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なぜ最近の本屋はつまらない本ばかり置くようになってしまったのか?

なぜ最近の本屋はつまらない本ばかり置くようになってしまったのか?

世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者である中島聡さんが6月1日に出版した「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である」がアマゾンの書籍部門で総合一位を獲得しました。中島さんはメルマガの中で、今回の書籍の成功の裏に、従来の出版社とは全く違う「編集エージェント」と称する「プロの編集の力」があったことを明かし、さらに著書を出版して痛感した日本の出版業界が抱える大きな問題点について言及しています。

今回の出版に関して

Facebook で告知をしましたが、6月1日に『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』という本を文響社から出版しました。

ブログを使ったソーシャル・マーケティングが非常に効果的に働き、二日目にはアマゾンのビジネス書部門で一位、三日目にはアマゾンのすべての書籍で一位、という結果になりました。書店での売り上げも良いようで、すぐに1万部の重版が決まりました。

唯一の誤算は、アマゾンでの売り上げがあまりにも良かったため、三日目で品切れとなってしまい、四日目以降は順位が下がってしまっていることです(文響社がすぐに動いてくれたようで、現在は「在庫あり」に戻りました)。私のブログに貼ったアマゾンへのリンクから売れた数が499冊なので、たぶんそれだけで在庫が尽きてしまったのでしょう。考えてみると、初版が1万1千部なので、その5%近くを仕入れてくれたアマゾンに感謝しなければいけないぐらいです。

ちなみに、今回の成功は、偶然の産物でも、私のブログの力でもなく、プロの編集者の力によって作り出されたものなのです。
その編集者の名前は乙丸さんといいますが、彼は、文響社の人ではなく、「編集集団 WawW! Publishing」という書籍の企画と編集を(出版社からは)独立した立場で行う、新しいビジネスモデルの会社の経営者です。

全く新しい形なので、その職業に名前がないのですが、私はあえて「編集エージェント」と呼んでいます。出版業界では、エージェントと言えば、作者と出版社の間に立ってロイヤリティの交渉をしてくれる人のことですが、「編集エージェント」はさらに一歩踏み込み、企画から編集の仕事まで出版社に変わってやってしまう人のことです。

特に重要なのは、本の企画をやってしまう部分です。今回のケースでは、私が以前に書いたブログの記事(「時間に余裕があるときにこそ全力疾走で仕事し,締め切りが近づいたら流す」という働き方)が本のネタになると考えた乙丸氏が私にコンタクトし、どんな本にしたいか、どうやって売りたいかを提案して来ました。最初は半信半疑でしたが、今の出版業界の問題点(後述)などを熱く語る乙丸しに説得されてしまいました。

次は、一緒に本の企画書を作り、乙丸氏がそれを出版社に持って行って、今度は出版社(このケースでは文響社)を説得する、というプロセスを経ました。 どの出版社にアプローチすべきかも、乙丸氏の判断です。本の執筆に関しても、乙丸氏が大きく絡んでいます。乙丸氏が全体の構成、話の流れなどを決めたところに、私が中身を吹き込んで行く、という形をとりました。それも、質疑応答形式でエピソードなど引き出す形で行ったため、一人で書く時よりは、ずっと中身の濃いものになっています。

さらに、タイトル、副題、表紙デザインなども文響社と協力して決めてくれており、実質的には乙丸氏が監督・演出で、私が脚本と主演の映画のように、二人の共同作品になっています。
さらに発売後には、本のどの部分を引用したブログをどのタイミングで書くべきか、などの事細かな指示が飛んで来ており、それが(瞬間風速ながら)アマゾンでの総合一位に結びついています。

今の出版業界の問題点

今回の出版の件で良く分かったのですが、日本の出版業界が抱える一番の問題は、再販制度と、それに大きく依存したビジネスモデルを持つ出版社にあります。

再販制度とは、一言で言えば「売れ残りの買い取り保証付きの販売業務委託契約」です。書店は、取次から卸値で本を仕入れて小売をしますが、万が一売れなかった場合には、返品できるため、在庫リスクが軽減されるというメリットがあります。

一方の出版社にとっては、何冊売れるか分からない本に関しても、とりあえず取次が仕入れて書店に押し込んでくれれば、その時点での「売り上げ」(会計上の厳密な定義で言えば、返済リスクのある前払金)が立って現金が手にはいるというメリットがあります。
つまり、ファイナンス面から見れば、出版社が本の出版時に必要とする運転資金を小売書店が提供するという形になっているのです。

本が順当に売れている時には、返品も少ないので何の問題もありませんが、本があまり売れず、返品が多い時には、出版社は返品された本を買い取るのに必要な資金をどこかから調達しなければなりません。

そこで多くの出版社が取る手法が、再販制度を利用したファイナンスです。返品される書籍よりも多くの書籍を再販制度を使って市場に押し込むことができれば、トータルではプラスになるため、返品された本を買い取る資金が不要になるのです。
なんだか錬金術のような話ですが、実は非常に危ない自転車操業で、一度でも十分に書籍を押し込むことができなければ、資金がショートして倒産してしまうリスクをはらんでいます。

そんなビジネスモデルに頼っている出版社は、どうしても確実に十分な書籍が押し込めるように、数で勝負をするようになります。

たとえば、卸値1000円の本を初版で五千部刷れば、取次に押し込んだ時に500万円の現金を得ることができます。そんな書籍が20冊あれば、1億円の現金を得ることができるのです。
何ヶ月後に、それらの書籍の半分が戻って来たとしても(返本に応じる費用は5000万円)、その時に同時に、1億円分の(別の)書籍を取次に押し込むことが出来れば、差し引き5000万円の現金が生まれ、それで編集者の給料や、製本・印刷コストを賄うことが出来れば、ビジネスとしてはまわってしまうのです。

しかし、こんなビジネスモデルでは、編集者も一つ一つの書籍に時間を割くことなど出来ず、中途半端な作品ばかりが書店に並ぶことになるのです。

乙丸氏の素晴らしいところは、自分をあえて出版社の外に置き、著作者と印税を分け合うことにより、一つ一つの作品に時間をかけて良いものを作ろうというインセンティブ構造を作りだしたところにあるのです。

image by: Shutterstock.com

 

『週刊 Life is beautiful』より一部抜粋

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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