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イギリスで安倍バッシング。英国メディアが逆ギレで総理を痛烈批判

 6月23日に行われる「イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票」。離脱の可能性は低いとされる一方で、一部からは根強い「離脱賛成」の声も上がっています。GWにイギリスを訪問した安倍総理がこの問題について言及し、英メディアからバッシングを受けたことからもわかるように、ピリピリムードのイギリス。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、そんな英国の今後を占っています。

イギリスのEU離脱は1国の問題ではない。離脱でありえる経済危機

EU欧州連合離脱をめぐる国民投票が6月23日に行なわれる。まず森本毅郎様より、「よくイギリスのTVドラマを見ているがイギリスは実に奥深い国だ。BBCのドラマは本当に質が高い」という話が出て、私も教養があると同意。

栄光のイギリス

しかしながら今、そのイギリスはEU残留か離脱かという選択を迫られている。私は離脱は無いと思うし、むしろすべきでないと思う。かつてのイギリスは「栄光のイギリス」であり、離脱したら単なる中流国家となり誇りを失うことになるから絶対に離脱すべきでない。

ただ、イギリス国内では残留を支持する金融界、政財界の声もあるが、キャメロン政権を支える30名の閣僚のうち6名が離脱を支持、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長も離脱を支持するなど混迷を極めている。先日新たなロンドン市長となったイスラム教徒のサディク・カーン氏は残留を支持するなど、イギリス国内でも世論が二分している

オバマ大統領が及ぼした影響

アメリカのオバマ大統領は4月にイギリスを訪問した際、キャメロン首相との共同記者会見で残留を支持したが、アメリカの生みの親のイギリスからするとある種の誇りがあり、アメリカには干渉して欲しくないようで、オバマ大統領の発言後イギリス国内では離脱派が増加した。

参考までにイギリス国内の数字を見てみると、オバマ大統領がイギリスを訪問した際の世論調査では離脱派が前の週より2%アップし拮抗。若干残留派が離脱派を上回っている。オバマ大統領としては、通貨などさまざまな問題から大混乱を引き起こしたくないという気持ちがあったのだろうが、オバマ大統領の発言による影響は少なからずあるようだ。

安倍首相が受けた痛烈な批判

安倍首相もゴールデンウィークにイギリスを訪問したが、世論としては無風。むしろメディアから痛烈な批判を浴びている。「EUからイギリスが離脱することにより、通貨が大暴落するなどの影響が懸念されるため離脱しない方がよい」という一般論の常識的な話をしたのだが、地元メディアの報道には「イギリス国内がこの問題でピリピリしている時に知ったかぶりで発言するな」というメッセージが含まれているように感じられる。

地元紙のデイリー・テレグラフ紙は、「日本経済は困難に直面し、深く停滞している。ゆえに安倍首相のEU離脱論に耳を傾ける必要はあるのだろうか?」(5月6日付け:原題 Japan’s economy is tanking. So why should the UK listen to Shinzo Abe on Brexit?)と報じ、本文中では「経済政策で3本の矢を放ったが、いずれの矢も的外れだった」という記載もしている(原文:Mr Abe has launched a three-pronged attack consisting of “three arrows”: one arrow for monetary policy, one for government spending, and another for reforms of the economy. But his arrows appear to have landed wide of the mark.)。イギリス国内で誇りを持って議論している時に、余計な口出しをしてほしくないというのが本音であろう。

イギリスがEUを離脱するリスクは?

ここで、客観的に分析してみたいが、イギリスが実際にEUを離脱した場合のリスクはいくつかある。離脱した場合の主な道としては3通りあると想定される。

  1. ノルウェー型
    EUに加盟せず独立している国。漁業、林業など様々な産業がある。損失規模がEU加盟継続に比べ2030年までにGDP比で3~4%増加
  2. カナダ型
    カナダはイギリス系の国で同GDP比で4~7%増加。これも決して得ではない。
  3. 世界貿易機構(WTO)加盟に基づく共通ルール構築型
    同GDP比で5~9%増加。規模の拡大に伴い、徐々に経済損失規模が大きくなっている。

ノルウェー、カナダはイギリスと比較しても経済・人口規模とも小さいため、同一に考えてはならない。上記の経済分析においてイギリスがEUを離脱した場合に経済損失は必ず生じるため、離脱しない方がよいといえる。かつここではEUからの距離が離れれば離れるほど経済損失が大きくなり、離脱を考え直すべきだと提案している。

イギリスを取り巻く環境が起因

それにもかかわらずイギリスがEU離脱を考える理由としては主に2つある。

  1. 移民の急増
    2004年にEUに新たに加盟したポーランドなど東欧諸国からイギリスへ流入した移民が急増している。リーマンショック以降雇用低迷が深刻となり、低賃金で働く移民が雇用を奪っているとの不満が国内に蔓延している。さらにEU域内での人、通貨、物流の自由が徐々に無くなるのではというEUへの懐疑論も出ている。
  2. ユーロ危機対応
    イギリスはユーロに加盟していないにも関わらず、ユーロ危機対応に巻き込まれた。

覇権国の誇りを忘れるな

イギリスは独自路線を取るというメリットと離脱のリスクを天秤にかけているが、私は経済の議論だけで離脱を考えていいのかと思う。イギリスはアメリカの台頭までは世界をリードしてきた覇権国である。世界をマネージメントした経験も持っている。南アフリカなどのアフリカの国々、インド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど世界に多くの植民地を持ちイギリス帝国を築いたことで、多くの情報を保有している国でもある。

学問ではオックスフォード、ケンブリッジがあり、多くの学者がここで学んでいるように誇りをもった国でもある。そういう国が単なる経済の問題でEU離脱を考えてよいのかという側面があると思う。

今後の行方に注目

イギリスがヨーロッパを支えている部分もある中で、近年ドイツが中心になってきたことが悔しく、複雑な心情になっていることもあるのだろう。昔はイギリスとフランスが支えていたのが、フランスとドイツに変わった。サッチャー元首相は生前ものすごく怒っていたこともあった。

誇りが、独立か、EUを引き続き支えるのか。今後大きな岐路に立たされると思うが、6月23日に投票が実施される。これはみものだと思う。

※デイリー・テレグラフ紙の記事リンク
Japan’s economy is tanking. So why should the UK listen to Shinzo Abe on Brexit?

(TBSラジオ「日本全国8時です」5月17日音源の要約です)

image by: MediaPictures.pl / Shutterstock.com

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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