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本に囲まれて育った子ほど稼げる? 直木賞作家・石田衣良の想い

7月10日配信がスタートしたメルマガ『石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」』。今回はその中から「IRA’S ワイドショー たっぷりコメンテーター」のコーナーの一部をお届けします。お題は「多くの本に囲まれて育った子どもほど稼げる!?」。コーナータイトルどおり石田さんの興味深いコメントが満載です。

IRA’S ワイドショー たっぷりコメンテーター

ワイドショーやニュースによく呼ばれますが、あちらのコメント枠は長くてせいぜい90秒です。石田衣良の作家の眼を通して、もうすこし語っておきたいこと、補足説明やその後の展開など、時事問題をもう一段深く掘り下げていきます。

明日の話題をこのコーナーで拾ってみてください。

多くの本に囲まれて育った子どもほど稼げる!?

─ 興味深い研究データが政府の教育再生会議に提出されました。「多くの蔵書に囲まれて育った子どもほど生涯賃金が増える」ということなんですけど、どうでしょうか? 昔から本をたくさん読むのはいいことだといいますが。

衣良:いやー、これはほんとうにこのとおりであってほしいと願います。うちも本がたくさんあるので、子どもも稼げるようになってほしいと親としては切に思いますね(笑)。

これは日本の教育再生実行会議の話ですが、アメリカの文科省にあたる部門でも一度調べたことがあるんですよね。

それによると、年間に読む本の冊数とその家の世帯収入を2つの軸にすると、きれいに直線で伸びていくんです。ようするによく読む人は豊かで、読まない人は貧しいという結果がでているんですね。今の時代、それはしょうがないと思います。 経済的な格差を生むのは知力です。いくら体を使ってがんばっても、ごく少数のスポーツ選手や俳優以外はそんなに変わりません。やはり大事なのは知性の力なので。そういう意味では幅の広い多面的な知性の力を伸ばすには本は欠かせないものですから、これはある意味当然だと思いますね。

─ ぼくも衣良さんを含めて各界のトップランナーにインタビューしてきましたが、みなさんもれなく、本はすごくたくさん読んでいるか、もしくは昔読んでいた時期があったというかたばかりなので、関係あると思います。衣良さんは、お子さんにはどんな本を読ませるか意識されていたのですか?

衣良:いや、それはぼく、考えていないんですよね。本って読ませられないものなんですよ。自分の興味がおもむくジャンルのままに読み散らすことしかできないので。

体系立てて「これを調べたい」という感じで読んでいくというのは、ある程度本を読む経験やキャリアを積んだ人しか無理なんです。最初はなんでもいいと思いますよ。あんまり立派な本だけ押しつけるのはかえってよくないんじゃないですかね。漫画でもいい、恋愛ものでもいい、鉄道ミステリーでもいいから、「これが楽しい」と思ったらひたすら読む。そうすると鉄道ミステリーのなかでももうすこしむずかしいもの。たとえば松本清張の初期のものにもどることができるようになるので、とにかく数をこなすのが大事ですね。

いまは大学生の1日の読書時間がゼロなんていうデータがあるみたいなんですけど。そもそも活字を読むというところを突破していない人がいっぱいいるわけですよね。

衣良:でも、そこを突破しないと、仕事ができる人にはなりません。ほんとうに、大学生が本を読まないというのは何なんでしょうね。

ずっと地面をひょこひょこ歩いていることしかできなくなりますよ。やっぱり本がくれる力というのは、一気に社会や時代を飛び越えて遙か高みまで連れていってくれるものなので。みんな口では「どこでもドアがほしい」っていいますけれど、どこでもドアって本ですからね。アメリカにいける。火星にいける。宇宙の果てに何があるかを教えてくれる。それどころか200億年ばかり戻って宇宙の始まりの姿も教えてくれる。そんなすごいものはドラえもんも持っていません。

>>次ページ 直木賞作家の家庭の読書環境は?

─ 本を読む環境を用意することはできるけど、子どもに「読ませる」という考えは捨てた方がいいんですね。

衣良:人間、集中して長時間できるのは、たのしいことだけなんですよ。なので、本のなかにどうたのしみを見つけるかというのが一番大事で、読ませるというのは、それ以降のことじゃないですかね。

─ 環境ということではご両親はどうでしたか?

衣良:ちなみに、うちはそういう環境はまったくありませんでした。逆にその足りない部分をぼくが埋めるという感じで世界のいろんな小説や文学を読むようになったという感じなんですよね。

─ 衣良さんは兄弟の中で真んなかですよね。お姉さんと妹さんはどんな感じでしたか?

衣良:やっぱりそんなに読んでいなかったですね。やっぱり家族ってそこの家の欠けているところを補おうとして自分の専門のジャンルを決めていきますよね。ぼくの場合はそれが本の世界だったんじゃないかなと思いますけれど。

─ このデータの真偽はさておき、活字にふれるというところは突破してもらいたいですね。

衣良:格差社会だっていうけれど、今ぼくたちが見ている格差社会は、たとえば中世のころ、農奴として生まれたら一生農奴で雇われたままで死んでいったのとは違いますよね。今の格差社会なんてものすごく紙のようにうすっぺらいものですから、個人の才能や努力でいくらでも突破できるんですよ。なので格差がひどくなったなんて嘆いていないで、自分の力をもっと磨いてほしいですね。古代の格差なんてとんでもないよね。誰かのお墓のために200万、300万もの人を使ってピラミッドを作るんだから。「もうピラミッド作りたくない」っていったら殺されちゃうんだよ。それにくらべたら、いろんなことがよくなっていると思います。

聞き手 早川洋平(プロインタビュアー)


「格差社会は個人の才能や努力でいくらでも突破できる」という言葉、なんだか救われるようですね。このコーナー、メルマガ本誌では上のテーマに続いてアップルミュージックと小説家の未来の関係性、捕鯨問題、成人年齢引き下げなどについて語られています。

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石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」
著者:石田衣良
本と創作の話、時代や社会の問題、恋や性の謎、プライベートの親密な相談……。
ぼくがおもしろいと感じるすべてを投げこめるネットの個人誌です。小説ありエッセイありトークありおまけに動画も配信。週末のリラックスタイムをひとりの小説家と過ごしてみませんか?メールお待ちしています。
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4TEEN (新潮文庫)

 石田さんの直木賞受賞作

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