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EU離脱は英国と世界を地獄に落とす。栄光の大英帝国は中流国家転落か

EUからの離脱賛否で真っ二つに分かれているイギリスですが、EU残留支持派の女性議員が殺害された事件以降、世論は「残留派」が「離脱派」の支持を上回っているようです。6月23日に行われる運命の国民投票を前に、無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、イギリスが離脱した場合に起きうる「激震」について考察しています。

離脱すれば一流半国に

イギリスはEU離脱を選択するのだろうか──その国民投票が6月23日に行われる。常識的には離脱はないし、私も「離脱すべきでない」と考える。

産業界や金融界は当然ながらEU残留を支持。最近ロンドン市長に当選したイスラム教徒のサディク・カーン氏も残留派だし、キャメロン首相も「EUにとどまることでイギリスの世界への影響力を持ち続ける」と強調している。ただキャメロン首相はパナマ文書に名前が出てきたことで人気が急落、キャメロン発言でかえって離脱派がふえた、ともいわれている。さらにオバマ米大統領がイギリス訪問した時「EUに残るべきだ」と発言したところ、メディアは「内政干渉だ」と反発、離脱派は前週より2%アップし五分五分になったと報じられた。

イギリス財務省がEUを離脱した場合の経済的損失を試算しているがEUに参加せず、EU経済領域にとどまった場合ではGDP比で3~4%、カナダのように二国間貿易協定でしのいだ場合はGDP比で4~7%、世界貿易機関加盟の新ルールで対応する場合もGDP比で5~9%──の経済的損失が出るとしている。

にもかかわらず離脱論が消えないのは、2004年に新規加盟したポーランドなど東欧諸国から移民が急増し、低賃金で働く移民に雇用を奪われている被害意識が強いようだ。イギリスはユーロには加盟しておらず、ポンドを使用しているが、人の移動を自由にしているEUの基本理念に懐疑的らしい。

イギリスがEUから離脱すると、世界が混乱することは必至だし、何よりかつての栄光の大英帝国のイメージがますます没落して、10年もしないうちに普通の中流国家とみなされてしまうだろう。大航海時代に栄華を誇ったオランダ、ポルトガル、スペインなどと同じ命運を辿るのではないか。

イギリスは第2次大戦まで約300年近く、世界の覇権を握っていた大帝国だった。アフリカ、エジプト、中近東、インド、中国、オーストラリア、アメリカなど世界中に植民地を持ち「沈まぬ帝国」といわれたものである。その点はオランダやスペイン、ポルトガルなどとは桁が違う偉容を誇っていた。

EU結成の際はドイツとフランスが手を結び主導権をとってしまった。当時のサッチャー元首相は「ドイツにチャラチャラするフランスめ」と嫌味をさんざんいいふらしたものだ。

イギリスは世界中に植民地を作り世界をマネジメントした経験をもつ。また旧植民地から情報をかき集められる情報大国であり、世界の大学の中心であるオックスフォード、ケンブリッジを有する文化教会哲学の雄であるところに力の源泉があったのだ。離脱すればこれらの資産・力も失うのではないか。

(財界 2016年6月21日号 第425回)

image by: Joseph M. Arseneau / Shutterstock.com

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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