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これから「日本株式会社」は大復活する。米中貿易戦争で浮上した技術立国ニッポンの新たな勝機

米中貿易戦争の激化により、グローバルサプライチェーンの構造が大きく揺らいでいます。トランプ政権の関税強化、バイデン政権の対中デカップリング政策、そして中国によるレアメタル輸出規制——この米中対立の狭間で、日本企業は新たな岐路に立たされています。しかし、これは危機であると同時に、「技術立国日本」を再定義する絶好の機会でもあります。半導体、EV、AI、航空機といった先端分野で技術自立を進める日本企業は、単なる「下請け」から脱却し、グローバル経済の主役に返り咲こうとしています。メルマガ『j-fashion journal』では著者の坂口昌章さんが、「日本株式会社」復活の背景と、米中二択を拒否して第三の道を歩み始めた日本の戦略を詳しく解説しています。

グローバル経済における日本企業の立ち位置

グローバル経済の進展は、企業の役割分担を劇的に変化させた。最終製品を組み立てるメーカーや市場を支配する小売企業が利益の中心となり、素材や部品の調達は外部依存が合理的とされてきた。

こうした構造の中で、米国や中国の巨大企業が市場を席巻し、グローバルサプライチェーンの頂点に君臨してきた。一方、日本企業は素材、加工、部品の技術開発に特化し、米中企業の「下請け」として高い技術力を提供する役割を担ってきた。

例えば、半導体製造における日本企業の存在感は顕著だ。半導体生産に不可欠なフォトマスクやエッチングガス、ボンディングワイヤなどの素材や装置で、日本企業は世界シェアの多くを握る。

PwC Japanのレポートによると、半導体製造の前工程と後工程で使用される素材や装置において、日本企業は高い付加価値を生み出している。

東京エレクトロンや信越化学工業は、米国のインテルや台湾のTSMCといった企業に欠かせないパートナーとして、サプライチェーンの中核を担ってきた。

しかし、この「下請け」としての役割は、「日本企業が従順である」という誤解を米国や中国に与えてきた。両国は、日本企業が技術力を背景に独自のポジションを築いている事実を見過ごし、日本政府もまた経済的圧力に屈すると考えていた。だが、日本企業は単なる下請けに留まらず、オンリーワンの技術を磨き、独自の競争力を維持してきた。

米中貿易戦争の激化と日本への影響

2018年以降、米中貿易戦争はグローバル経済の構造を揺さぶった。トランプ政権下で始まった関税措置は、中国だけでなく同盟国である日本にも波及した。

2025年6月のダイヤモンド編集部の報道によると、トランプ政権は鉄鋼や自動車など品目別関税を強化し、日本企業に深刻な打撃を与えた。

特に、米国依存度が高い製造業249社のランキングでは、キリンホールディングスやマツダなど、米国市場に深く根ざす企業が関税リスクに直面していることが明らかになった。

米国は、バイデン政権下でも、対中デカップリング政策を加速させ、半導体やAI、量子技術分野での対中輸出規制を強化した。

2022年10月の対中半導体輸出規制(2022年10月規則)は、日本とオランダに協力を求め、日本経済産業省も2023年3月に規制案を発表した。

これにより、日本企業は米国側に立つか、中国市場を優先するかの二者択一を迫られる状況に置かれた。野村総合研究所の分析では、米国の規制がパワー半導体などミドルエンド以下の装置にも拡大すれば、日本メーカーに大きな打撃となる可能性が指摘されている。

一方、中国も報復措置として、ガリウムなどのレアメタル輸出規制を2023年7月に発表し、米国のマイクロン製品の調達禁止を決定した。

この米中間の対立は、日本企業にとって新たなリスクと機会の両方をもたらした。サプライチェーンの分断リスクが高まる中、日本企業は自らの技術力を武器に、新たなポジションを模索し始めたのである。

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日本企業の技術自立と戦略的対応

日本企業は、米中貿易戦争の激化を見据え、技術自立を進めてきた。航空機製造、造船、電気自動車(EV)、半導体、AIといった分野では、少量生産ながら技術継承を維持し、研究開発投資を怠らなかった。

例えば、三菱重工業は航空機部品の開発でボーイングと協業しつつ、国産ジェット機MRJ(現・SpaceJet)の技術を磨いてきた。造船分野では、川崎重工業や三井E&SがLNG船や高付加価値船舶で世界市場での競争力を維持している。

EV分野では、トヨタ自動車が全固体電池の開発で先行し、2025年以降の実用化を目指している。

半導体では、ラピダスが2ナノメートルプロセスの国産化に挑戦し、2027年の量産開始を目標に掲げる。

AI分野でも、NTTや富士通が独自の生成AIモデルの開発を進め、グローバル競争に参入している。

これらの取り組みは、日本企業が単なる下請けではなく、技術主導で市場をリードする意欲を示している。

日本政府もまた、経済安全保障を強化する戦略を展開した。2022年12月の経済安全保障推進法では、半導体、蓄電池、航空機部品など11分野を「特定重要物資」に指定し、国内生産体制の強化と備蓄拡大を決定した。

ジェトロの報告によると、日本企業の対米投資も活発化し、2023年には半導体関連でデンソーや三菱電機がデラウェア州で10億ドル規模の出資、富士フイルムがテキサス州で7億ドルの事業買収を行うなど、戦略的投資が加速している。

日本政府の対抗策と「日本株式会社」の復活

トランプ政権の関税強化に対し、日本政府は冷静かつ戦略的な対応を見せた。

2025年6月のG7サミットでは、石破茂首相がトランプ大統領と会談し、関税措置の見直しを求めた。

また、経済産業省はサプライチェーンの強靭化を目的に、国内生産能力の強化と多国間協力の推進を打ち出した。

インドやベトナムとの連携強化もその一環であり、米国が推進する「デ・リスキング」戦略に呼応しつつ、日本独自の経済圏構築を目指している。

日本企業の対応も迅速だった。米国の高関税によるコスト増を吸収するため、生産拠点の多元化を進めた。

例えば、トヨタは北米での現地生産比率を高め、関税リスクを軽減。パナソニックはEV電池の生産を米国や欧州にシフトし、サプライチェーンの柔軟性を確保した。さらに、半導体製造装置メーカーのSCREENホールディングスは、米国のCHIPS法に基づく助成金を活用し、現地での生産能力を強化している。

このような動きは、「日本株式会社」の復活を象徴する。かつてバブル期に海外企業買収を積極化した日本企業は、失敗も多かったが、現代の日本企業はより戦略的だ。

アテル投資顧問のデータによると、1980年代のM&Aブームとは異なり、現在の日本企業は技術力と資金力を背景に、選択的かつ高付加価値な投資を行っている。

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未来への展望:技術立国日本の再定義

米中貿易戦争と高関税の圧力は、日本企業にとって危機であると同時に、技術立国としての再定義の機会でもある。グローバルサプライチェーンの再編が進む中、日本企業は素材や部品だけでなく、最終製品や先端技術での主導権を握る可能性を秘めている。

半導体やAIでの国産化、EVや航空機での技術革新は、日本が単なる「下請け」から脱却し、グローバル経済の主役に返り咲くための基盤となる。

もちろん、課題も多い。米中間の板挟み状態は、今後も日本政府と企業に圧力を加え続けるだろう。しかし、日本は米国か中国化の二者択一を拒否し、第三の道を歩み始めている、カナダ、メキシコ、ブラジル、EU、ASEAN諸国との独自のネットワークを構築し、新たな貿易ルールと自由貿易圏を作ろうとしているのだ。

結論:新たなグローバル経済での日本の役割

日本企業は、米中貿易戦争という嵐の中で、技術力と戦略的対応力を武器に新たなポジションを築きつつある。

米国や中国が市場支配を目指す中、日本はオンリーワンの技術と経済安全保障を基盤に、独自の道を切り開いている。グローバル経済の不確実性が高まる今、日本株式会社の復活は、技術立国日本の再興を世界に示す契機となるだろう。

■編集後記「締めの都々逸」

「相手の気持ちも 空気も読んで 国際ルールを整備する」

国際ルールって、大国が作らない方が良いと思います、大国はお山の大将で、自分だけが利益を独占しても良いと思っている。弱者の気持ちは分かりません。だから、自分に都合の良いルールを作り、それで困る人がいても、意に返さないのです。

その点、日本は相手の気持ちを考えてから行動する、癖がついている。自分が良ければいい、という考えは恥ずかしいことだと思っています。

一部の大国が世界を支配する時代は終わり、公平なルールと常識で世界がまとまる時代がくるといいなあ。その中心に日本がいるといいな、と思います。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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