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ヒラリー、トランプどちらが当選してもNo?TPPは結局どうなるのか

アメリカ主導で日本も交渉に参加したTPPですが、今も国内では多くの組織、特に農業団体の反発が続いています。しかし、ここに来て米大統領候補の2人がTPPに否定的な姿勢を取り始めました。はたしてその行方は? 無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、日本政府が今後取るべき政策・姿勢について言及しています。

TPPの離脱問題

本日はTPPの問題を取り上げたい。このところTPPを巡り、アメリカ大統領選の中でも問題になってきている。オバマ大統領は残る任期の7ヵ月間の間にTPPを批准しようとしているが、次の候補者であるトランプ氏は「TPPはアメリカの製造業に打撃を与える」と離脱を表明。もう1人の候補であるクリントン氏当初TPP交渉の継続を支持し、オバマ大統領を応援すると言っていたが、「Noを突き付ける。再交渉すべき」と言い始めている。当初から心の中では賛成ではなかったようで、今回の発言につながっているようだ。

理不尽なアメリカ

農業団体からの圧力もあるだろうし、選挙が近づけば近づくほどそういったところからの影響は大きいのだろう。これまで6年間アメリカが旗を振ってTPPを進めてきたが、今後どうなっていくのか。TPPは当初、ペルーなどが検討し始め、アメリカが主導権を取るべくドンドン出てきた。最後の日本とアメリカの交渉ではフロマン氏がさまざまな嫌味を言い、甘利氏もいい加減顔を見るのも嫌だという状況になりながらもようやく決着した。あとは各国が批准をすればいいというところまで来ているにも関わらず、アメリカの次の大統領候補が2人とも先に述べたような状況で、アメリカは本当に理不尽だと感じる。

トランプ、クリントンへの歯止め!?

各国首脳も大変懸念している状況。オバマ大統領はカナダ、メキシコの3カ国で首脳会談を開催し、「貿易協定から撤退し、自国の市場にだけ集中するというのは誤った処方箋だ。みんなを貧しくするだけだ」とTPPを推進すると言っている。さらにカナダのトルドー首相は「貿易は技術を革新し雇用を創出する」、メキシコのペニャニエト大統領は「孤立主義は解決策にならない」と考えが一致した。これはトランプ氏やクリントン氏に一種の歯止めをかけにいったものだと思う。

今後を左右するアメリカの動向

TPP協定は2月に各国が署名したが、今後12ヵ国それぞれの国で署名から2年以内に議会の承認などを経て批准する必要がある。問題は日本とアメリカで批准できなければ達成は厳しい。なぜなら12ヵ国のGDP85%以上を占める6か国が手続きを終え、その時点から60日後に協定が発効する仕組みになっている。GDP比率は日本のが17.7%、アメリカが60.4%と2国だけで加盟国の全体の78%を占めている。そういう意味ではアメリカの動向が非常に気になるところであり、影響も大きい。

アメリカは「自国に有利に働かないということで嫌気がさした」といっても、いまさら随分無責任な話だ。先にも述べたが、元々ペルーなどがやっていたところに、太平洋貿易の主導権を取るべくアメリカが乗り込んでいった。ここにきてこの状況とは、アメリカが自由貿易を推進する旗頭として果たして適任なのかどうかということも思われてしまうのではないか。

貿易摩擦を乗越え競争力が増した日本

TPPに関して日本にも反対論はあったが、推進していった。私は基本的にはTPPを実施したほうがよいと思っている。もちろんさまざまな問題があるのかもしれないが、日本はこういった貿易摩擦が起こる度に技術革新などで乗り越え、その結果日本の競争力は強くなってきた

例えば自動車摩擦、アメリカの環境規制は厳しかった。しかしながら、この規制を乗越えないと輸出できないということで、切磋琢磨し環境規制の技術を磨いてきた。そして、結果的に日本の自動車産業を強くしてきた

さらに、農産物でいうとアメリカ産のオレンジ・牛肉摩擦では日本の農家がみかん、牛では神戸牛、松坂牛のみならず米沢牛といったブランド、黒毛和牛といった新種を作り出してきた。鶏肉などでも次々とブランドを確立していった。これによって、日本の農産物のブランド化が進み、世界で一番おいしく、安全ということが世界に広く浸透していった。このような技術の進歩によって、品質が評価されたのである。

保守主義への転換!?

今回も日本の農家にとっては厳しい側面があるかもしれないが、日本の農家はそれを乗越えるだけの技術力や意欲もある。それによって日本の農業や製造業を強くしてきた。よって日本はTPPを進めるという方向で頑張ったほうがよいと思う。

このようにアメリカが消極的になるのは、自国優先主義に舵を切ろうとしているのではないか。アメリカがこれをやり出すと、アメリカは「本当に自由貿易の国なのか」と言われ、「保護主義ではないか」とも言われかねない。これまでアメリカは自由貿易の旗頭だったが、これではだめになるのではないかと評判も落ちる上に、その結果経済成長も妨げることになるように思う。

弱さを克服してきた日本の農業

日本では参院選の真っただ中だが、TPPや農業に関わる人たちの政策が非常に選挙にも影響を与えるということから国も非常に気を遣う。TPPによって貿易の拡大や雇用の増大といっているが農産物については最大で2,100億円減少すると試算されている。ここに農水族議員は反対。これをどうするかということが問題となってきて、日本はバラまきを実施。備蓄米、農家所得などに補償しているが、そういうことにおカネを使うのではなく、技術を良くすることや、新製品の開発等の実施により農業の弱さを克服するというのが本来のあり方だと思う。

例えばTPPにおけるお米の場合、最終的にアメリカ、オーストラリアから年間7万8,400トン入ってくることで、農家は「生産にダメージが与えられる」として、国は買い取るということをやって保護しそのお米を備蓄する。最終的には飼料米に使うのだが、お米も無駄だし、農家はそれで保護されるかもしれないが本当に技術を開発し、よいお米をつくろうという発想はなくなってしまう。牛肉や豚肉についても同様で保障し、これでは競争の原理にはならない。

日本の農家の底力を発揮

競争の原理でやっているところは技術を発展させ、おいしく、安全、安心だという評判が構築され十分な競争力を蓄えている。そういう方向が日本のよい政策だと思う。結局バラまきになると何のためのTPPかと思う。農政のあり方が後ろ向きすぎる。もっと農家を信用すべきだと言いたい。

(TBSラジオ「日本全国8時です」7月5日音源の要約です)

image by: 360b / Shutterstock.com

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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