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歴史マニアに突っ込まれても「真田丸」が史実通りに描かれない理由

現在放送中の大河ドラマ「真田丸」は概ね好評のようですが、一部の歴史マニアからは「天下の家康があんなにどうしようもない人間だったワケがない」と批判の声も上がっているとのこと。しかし、無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さんは、NHKもそんなことは百も承知の上で脚色しており、さらにそれはクリエイターにとってとても重要な能力だとも述べています。

判明していないこと

大河ドラマなどの歴史ものの作品が出てくると、

「これは本当の歴史とは違う」
「実際にはこの人はこんなことは言ってない」

などという歴史マニアからの批判や文句が必ずと言っていいほど飛び交います。ネット上では「史実厨」と呼ばれる人々ですが、自分の知っている史実とは違った部分を見るとすごく茶々を入れたがるのです。

でも、史実どおりやれば面白いわけでもないので、そういう人たちの意見に左右されてしまうと、作品は一気に面白くなくなりますから、その辺りのバランスが大事です。

NHKには歴史考証の担当者がいて、そんな史実厨をはるかに凌駕するほどの史実の情報を持っている人が監修しています。テレビ番組ではそういう人が監修していながら、脚色が許されるのはなぜなのか。それは、脚色の線引きを歴史ではなくドラマよりに持っていっているからです。

例えば、2004年に放送された大河ドラマ『新選組!』は、第1話で若き日の主人公・近藤勇と土方歳三が、坂本龍馬や佐久間象山と黒船を見に行きます。これが「近藤勇が坂本龍馬と仲が良かったわけがない」といろんなメディアで酷評されまくり、初回は26%あった視聴率は降下していって、全体の平均視聴率は17.4%となってしまいました。

しかし、そういう史実や今までの定説を重視する人たちからはそっぽを向かれたものの、放送後に発売されたDVDボックスは過去作最高の売上を記録する大ヒットとなり、いまだに最高傑作と高評価する人がたくさんいます。

でも、歴史考証が入るNHKの大河ドラマにおいて、なぜ「仲が良かったわけがない」と酷評されるような近藤勇と坂本龍馬の出会いが描かれたかというと、「若い頃から仲が悪かったという史料はない」からです。

つまり、「そんな史実はないから、認められない」ではなく、「そうでないという史実はないから認めてもいい」という使われ方なんですね。そういう線引きができないと、面白いものや新しいものは生み出せないのです。

横山光輝の全60巻の大作『三国志』で、主要人物の1人である豪傑の張飛(ちょうひ)には右目や左の頬に大きな傷があります。これは、作者の横山光輝が、中国の張飛の史料をいろいろと眺めてみた結果、どれもおなじ虎髭の張飛像ばかりだったけれども、「前線で飛び出る武将に傷がないわけがない」と解釈して、自分の解釈でつけたものなんだそうです。

確実にその影響を受けている最たるもの、本宮ひろ志の描いた三国志漫画天地を喰らう』で、この作品の張飛も、片目が傷でつぶれています。この『天地を喰らう』という漫画は1989年にカプコンによってアーケードゲームとなりましたが、このかつてのゲーム基板が、今は中古品としてタイやベトナムなどの東南アジア各国の下町のゲームセンターにやたら出回っています。

今は東南アジアでも、同人誌を描くようなクリエイターの卵がどんどん育っていっていますが、彼らたちの描く三国志の題材の中には、顔に傷の入った張飛を描いているものもあり、「ゲーセンのゲームではそうだったから」というイメージを持っていたりします。つまり、今まで描かれてきた虎髭の張飛とはまた違う新しいイメージの張飛がうまれたわけです。

これも、横山光輝先生が最初に傷を入れたのは、「張飛には普通、顔に傷はない」ことよりも「張飛の顔に傷はなかった、という史実はない」ということほうを前提にしているからです。

「判明していない部分は取り入れない」ということではなく、「判明していない部分は好きなように膨らませる」ということが脚色をする際には大事で、それが新しいものを生む発想のひとつと言えるでしょう。

判明していることのみを使うのではなく、判明していないことを想像できる力が、クリエイターには求められているのです。

【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)

image by: Shutterstock

 

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