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安倍総理の根回し大失敗。それでも伊勢志摩サミットを開催する理由

5月26、27日に行われる「伊勢志摩サミット」。かつては国際会議を開催すれば観光客も増え、経済効果が期待できるとされていましたが、現在は警備の都合上各国首脳たちが気軽に外出することもなくなり、地元からは一部反対の声も上がっています。にもかかわらず安倍総理がここまでサミット開催に力を入れる理由とは? 無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で詳しく解説されています。

サミット直前、国際会議の招致で経済効果はあるのか?

本日は伊勢志摩サミット開催直前ということで、サミットの話をしたい。今回のサミット会場付近の伊勢志摩では観光客が減少しているともいわれる。私はこれまで30回ほどサミットの取材に行ったが、観光客の減少という側面のみならずサミットの意義が相当薄れてきていると感じる。

サミットの意義が薄れ始めた時期

北海道洞爺湖サミット(2008年)からG20、ロシアといった参加者も増え、意見の収拾がつかず、取るに足りないような共同声明を出すようになった。これらのことからもサミットの意義がなくなりつつあるように思う。

昔はステータスだったが…

今回の伊勢志摩サミットでは警備の話題が盛んに出ているが、安倍首相はこれから日本で国際会議を多数開催していく意向のようだ。だいぶ昔、国際会議を開催する意義は国威発揚であり、自国は安全だという宣伝にもなり、さらに世界の首脳が来ることで日本が世界の中心となるということが、一つのステータスであった。しかしながら今や国際会議を開催することに皆、賛成しているわけではなく、そういう意味からも今回の伊勢志摩サミットの開催を必ずしも皆、喜んでいるわけではないというように思う。

史上最大の警備規模

今回政府は「見せる警備」といって警備に焦点を合わせているようだが、警備に焦点を合わせれば合わせるほど観光客が来なくなるという問題もある。警備費用は北海道洞爺湖サミットを上回る340億円、警備規模は2万数千人で、警備の額も人も史上最高のものであるとも言える。それだけ警備が強化されるということは規制が厳しくなるということでもある。

近年開催されるサミットは取材センターから会場までの距離が30、40km離れており、途中検問所が沢山あり、そこに行ける人は10人程度の為サミット会場で取材するということはほとんどない。そういう意味からもサミットを開催する意味が必ずしもあるのか。また、地元も必ずしも賛成ではないことから、サミットの存在がこれまでとは大きく変わってきたと言える。

古き良きサミットは?

東京サミット(1979、86、93年)の頃はまだ皆、和気あいあいとしていて、お祭り気分もあった。日本に初めて世界の首脳が来る。首脳たちもちょっとした合間に街に出て、レストランに入って昼ご飯を食べるということもあった。また、レーガンが食べたメニュー(86年開催時)がその後「レーガンメニュー」として売り出されるなど、街の人びととふれ合おうという雰囲気が非常にあった。今はもうそういうことは皆無となった。

その当時から特に東京の警備は厳しく、日本で何か起こってはいけないと迎賓館周辺数キロ圏内で聞き込み調査を実施したり、ゴミ箱を撤去するなど限界な警備態勢であった。整備側はなるべく市民と世界の首脳たちの接触を避けようとしていたが、首脳たちはその国民の中に溶け込んでいくのが我々の役割だとしてレストラン等に出かけ、周囲をヒヤヒヤさせていたという状況だった。

状況はすっかり様変わりしているが…

その当時から状況は徐々に様変わりし、世界的にサミットに対する期待感は落ちてきている。安倍首相は「外交の安倍」といわれ、100あまりの国や地域を訪問し世界の首脳と顔を合わせている。その方々を呼んでそこで主役になるということに非常に思い入れがあるように感じられる。

こんな状況下においても、安倍首相はさまざまな国際会議を招致することによって東京は国際会議の中心となり、さらにここで全ての事が決まってゆくということをアピールできるというように思われているのではないか。

今回ヨーロッパやロシアに根回し外交をしたが、昔からこのような方法をとることもあった。今回、特に力を入れているのであのように各国を訪問したのだろう。しかしながら各国をまわってみたものの、結果としてはあまり成功したとはいえない。ドイツなどに財政や金融を一体化しようという提案をしたが「NO」といわれ、根回し外交も空振りに終ったという感じがする。

経済効果も期待薄

昔はサミットを開催する経済効果があると盛んにいっていた。サミット開催により訪れる人が増加するともいっていたが、近年はむしろサミット開催時期を避けて訪問している傾向にある。今回の伊勢志摩サミットでも宿泊者の大半が警備関係者で、一般の人はなかなか来ない。北海道洞爺湖サミットの時も同様の現象であった。

そういう意味からサミットが来るとむしろ一般のお客様が来ないのではないかという側面の方が多い。中部圏社会経済研究所によると観光客が約27万人減少、それに伴い観光消費額も約32億円減少すると試算している。

地元でも交通規制が厳しくなかなか観光が出来ないと悲鳴をあげ、警備の方々の宿泊ではあまり地元におカネは落ちない。伊勢志摩サミット開催後は来る人がいるかもしれないが、そういった可能性はそこまで期待はできない。

錯覚から大きな過ちに

昔と違ってテロに対する警戒感が圧倒的に強まり、2020年開催の東京オリンピックに関しても当初3,000億円とも言われた運営費が一部報道で1兆8,000億円と6倍にもなるともいわれ、警備には非常におカネが掛かり、警備が増えれば増えるほど一般のお客さんは来なくなるという悪循環を繰り返している。ただ日本は国際会議を開催したことで権威があがったように政治家たちは錯覚するというところがあるのだろう。

弱体化が進行するサミット

海外のサミットにもずいぶん行ったが、最近は国ごとの違いはなくイタリア・ジェノバサミット(2001年)で暴動が起きてからは皆、山の中でのお籠りサミットとなり先に述べたように会場と取材センターが30、40km離れ、中継でつなぐだけなので東京でやっても同じである。首脳たちが開催地の国民と接するという本来の意味もなくなってきた。結局80年代頃までの牧歌的な時代の方がサミットらしかったと言える。

繰り返しになるが、以前はサミットが自国で開催されることにより、国民に持ち上げられ世界の中心がわが国にあるなという気概もあったが、今やそういったことは感じられなくなってきた。その中で、日本は国際会議を招致しようとしていることは一足遅れている感じが否めず、招致することが偉いという気持ちがあるのだろうか?

いずれにせよ無事に終わって欲しい。

(TBSラジオ「日本全国8時です」5月10日音源の要約です)

image by: Wikimedia Commons

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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