MAG2 NEWS MENU

「2年前から警戒していた」専門家が語る熊本地震が予測困難だった訳

2年に渡り警戒を続けていた熊本地震

5月14日・16日に震度7の揺れを観測する大きな地震が発生し、それ以降も余震が相次ぐなど、活発な地震活動が続いている熊本県をはじめとした九州地方。これまでに50名近くの方が亡くなり、現在も多くの方々が避難生活を余儀なくされるなど、大きな被害が出る結果となってしまった。

今回の地震まで、巨大地震とはあまり縁がない地域というイメージがあった九州地方。しかし、この地での大規模な地震の発生を以前から予測していたのが、測量工学的アプローチで地震を予測している研究団体・JESEAジェシア・地震科学探査機構)だ。

国土地理院が測量のために、全国約1300箇所に設置している電子基準点。JESEAでは、その電子基準点から毎週に得られるGPSデータを独自に解析することで、地震発生の前兆となる現象をキャッチし、それに基づいた地震予測を、メルマガ『週刊MEGA地震予測』などを通じて発信している。

JESEAでは、以前よりこの九州地方の活発な変動に注目し、メルマガでも警戒レベルは変化させつつも、2014年5月より継続的に注意を呼び掛け。また、2016年1月に発売された週刊誌『週刊ポスト』誌上では、今年の春頃までに大きな地震が起こる可能性があるエリアのひとつとして、熊本県を含む南九州エリアを挙げていた。

 

ただ今回の地震が発生する直前、3月ごろの南九州エリアは全体的に沈降は見られるものの、比較的落ち着いていたという。そのためメルマガ『週刊MEGA地震予測』では、2年近く掲げていたこのエリアに対する警戒の呼びかけを、3月いっぱいで一旦取り下げる決断を下した。しかしその直後に、今回の地震は起きてしまった

今回の地震を受けて話を伺ったところ、JESEAでは、震源となったエリアにある電子基準点のGPSデータを解析した際、熊本県の千丁と球磨という20㎞程度しか離れていない2つの地点において、4月初旬の段階で一方は隆起、もう一方は沈降がみられ、両地点で最大5㎝近くもの変動差があったという。

ただ、これほどまでに大きな直下型地震の場合、もっと大きな変動が複数出ると思っていた。しかし、今回の地震は比較的震源が浅かったこともあり、地震発生前に大きな動きがあったのは、ここのみだった。その点では、今回の地震は、その発生を予測することが非常に難しいケースだったという。

 

取材に対応してくださった、JESEAの顧問を務める東京大学名誉教授の村井俊治氏は、今回の地震について「このような小さな兆候でも、これほどの大規模な地震に繋がるというのは、今回の地震で得た大きな教訓。同じような間違いを再びしないように、今後さらに経験を積んでいきたい」と、後悔の念をにじませながらも、今後のさらなる予測精度の向上への強い決意を語ってくれた。

なお、今回の地震の後に配信されたメルマガ『週刊MEGA地震予測』では、熊本県・大分県・宮崎県周辺を、震度5以上の地震が発生する可能性が極めて高い“レベル4”としている。今回の地震によりこのエリアの地表は東西・南北方向へと変動したが、その動きが相反している境目が熊本県から大分県方向、そして熊本県から宮崎県へとライン状に伸びているのが認められており、そこに溜まったひずみがさらなる地震を引き起こす可能性が高いとのこと。

さらに、この九州地域と同様に厳重な警戒が必要なエリアとして挙げられているのが、相模湾・駿河湾・東京湾に面する南関東伊豆諸島・小笠原諸島といったエリア。今年3月には小笠原諸島の各地点で一斉異常変動があり、これは2015年5月に発生し首都圏で最大震度5強の揺れを記録した小笠原諸島西方沖地震とパターンが酷似しているという。

リアルタイム解析で地震予測は大きく進化する

さて、今回の件を振り返ってみても大いにわかるのが、地震の予知・予測において“発生時期”を推定することの難しさ。この高いハードルを越えるべくJESEAが現在進めているのが、最新型の電子基準点を活用したリアルタイム解析による地震予測だ。

JESEAは去る15年に、箱根や富士山にほど近い神奈川県小田原市と大井町の2箇所に、自前で電子観測点を建設。また今年3月に報じられた通り、NTTドコモが持つ各地の携帯電話基地局にも、新たに電子観測点が建てられることになり、2016年度内には全国16か所への設置が完了する。

NTTドコモの基地局に設置される電子観測点に関しては、北海道えりも町や和歌山県串本町といった岬がある地域や、日本最大級の断層系である中央構造線が通る長野県茅野市など、地表の変動を監視するにあたってのキーポイントとなる場所が選定された。また今年5月末にG7伊勢志摩サミットが開催される三重県志摩市にも、すでに設置されている。

現在建てられている電子基準点は、もちろん最新式のもの。例えばアンテナは、携帯電話基地局に併設されるということで、LTEアンテナから発する電波とは一切干渉しない、最新鋭のものが採用されているという。

これらの新しい電子観測点が持つ最も大きな強みが、各地点のGPSデータを1秒ごとに得ることができ、そのデータがリアルタイムでJESEAへ送信される点だ。

国土地理院が建てた従来の電子基準点によるデータは、現在1日平均のものが計測から2日後に無料公開されている。JESEAの地震予測もこのデータを活用しているのだが、データ取得にタイムラグがある点もさることながら、1日平均のデータということで瞬間的な大きな動きが平均化されてしまい、そのため兆候として捉えにくくなってしまうこともあるという。

それに対し最新の電子観測点なら、地震発生の予兆となるような大きな地殻の動きも瞬時にキャッチ可能。そのため、課題である地震発生のタイミングに関する予測も、その精度が大いに上がることが期待されている。

現に今回の震源近くにある城南という場所の電子基準点では、前震が発生した4月14日に約6cmという著しく大きな隆起があり、翌15日以降は大きく沈降するといった、気になる動きがあったという。この14日の隆起が地震発生の前のものか後のものかは、データが国土地理院による1日平均のものなので、特定ができないとのことだが、もし当地に最新型の電子観測点が立っており、なおかつこの動きが地震発生前のものだったとすれば、この動きが“地震発生が間近であることの前兆として捉えることができた可能性があったという。

 

 

 

 

今のところ新しい電子観測点は、自前で建てた2基、NTTドコモの基地局に順次設置が進んでいる16基ともに、リアルタイムデータを用いた実証研究が本格的に始まるところという、いわば試運転の段階。ただ、今後これらが地震予測の実戦に投入されれば、地震が発生する場所とともに時期も推定できるという、より高度な地震予測の実現に大きく前進することになりそうだ。

 文責/MAG2NEWS 編集部

 

『週刊MEGA地震予測』
著者:JESEA(地震科学探査機構)
測量学の世界的権威である東京大学名誉教授・村井俊治氏による、測量工学的アプローチに基づいた地震予測を毎週配信。2014年に発生した震度5以上の地震を全て予測するなど、高い予測的中実績を誇り、テレビ・新聞・雑誌等での紹介も多数。
≪初月無料/購読はこちらから≫

 

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け