは会員制という点。年会費2,000円で会員となり現地でのモノづくり等の体験のほか、「自分好みの味のソーセージや加工品」やオリジナル商品が注文できることが大きな魅力。会員が4万人以上おり、これが安定収入となっている。農業に関心を持ち、さまざまなものを購入したいという人にとって非常に魅力的な場所となっているようだ。直営店が大坂、名古屋、東京(ミッドタウン)にまで広がっている。

よく6次産業化というが、こちらも1次で畑づくり、2次で加工、3次で流通まで幅広く取組み年商50億円を超え、現代の忍者の里と呼ばれるほど成功している。この取り組みは地方創生のよい例で、もっとこのように取り組んでいけばよいと思う。

湯布院をこす人気の湯治場

もうひとつの例は「温泉」。温泉といえば湯布院が有名だが、いま湯布院を超すのではないかと言われているのが湯布院の近くの熊本県の「黒川温泉」。80年代中ごろに私は友人4、5人で訪れたが、レンタカーで熊本中心地から1時間半から2時間かかる湯治場。

人気の立役者は、瀬の本観光ホテル社長の高島淳一氏。高島氏は黒川温泉を訪れる年代が非常に高いことから、このままいくと湯治場としてだめになってしまうと改革を決意し、47歳の85年に黒川温泉・観光旅館協同組合の初代組合長に就任。

ユニークな「黒川改革」

黒川改革として「企画班」「環境班」「看板班」の3班を作った。「企画班」は黒川温泉には様々な泉質の温泉があるので各旅館で露天風呂を作るよう整備。私が行った時も川沿いに温泉があって非常に気持ちよく、1,200円の入湯手形を購入すると3か所の温泉が利用できる。宿泊旅館では地元の食材の料理が提供され、地元ではなるべく農薬を使わないようにすることで蛍や赤トンボが飛び交っている

「看板班」は東京にあるような看板が掲げられていると田舎らしくないということで、看板を全て撤去。「環境班」は面白いお風呂をつくろうという班だったが、そこに後藤哲也氏がおり3年かけノミ1本で洞窟を掘りお風呂にして「洞窟風呂」を完成。これが人気で全国から多くの人が訪れている。

異例のミシュラン二つ星に

現代人はコンクリートのビル、アスファルトの道路に囲まれ、パソコンと向き合い、満員電車での通勤などによってストレスがたまっていると思うので、黒川に来てお地蔵さんや石畳、四季が感じられる風景、派手なお土産屋ではなく射的があったり浴衣を着て下駄で歩ける昔の温泉町であることをアピールし、今や湯布院を超す人気となっている。湯布院へは山ひとつ超えるだけなので、湯布院と両方行かれる方も多い。

先ほど紹介した入湯手形の代金の200円がそれぞれ3つの旅館に、残りの600円が組合費として分配され、新たな温泉街を作る費用に充当される。この入湯手形は年間10万枚を超える売れ行きで、来客は年間100万人を超え、2009年版ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでは温泉地としては異例の二つ星となり、今や日本屈指の人気のある温泉となり予約が困難な状況。

チームワークで地方を活性化

こうやってみるとアイディア勝負でリーダーがしっかりしており、規制をドンドン緩和し、みんなで協力。「黒川一旅館」として黒川全体でひとつの温泉を作るんだというチームワークがよかったように思う。

こういう地方を活性化させる努力が全国津々浦々にまだ沢山ある。ぜひこういうことをやって地方創生に結びつけて頂きたい。ただ、国が声をかけるだけではだめではないかとも思う。

(TBSラジオ「日本全国8時です」3月22日音源の要約です)

image by:Shutter stock

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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