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学費免除に給料、医療保険まで。日米の大学院にある大きな格差

アメリカの大学院で免疫学の博士号を取得した、『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』を配信中のしんコロさんですが、日本とアメリカの大学院のシステムには大きな違いがあるといいます。アメリカではお給料までもらえてしまうというから驚きです!

こんなに違う、アメリカと日本の大学院システム

最近の僕はといえば、研究と論文作成に精を出しています。そこで、今回のメルマガでは自分がNY に来て今の生活を送るようになるまで、僕の本業の方の視点から書いてみたいと思います。普段はしおちゃんの飼い主しんコロとしてブログやYouTube に姿を現していますが、今日はちょっと真面目な自分の部分の話をしてみたいと思います。

まずは、アメリカに来た目的と、それがアメリカの教育システムに理由があったということをお話してみたいと思います。

僕は2000~2003年はロサンゼルス、2003~2013年はシアトル、そしてそれ以降はNY に住んでいます。そもそもの渡米の目的は、アメリカで免疫学を研究して博士号を取得することでした。それは肩書が欲しいからというよりもむしろ、アメリカの厳しい大学院でみっちりとしごかれたいという気持ちがあったからです。

ただ博士号を取得したいだけだったら、わざわざ時間をかけて苦労をしてアメリカで研究をしなくても、日本に残って取ることもできたはずです。また、当時日本では「論文博士」というシステムがあって、大学院教育を受けていなくても論文を書けば博士号がもらえるという大学もありました。

論文は査読を受けていないどころか、学内雑誌に掲載されるだけで博士号が授与されてしまうという、言葉は悪いですが「お手軽博士号」も日本には存在しました。もちろん、「お手軽」と言っても誰にでもお手軽なわけではなくて、それなりに研究はしなければなりません。けれども、日本の博士号は一般的な資格とは違ってガイドラインや基準が大学によってまちまちです。なので、博士号はピンキリだと言われてしまうことがあります。

>>次ページ 大学院がしんコロさんに使った驚きの金額

飴と鞭のアメリカ大学院

もちろん、日本の大学も最近は変わってきましたし、ちゃんと大学院のカリキュラム+査読論文をこなさないと博士号が授与されない大学もあります。

ここで僕は、日本の大学院よりもアメリカの大学院の方が良いという比較をしているのではなくて、そもそもアメリカの大学院は日本のそれと全くシステムが異なるということを強調しておきたいと思います。

平たくいえばアメリカの大学院は「めっちゃ厳しい」のです。ただそのかわり、日本とちがって「完全サポート」もしてくれます。僕が在籍したワシントン大学の免疫学科は、僕が大学院在学中の学費はすべて免除してくれたし(実際は僕の代わりに学科が大学に支払ってくれた)、普通の生活ができるだけの給料も出してくれたし、医療保険なども与えてくれました。僕がワシントン大学に在学していた間に免疫学科が僕に使った金額をすべて合わせると、なんと約3800万円にものぼります。それプラス、研究にはお金がかかります。それらのお金は、ローンではないので僕は一切返金する必要がありません。免疫学科が、僕に投資してくれたお金なのです。

こうして数字を改めて思い出してみると、アメリカっていい加減なところがありながら、一方でものすごく懐が深い部分もあり、そこは深く感謝しています。

一方、日本の大学院では大学院生は学費を払う義務があり、給料はもちろん出ません。学費を捻出するために学術振興会の奨学ローンでお金をかりて、後から借金を返すという大変な思いをしている人もいます。

こういったシステムのために、日本の大学側は大学院生を沢山受け入れることができます。なぜなら大学院生は学費を払ってくれるので、お金をもたらしてくれるからです。1つの学科に30名とか50名とか、100名を超える学科もあります。

一方、僕がワシントン大学の免疫学科に入った時は、クラスメイトが他に5人いました。その年は僕を入れて合計で6人しか合格せず、日本人では歴代で僕が初めてでした。本当にこれは幸運なことで、それまで色々な人に支えながら行った努力が報われたこともありますが、大学院受験の面接の時もワシントン大学の教授陣と話がしっくり合ったことが要因だったと思います。

>>次ページ 我らが東大の免疫学研究の世界での順位に衝撃

世界から見られる時

結局、こういったアメリカの大学院の学生を育てる「真剣度」が高いために、「アメリカの大学院は多方面で優れている」という一定の指標を用いた評価に繋がることは事実です。免疫学の分野では、世界のトップ5の大学はハーバード大学、ロックフェラー大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、ジョン・ホプキンス大学、そしてワシントン大学です(US News Education 調べ)。ヨーロッパの大学も退けてトップがほぼアメリカで埋め尽くされていて、東京大学がランクインしてくるのが21位というデータを見ただけでも、明らかに何か根本的な違いがあるということが認識できます。

単純にどちらの大学のが良いか、ということではなくて、システムそのものが違うということを示唆していると思います。というのも、日本の大学だって物凄く優れていて、頭の良い人達が沢山いるわけなのですから。頭の良し悪しという尺度だけでは計れない、システムの差がそこにはあるわけです。

最も簡単な例でいえば、アメリカの上位の大学院は大学院生に対してお金や生活を完全サポートしてくれるかわりに、その入学枠が小さくそしてめちゃくちゃ厳しい教育を行います。学科から見たらそれだけのお金を投資するわけですから、しっかりみっちり学生を育てたいと思うわけです。

日本では大学院生は大学にとって学費と労働力をもたらしてくれる存在ですが、アメリカでは大学院生は大学にとってお金も手間もかかる存在です。そもそもの捉え方が違うのですね。

そして僕は、そんな厳しい道をあえて外国人として乗り越えてみたい、というチャレンジをしてみたかったのです。もちろん、それは簡単なことではありませんでした。次回は、それを実現するために行った下積み時代の話を書いてみたいと思います。

『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』 Vol.107号より一部抜粋

著者/しんコロ
ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。言葉をしゃべる超有名ねこ「しおちゃん」の飼い主の『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』ではブログには書かないしおちゃんのエピソードやペットの健康を守るための最新情報を配信。

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