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日本車はもう売れないのか? 世界のクルマ産業における日本の「現在地」

日本車はもう売れないのか? 世界のクルマ産業における日本の「現在地」

大手自動車メーカーによる燃費の数値偽装が続々判明するなど、なにかと暗い話題ばかりの日本の自動車業界ですが、それは世界的に見ても同じなようです。メルマガ「クルマの心」の著者で、自動車ジャーナリストの伏木悦郎さんは、グローバルな視点から世界の自動車市場を解析。各国で事情は違えど、世界を引っ張る強いリーダーがおらず「きな臭い」雰囲気ばかり、とその先行きを不安視しています。

日本車の売れ筋に明るい未来を読みとることはできるだろうか?

アクセラ・ハイブリッドを借りた。現行モデルの発売は2013年10月。すでに2年半が経過して新味はない。しかし欧州規範でいうCセグメントに属するセダン/ハッチバックは世界的には最多量販帯。グローバル視点で今という時代を捉える格好の題材でもある。

現在の国内市場を俯瞰すると、Cセグメントのセダン/ハッチバックはほぼ壊滅状態にある。2105年通期の販売実績では、アクア(実質Bセグのハイブリッド)に次ぐ第2位をプリウスが占めているが、これはハイブリッドの括りとして分けるほうが現実的だ。

第4位にかつての不動のエース、カローラが約11万台を売り上げて食い込むが、これはグローバル展開されるUSカローラや欧州カローラのオーリスとは別仕立ての日本専用車であり、クラウンと並ぶ和のテイストが濃密に注ぎ込まれた一台。昭和の20世紀ならともかく、いずれもドメスティック/エスニックな日本という意味で異質さが際立っている。

国際展開されているCセグメントは、第21位のインプレッサ(44,024台)まで下らないと名前が現れず第30位にやっとアクセラ(24,749台)が顔を出す。もちろん上位ランクにはフィット(3位:約12万台)やノート(7位:9,7万台)、ヴィッツ(8位:約7,7万台)、デミオ(9位:7,2万台)といったBセグハッチバックは存在するが、それ以外は大方がミニバン系であり、ところどころにSUVが混ざる。

しかも上記は課税区分でいう登録車であり、国内販売台数の40%前後を占める軽自動車は含まれない。日本の自動車販売台数は現在全体に縮小傾向にあるが、それでも一国あたりでは依然として中国、米国に次ぐ第3位の市場規模。この適度な競走が生まれる小さくない内需環境があったからこそ、世界に通じるクルマ作りが産業として根付いた。ここは重要な視点だろう。

日本は46年前から生産量世界第2位の自動車大国だった!?

自国内に有望な消費市場があるかどうか。これはサプライチェーンに幅広い裾野が必要な自動車産業が発展する上でなくてはならない条件だ。ビジネスとして回って行かないことには生産の質も量も維持することが叶わない。実は日本が世界に冠たる自動車大国になった背景には、1億余の人口があり、工業化の進捗に見合うだけの購買層が市場を拡げて行ったからだ。

内需拡大に伴う技術力の向上が日本車の国際商品としての基礎になった。自前の優れた走行環境(インフラ)の不備と最大の輸出相手国アメリカとの貿易摩擦の結果が現地生産化を加速させ、その経験が国内生産の1.5倍を需要地で賄うグローバル化に結びついた。

対照的なのは自動車発祥の地とされるドイツ。技術的には戦前からのアウトバーンの整備もあって世界が目標とする高性能の指標とされたが、その国際化は思いのほか遅い

1970年代の石油危機と排ガス規制で苦しんだ日本が、得意の小型車とエレクトロニクス技術の積極導入によって急速に力をつけた頃。冷戦構造下で東西に分断された旧西ドイツ時代(1970~1980年)の自動車生産台数は390万台/年たらずで推移する。日本は1970年の段階ですでに530万台、1980年には1100万台規模に達していた。

日独の差は、冷戦の終焉とEU統合による欧州市場の自由化で2000年には2(約1000万台)対1(約500万台)となり、現在は日本各社の消費地生産の急伸によって大体10対6の比率で推移している。

中国の脅威はつまるところ圧倒的な人口の多さによる。

1966年(昭和41年)日産がサニー、続いてトヨタがカローラを発売して日本のモータリゼーションが夜明けを迎えた。庶民が頑張ればなんとか手に入れることが出来る大衆車の出現。あれから50年、紆余曲折を経て今や日本は世界中で2500万台近くのクルマを生産し販売するトップランナーの地位に登り詰めている。

ヘンリー・フォードがモデルTによって作り上げたモータリゼーションから遅れること50年で追いつき追い越した。日本が成し遂げたその事実は誇っていいと思うが、隣国中国の急成長ぶりを肌で知る者としては世界の潮流が急激に変化していると思わざるを得ない。

なにしろ今から四半世紀前の1990年。中国全土で550万台余だった自動車の保有台数が、2014年末には1億5000万台と約30倍増とし、アメリカに次ぐ世界第2位の自動車保有大国に急成長。日本は数年前に軽く抜かれてダブルスコアの3位に後退させられた。

中国の脅威は、わずかこの10年間で一気に保有台数が5倍増という急成長をほぼ国内の生産拡大だけで実現した点にある。2015年の販売台数は2500万台に迫った。日本は日米自動車協議妥結(1995年)に伴うグローバル化/現地生産化への方針転換から20年の歳月を要して倍増の世界生産台数2000万台超えを実現させたが、中国はミレニアムの2000年(1600万台余保有/207万台生産)から1億5000万台超保有/2450万台年間生産へと、まさにドッグイヤーのスピード感で急成長した。

バラク・オバマ米国大統領の歴代大統領初の広島訪問と、歴史的ともいえる演説の余韻が醒めやらぬ今の気分だが、昨年のアメリカにおける自動車販売はリーマンショックで深く沈んで以来の完全復調を強く印象づける1700万台余の史上最高を記録した。

その裏にはドルの大量発行や前回の恐慌状況を生み出したサブプライムローン問題にも似た構造があって、映画『ビッグショート:邦題マネーショート”華麗なる大逆転”』で描かれたリーマンショック前夜の状況が直ぐそこにあるという意見も聞いている。SUVやピックアップトラックが飛ぶように売れている好況感を伝えることはあっても、その背景まで読み解くジャーナリスティックな視点が伝わらないのは何故だろう?

なにかと不評の安倍晋三内閣総理大臣だが、今回のサミットでは『リーマンショック前に似た状況』と財政発動を促す発言して各国首脳の失笑を買ったという。アベノミクスを皮肉る論調が大勢を占めて話題にならなかったようだが、アメリカの放漫財政やドイツ連銀の危機や英国キャメロン首相のパナマ文書スキャンダルといった、敢えて欧米と一括りにしたくなる元凶を抱える首脳達に与するのも何か変な感じだ。

多様でモザイク模様の世界をモノトーンで語ろうとするのは無理がある。日本国内を覆う、デフレ脱却が実感できないもやっとした感覚。中国のバブル崩壊が懸念されながらも一向に衰えることを知らない自動車市場の活況。アメリカのシェール革命から一転した明るいムードと消費大国の復活ぶりによるバブリーな雰囲気。VWディーゼルゲートに象徴される退っぴきならないドイツ中心のEU経済とプレミアムブランドだけが元気がいい空騒ぎ状態。新興国/途上国に期待するには先進国との格差が拡がりすぎている。

いったい何処に合わせれば良い? 過去10年の中国のような強力なエンジンで世界を引っ張る国は見当たらない。急拵えには急降下の懸念が孕むことは中国を見れば分かる。なんだかキナ臭い雰囲気ばかりで、爽やかにこちらのクリーンな方向へとはならない。

image by: longtaildog / Shutterstock.com

 

クルマの心』 より一部抜粋

著者/伏木 悦郎
どうしたら自動車の明るい未来を築けるのだろうか? 悩みは尽きません。新たなCar Critic:自動車評論家のスタイルを模索しようと思っています。よろしくお付き合い下さい。
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