世の中には多くのサービスに関する書籍が溢れていますが、「実際に使える」本はなかなかないもの。そんな中、無料メルマガ『幸せを呼ぶ!クレーム対応術』では、「本当に使える」サービスの心得を記した1冊を紹介。サービス本を読んでも「いまいちピンとこないな」と思っていた方、一読の価値ありです。
『サービスの心得』 高萩徳宗・著 無双舎
今回も、お客さま対応、クレーム対応をおこなううえで、どの本が参考にできるのか、書評をお伝えします。ご紹介する本は、『サービスの心得』です。著者は、高萩徳宗(たかはぎのりとし)さん。略歴を一部抜粋します。
1964年8月10日生まれ。大分県出身。
株式会社小田急電鉄勤務を経て、カナダ・アルバータ州にて旅行業を経験し、帰国後、株式会社日本旅行に入社。
1999年有限会社ベルテンポ・トラベル・アンドコンサルタンツを創業。
障害がある方やご高齢の方と一緒に年間100日以上を旅する、バリアフリー旅行の第一人者。
以下、代表取締役を勤めていらっしゃる会社のHPです。
また、アメブロでも情報発信されているようです。
今回ご紹介する本のp47で、ご自身は、「書き出すのが恥ずかしくなる転職人生。つまり社会不適合人間だったのです。」とおっしゃっています。しかし、会社経営だけでなく、著書の執筆、出版や、講演をおこなっている、エネルギッシュな方です。
じつはこの本、書店で手に取りました。白地に黒の縦書きで、『サービスの心得』。これが、表紙の右側に楷書体で書かれています。すがすがしく、いさぎよい印象を受け、思わず手にとってしまったくらい、素晴らしい装丁ですね。
目次は以下のとおりです。
はじめに
第1章 本質 ~サービスはこうあってほしい~
第2章 改善 ~サービスが自己満足にならないように~
第3章 しくみ ~少しの工夫で商売繁盛~
第4章 リーダー ~志が組織を変える~
第5章 世の中 ~日本を見つめ直してみよう~
おわりに
このほか、各章末にコラムが入っています。
はじめにのp7~で書かれている、
世の中に送り出されているサービスに関する本は、ごく一部を除いて、
- アメリカで出版された本の翻訳本
- 接客について書かれた本
- 高級ホテルやテーマパーク、レストランなどの究極の成功本
がほとんどでした。
わたしも、そんな印象を持っています。そして、このように続きます。
これらの本をどれだけ読んでも、町のクリーニング屋さんや酒屋さんや公務員さんは、「じゃあ明日からどうすればいいんだ」ということがわからないのです。製造業や建設業で働く人も明日からどうしたら良いのか分かりません。
確かにそうなんですよね。クレーム対応について書かれた本も、想定しているクレーム客がファンタジーだったり、事例もインパクトが強すぎたりと、実際には使えないのです。
しかし、この本では、
当たり前の事実にあらためて「気づいていただく」ための本です。さまざまな現象やサービス事例を私なりに分析し、解説を加えて提言してみたいと思います。
この姿勢が、全編とおして貫かれています。
この本で何度も使われている、サービスの本質=「軸」の表現が、単に「ことば」でなく、著者のマインドです。著者自身が、本質を見失わないこと、大切にすることを、プロとして、ブレずに体現していると「感じる」ことができるのです。そのため、文中では、体験談や、いわゆる正論が語られるのですが、武勇伝に堕することもなく、押しつけがましくなく、具体的で論理的に感じ、非常に読みやすいのです。
前述のとおり、ご自身の自分評が、p46から語られますが、「はじめに」ではなく、1章に入ってしばらく経ってからです。もし、いきなり「はじめに」から自分評をされていたら、わたしのこの本に対する評価は、まったく違ったものになっていたかもしれません。このように、構成も素晴らしく、読み物として、きちんと読者=客のことが考えられていて、非常に好感と信頼感をもって読み進めることができました。
もちろん、クレーム対応に役立つヒントも、いくつも見つけることができます。なかでも、p136は、「クレームは共感で乗り切ろう」として、ホテルのコーヒーショップで出会った、女性のクレーム客の事例が、書かれています。
概要は、
- クレーム客とは関係ない別の女性が貧血で倒れ、救急車を呼んだ。
- そのさい、このクレーム客は、「びっくりして自分の心臓が止まるかと思った。ここはファミレスではなく、ホテルのカフェだ」と主張し、ホテルの対応に不満を持っています。
- このクレーム客が、ホテルの店員に怒りをぶつけていると、他の客に、「お前がうるさいんだよ、黙れよ」と言われますが、「うるさい、この若造」と返す始末で、ショップの中は大混乱です。
- コレに対して、ホテル側は「申し訳ございません、本当に申し訳ございません」と平謝りするだけだったそうです。
- 「アンタじゃ話にならない、店長を呼べ私はここの社長を知っている、言いつけてやる」といった、クレーマーの常套句を述べて、言いたい放題言ったあとで、このショップを後にしたのだそうです。
これに対し、著者の観察と、ホテル側の模範対応方法が秀逸でした。この女性が、なぜここまで激昂したのかの分析、平謝りをし倒すことは、「謝罪」ではなく「拒絶」であるとの冷静な指摘、そして、そのうえで、どう「共感」すればよかったのか、具体的に対応例をあげてくれます。
詳細は、実際にご一読いただきたいのですが、
一般的なクレームの場合、怒ることを目的として怒っているお客様はほとんどいません。大抵のお客様は「怒っている」のではなく、「困っている」のです。怒りをしずめても、何らかの解決策が提示されなければ、人は納得しません。
と、クレームの本質を、みごとにおさえた対応例でした。
p82では、駅やホテルでの案内サインが分かりにくい点を挙げ、トイレは、人に聞いて「ご案内させていただきます」と連れて行ってもらうより、人に聞かず場所がわかったほうが気が楽だと、サービスの履き違えを指摘します。
p104のコラムでは、人は何が違うかがわからないと、一番安いものに手を出してしまうので、「価格が違うと何が違うのか」を丁寧に教えてあげるのが「プロ」だと、安易な安売りがだめな理由を説明してくれます。
p169では、
見過ごされがちな「なんとなく気持ち悪いこと」を一気に解消しましょう。リスク管理は「なんとなくいやなこと」を先送りしない意識づけから始まります。
と、リスク管理はどうすればできるのかも、実に明快です。著者は、「お客様に対する感謝」がサービスの本質で、その本質=軸がブレなければ、履き違えた過剰なサービスも、無理な安売りも、会社が儲かるためには必要ないと教えてくれるのです。
自分本位、会社側の都合の押し付けになるから、クレーム対応も、リスク管理も難しいのであって、軸さえブレなければ、難しくないのだと改めて氣づかされました。
タイトルどおり、サービスの心得がスッと理解できる、大変な良書だと思います。この著者の本は、他にも数冊出ているのですが、わたしは、早速何冊か注文しました。講演も聴いてみたいですね。
image by: Shutterstock
『幸せを呼ぶ! クレーム対応術』
有名企業、10数社のカスタマーセンターで身に着けた、クレーム対応のノウハウを、無料で、惜しみなく教えます。クレームのケーススタディ、クレームで自分を削らない方法、役に立つフレーズ、使ってはいけないことば、などなど、対応で役に立つことはもちろん、時事ネタや知っているようで知らなかった話を、詳しく、できるだけ面白くお伝えします。
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