ドーピングを国家ぐるみで行ったとされているロシアですが、プーチン大統領は選手たちを前に演説し、「国際政治を支配するルールが、スポーツに持ち込まれようとしている」とし、欧米による圧力だと痛烈に批判しました。果たしてその真相は? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者でモスクワ在住の国際関係アナリスト・北野幸伯さんが現地からレポートを届けてくださいました。
ロシアドーピング問題とは?
まず、基本的な話から始めましょう。
1.ドーピングスキャンダルのはじまり(5月)
モスクワ反ドーピング研究所・ロドチェンコフ元所長の、ショッキングなインタビューがニューヨーク・タイムズに載り、世界反ドーピング機関(WADA)が調査を開始します。ロドチェンコフさんは、「ソチオリンピックでロシア選手は集団でドーピングを行い、諜報機関がそれを隠蔽していた」と語りました。ここでの参加者は、ロシアスポーツ省、諜報機関FSB、モスクワ反ドーピング研究所(ロドチェンコフ所長)、選手たち。つまり、「国家ぐるみでドーピングをしていた」と。
2.WADA、調査報告を発表(7月18日)
独立調査チームのマクラーレン委員長は、ロドチェンコフさんの発言を認める報告を行いました。つまりWADAは、「ロシアは、国家ぐるみでドーピングを行っていた」と結論づけた。WADAは、「ロシア全選手のリオデジャネイロ・オリンピック、パラリンピック参加を禁止しろ!」と勧告します。
3.国際オリンピック委員会は、ロシアを全面排除せず(7月24日)
24日開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の緊急理事会は、「ロシアをオリンピックから全面排除はしない」「選手の扱いは各競技団体に委ねる」と判断。
というわけで、ロシアの選手もリオオリンピック、パラリンピックに出られるようになったのですね。ここまで、興味のある方は、ご存知でしょう。
ロシアは、「アメリカ陰謀論」一色
では、ロシアではこの問題、どのように報じられているのでしょうか?
まず、「ドーピング問題があったこと」は、ロシア側も否定していません。焦点は、「国家ぐるみ」(スポーツ省、諜報機関FSB、ドーピング検査機関)でドーピングが行われていたのか? です。
ロシアは、「国家ぐるみ」をはっきり否定しています。ロシア側の主張は、モスクワ反ドーピング研究所の元所長ロドチェンコフは、
- 自分で禁止薬物を選手に勧めていた
- 選手は所長の勧めで禁止薬物を服用し、ドーピング効果で、よい結果を出した
- 検査機関の所長が「ドーピング検査」をするので、検査結果は、常に「シロ」だった
- ロドチェンコフは、この仕組みにより、大金を稼いでいた
- ロドチェンコフは、アメリカ当局と取引し、「国家ぐるみ」ということにした(ロシアを陥れるため)
とまあ、こういう解説になっています。
ロシア国民は、WADAとロシア政府の説明、どっちを信じているのでしょうか? これは、「ロシア政府の説明」を信じているのですね。
ロシアでは、2014年3月の「クリミア併合」後、アメリカが経済、軍事分野のみならず、「あらゆる分野」(たとえば、スポーツも)で「ロシアいじめ」をしていると、100%信じられています。今回のスキャンダルも、「アメリカによるロシアいじめ」「情報戦争の一貫」として認識されている。
プーチン自身は7月18日、以下のような声明を出しています。
スポーツへの政治的干渉の危険な再開を目の当たりにしている。干渉の形は確かに変わったが、スポーツを地政学的圧力、国とその国民の悪いイメージづくりの道具にするという本質は昔と同じ。
「スポーツへの政治的干渉」
「地政学的圧力」
「国と国民の悪いイメージづくりの道具」
これはつまり、「アメリカが、スポーツを通し、ロシアとロシア国民のイメージを失墜させている」という意味です。
読者さんから、「国家ぐるみの犯罪がバレ、プーチン政権も終わりでしょうか?」と質問をいただきました。普通は、そう考えますよね。しかしそれは、「国民が、『国家ぐるみのドーピング』を信じている場合」です。
ところがロシア国民は、「ロシアは何も悪いことをしていないのにアメリカにいじめられている」という認識。それで、「かわいそうなプーチン、もっとがんばって!!!」という意見。「ロシアドーピングスキャンダル」でも、逆に人気をあげてしまうプーチン。ネット風にいえば、まさに「おそロシヤ」ですね。
image by: Ververidis Vasilis / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>