MAG2 NEWS MENU

任官しない防大卒業生は、ほんとうに「食い逃げ」なのか?

防衛大学校の卒業生は原則卒業後の任官が義務付けられていますが、中には任官せず民間企業への就職を選ぶ人もいます。このような非任官者はマスコミから「国民の税金でただ飯を食っておいて!」と批判の対象となることもしばしば。これについて、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、任官拒否者を非難がましく見るべきではないと主張、マスコミの勉強不足を痛烈に批判しています。

非任官者は「食い逃げ」か?

21日に行われた防衛大学校の卒業式について、新聞に次のような見出しが躍りました。

「<防衛大学校>民間挑戦の男子 安保法論じぬ硬直性に違和感(3月22日付け毎日新聞朝刊)」

「防衛大生が打算する第二の就職先/イザ鎌倉の前に転身する、その人生観」(『週刊サンケイ』1968年4月22日号)、「食い逃げ『防大生気質』訓練されているから民間は歓迎」(『週刊新潮』1981年4月2日号)といった感情的な論調こそなくなりましたが、「任官拒否した学生を非難がましく見ている印象は否めません。

そこで、私はNewsPicksに次の二つのコメントを出しました。

私は任官拒否者を肯定的に捉える立場から、任官拒否者にインタビューした『リーダーのいない経済大国』という本を1987年に出版した。日本国民には、以下の角度から考えてもらいたい。

第1に、100%の学生が入学時点で進路を自衛隊に決めてしまうことが不思議で、むしろ10~20%が他の分野に進む方が正常だし、任官拒否者が自衛隊に進んだ同期生たちを連帯して自衛隊を支える基盤を広げるように激励してやるのが戦略的な思考だという点、第2に、巨額の税金を使いながら卒業生の限られた数しか国家公務員になっていない東京大学などとの比較を視野に入れず、税金の無駄遣いと批判するのは見当外れという点、第3に、何食わぬ顔をして卒業式で帽子を投げながら、幹部候補生学校到着段階で自衛隊を退職する「もぐるというケースこそ悪質で、こちらこそ指弾されるべきであり、堂々と名乗って任官しない卒業生は正直で防衛大学校の教育の優れた面を表しているという点、である。特に「もぐる」ケースについてマスコミがまったく知らないのは取材不足としか言いようがない。

この記事を書いた町田徳丈記者へ。 以下のような続報を期待します。

 1)正直に任官拒否を表明した学生よりも、自衛隊の組織に対して背信行為を犯している「もぐる」ケース、つまり、何食わぬ顔で卒業式に出席し、帽子投げに加わり、曹長の階級章をつけて校門を出ながら、幹部候補生学校到着段階で自衛隊を辞めるケースについて、実態を国民に明らかにしてもらいたい。 
2)貴社の瀧野隆浩編集委員(防衛大学校26期生)のインタビューを掲載し、これまでのマスコミ報道より掘り下げた防大生の内面に迫ってほしい。 
3)拙著『リーダーのいない経済大国』(87年、太陽企画出版)は1期生から26期生まで26人の任官拒否者のインタビューで構成したものだが、最も若い登場人物として瀧野記者も含まれており、取材時の参考にしてもらえればと思う

次のようなツイートもしました。

防衛大学校の『任官拒否』についてのマスコミ呼称に違和感。『非任官者』とするのが適切ではないか。防衛省は『任官辞退』とし、過去のマスコミ造語は『任官拒否』だが、どちらも牽強付会、客観性に欠ける。特にマスコミが『任官辞退』と書くのは、政府との距離感についての自覚に乏しいので要注意だ。

防衛大よりはるかに予算を使って国に貢献していない大学がある

そして、おそらく日本でただ1冊であろう防衛大学校の任官拒否を取り上げた単行本『リーダーのいない経済大国』(太陽企画出版)を書棚から取り出してみました。

なかなか読み応えがあると自画自賛しながら読み進む打ち、これだけは再掲載しておかなければならないという部分に行き当たりました。「食い逃げ」批判に対する反論です。

任官しない防大卒業生は、ほんとうに『食い逃げ』なのか。ここに、ひとつの数字がある。 

昭和60年度の防大の年間予算は92億300万円で、大学院に当たる理工学研究科を含めた2300人の学生総数で単純に割ると、ひとりあたり年間400万円かかっている。むろん、衣食住の費用と学生手当を含んでいる。 これが、海上保安庁の幹部要員を養成する海上保安大学校だと、防大とおなじ衣食住と学生手当てつきで、年間11億円の予算を200人の学生が使うわけで、ひとり547万円にもなり、防大の比ではない。 

日本のトップエリートを生み出している東京大学ともなれば、1万3817人の学生に対して、981億1300万円もの予算がついている。東大で必要とする膨大な研究費の問題は考慮しなければならないが、単純に割れば、学生ひとりに防大の倍近い710万円が使われている計算になるのだ。 

卒業生の国への貢献度でも、防大だけが非難されるいわれはない最も国費を使っている東大では、60年度の国家公務員上級職試験合格者546人、司法試験合格者80人で、全員が国に就職したとみなしても、学生全体のわずか4.5%にしかならない。 

船長、機関長など海の専門職の養成が目的の国立東京商船大学では、海運不況のあおりを受けているとはいえ、学生ひとりに年間264万円をかけながら、船乗りになったのは卒業生のわずか27%、39人にすぎなかった。おなじとき、防大30期生は410人の卒業生のうち、任官しなかったのは22人、明確な意思で任官拒否した者はそのなかの15人でしかない。 
任官拒否について、ジャーナリズムがいかに事実を伝えていなかったかは、以上のデータでも明らかであろう。

出版社が乗ってくれたら、電子書籍にでもして広く読んでもらいたいと思い始めています。

 

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
<<無料サンプルはこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け