7月28日、アメリカ大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官が正式に大統領選出馬の指名を受諾しました。これで11月8日に予定されている本選は「トランプ氏 vs ヒラリー氏」となることが決定したわけですが、この二人の主張にはどのような違いがあるのでしょうか。「無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんがわかりやすく解説して下さっています。
トランプ対ヒラリー、戦いの構図は?
ヒラリーさんが、米民主党の正式な大統領候補になりました。
【米大統領選2016】クリントン氏、民主党指名を受諾 「一緒の方が強い」
BBC News7月29日(金)12時54分配信
米大統領選の民主党全国大会最終日の28日、ヒラリー・クリントン前国務長官(68)が、大統領候補としての指名を受諾し、「私たちは一緒の方が強い」と連帯と協力の重要性を強調した。
これで、長いアメリカ大統領選は、「共和党トランプ対民主党ヒラリー」の最終決戦になります。どっちが勝つのか、わかりません。「こっちが勝つ!」といえば、当たる確率は50%。外れる可能性も50%です。実際、両者の支持率は、現在同じなのですね。
どっちが勝つかわかりませんが、「どういう構図になっているのか?」は知ることができます。
トレンドに乗る「民族主義者」トランプ
トランプさんは、数々の暴言で知られています。たとえば、
- アメリカとメキシコの国境に「万理の長城」を建てる(つまり、メキシコからの移民を制限する)
- イスラム教徒の入国を禁止する
- 日本がもっと金を出さなければ、在日米軍を撤退させる
- 韓国にもNATOにも、もっと金を出させる
これらの発言は、一見なんの関連性もないように見えますが。
実をいうと、すべて繋がっています。そう、「民族主義的主張である」ということ(多民族国家アメリカで、「民族主義」という言葉が適切か、わかりません。しかし、他の用語が思い当たらないので、便宜上「民族主義」という用語を使います)。
そして、実をいうと「民族主義」は、現在世界のトレンドなのです。なぜ?
2014年ぐらいまで、世界で「民族主義的リーダー」といったら二人しか思い浮かびませんでした。わが国の安倍総理。そして、プーチン。ところが欧州でその後、「民族主義的勢力」が急速に台頭してきた。例をあげれば
- イギリス国民の過半数が「EU離脱」に投票した
- ドイツで「反難民政党」「ドイツのための選択肢」(AfD)が急速に支持をひろげている
- イタリアでは2016年6月、「EU離脱」を主張する「五つ星運動」のラッジ氏が市長に選出された(美人すぎると評判)
- オランダでは、「イスラム移民排斥」を訴える「自由党」が「EU離脱の是非を問う国民投票」の実施を求めている
- 17年に大統領選挙が実施されるフランスでは、極右「国民戦線」のルペンさんが、有力候補
なぜ、2015年、民族主義的勢力が、急速に影響力を拡大させたのでしょうか?
理由は、2つあり、相互に繋がっています。一つは、欧州に150万人ともいわれる難民が流れ込んできたこと。これに関して、まず第1に、もとからEUに住んでいる人たちの経済的負担が増える。難民には、衣食住が必要で、政府はその金を国民から取る。
第2に、難民の若い男たちが犯罪を犯し、治安がとても悪化した。ドイツでは昨年末、こんな衝撃事件も(最後の「件数」に注目)。
独、15年大みそかの性犯罪は全国規模 16州中12州で発生
AFP=時事1月24日(日)10時52分配信
【AFP=時事】ドイツの警察は、2015年12月31日に同国西部の都市ケルンで大規模に発生した性犯罪や強盗事件と同様の事件が、ドイツの全16州のうち12州で発生していたと発表した。現地メディアが23日伝えた。
最大の影響を受けたのはケルンがあるノルトライン・ウェストファーレン州で、約1,000件の被害届が提出され、次いでハンブルク州の約200件が続いた。
1日1,000件の性犯罪、強盗!!! 拘束された容疑者は、ほとんどが外国籍。難民申請者もたくさんいたことから、反難民感情が一気に強まりました。
2つ目の理由は、ISによるテロが多発していることです。拠点だったシリア、イラクで壊滅的打撃を受けたISは、難民に紛れ込んで、欧州に移ってきている。ISによるテロの数は、去年から急増し、最近は「毎週のように」大きなテロが起きている。
アメリカは、欧州に比べ、大量難民の問題は大きくありません。しかし、テロは起こるので、これがトランプの過激な主張が正当化される理由になっている。(彼が「イスラム教徒を入れるな!」と主張するのは、ISと普通のイスラム教徒の見分けが困難だからです。普通、「私はISです!」と宣言して入ってくる人はいない)。
ちなみにトランプは、共和党のエリートから支持されていませんでした。ところがトランプは5月18日、リアリストの大御所キッシンジャーの自宅を訪問した。そして、しばしば電話でも話し合っていることが明らかにされました。トランプが、キッシンジャーのいうことに耳を傾ける素直さをみせれば、共和党のエリート層も意見を変えるかもしれません。
現状維持勢力の「グローバリスト」ヒラリー
一方、ヒラリーは、オバマ路線を継承するであろう「グローバリスト」といえるでしょう。ヒラリーさんのスローガンは、「Stronger Together(一緒の方が強い)」です。これは、「アメリカ第一主義」のトランプさんに反対しているのです。ヒラリーさん、指名受諾演説で、こんなことをいいました。
問題を直せるのは自分ひとりだけだ、などという人の言葉を決して信じてはいけない」と、トランプ氏を強く批判。
「アメリカ人は決して、自分にしか直せないなどと言いません。アメリカ人は『みんな一緒に直そう』と言うのです」と強調し、アメリカは権力を一手に握る権力者から独立してできた国だと指摘した。
(BBC News7月29日)
- トランプ=アメリカ第一主義、民族主義
- ヒラリー=国際協調主義、グローバリスト
ちなみにヒラリーさんは、「ウォールストリートの金持連中」や「TPP」を批判しています。しかし、これは本音ではないでしょう。
こう見ると、トランプさんは、トレンドに乗り、ヒラリーさんは、現状維持で劣勢な気がします。関係を見ると、現状を維持しようとするドイツのメルケルさんと、民族主義のトレンドに乗るフランスのルペンさんのようです。
しかし、ヒラリーさんには強味があります。そう、「支配勢力」がヒラリーさんの味方なのです。過激なトランプを恐れる、ウォール・ストリート、大企業群、銀行などは、ヒラリーの味方。ひょっとして共和党のエリートたちも「トランプよりヒラリーのほうがマシ」となるかもしれない。
というわけで、
トレンドに乗る民族主義者、アメリカ第一主義のトランプさん。支配層から支持を受ける、グローバリスト・ヒラリーさん。勝つのはどっちなのでしょうか?
image by: Wikimedia Commons
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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