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カゴメの失敗。トマト企業はいかにしてブランド崩壊を乗り越えたか?

企業にとってブランドイメージ、ブランド力とは金銭に換算できない強力な資産である、と言うのは無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さん。ところがそのブランドをかつて自らの過ちで崩壊させてしまったのが、あの「カゴメ」です。なぜそのような失態を犯してしまったのか、そしてそこからどう復活したのかについて、佐藤さんが詳細に記しています。

カゴメのブランド戦略

こんにちは、佐藤昌司です。「カゴメ」と聞いて、まず何を思い浮かべるでしょうか。多くの人がトマトを思い浮かべるかと思います。カゴメはご存知の通り、トマトジュースや野菜ジュース、トマトケチャップを主に扱う大手総合メーカーです。

カゴメはブランディングで成功した企業です。「◯◯といえばA社」と直ぐに連想できる企業はブランド力があるといえます。

カゴメの創業者はトマト栽培を始めたことをきっかけに、国産トマトソースの製造事業へと発展させていきました。トマト加工事業では国内最大手となり、カゴメといえばトマト」というイメージが定着しました。

このようなブランドイメージは、お金には換算できない強力な無形の資産となります。しかし、「カゴメ=トマト」という強力なブランドイメージを形成することができたにもかかわらず、そのブランドイメージを大きく崩すことになった誤った経営戦略をとったことが過去にあります。

カゴメは一時期、総合食品メーカーを目指し、トマトジュースや野菜ジュースに加え、コーヒーや紅茶、果汁系ジュースなどにまで手を広げました。しかし、コーヒーや紅茶、果汁系ジュースなどは思うように売れませんでした。在庫の山が残り、在庫保管効率は悪くなり、採算が悪化していきました

売れないので在庫をさばくために大幅な値引きを余儀なくされました。販売費や物流費が膨れ上がり利益を圧迫しました。過当な値引きにより、利益が圧迫しただけでなく、ブランドイメージを損ねる事態にまで発展していきました。同社はブランドの崩壊という危機に直面したのです。

そこで同社は「収益力中心経営への転換」を経営課題として掲げ、約2,000あった商品数を約半数近くに縮小し選択と集中を行いました。選択と集中により経営効率は改善されました。しかし、経営効率は改善されたものの、一度棄損した同社のブランド力は回復しませんでした

原点回帰でブランドを刷新した

そのような状況で、創業約100年にして新しく就任した新社長が強力なリーダーシップを発揮してカゴメの新たなブランド構築に動きだします。「カゴメをどのような会社にするのか」「カゴメの強みは何か」を経営陣で徹底的に議論しました。

そして結論づけたのが、創業以来の同社のDNAである「土に親しむ会社)」への回帰です。自社のコア・コンピタンス(中核となる企業の強み)を踏まえ、同社は「トマトと野菜のカンパニー」と定義したのです。

同社は自社の定義を「トマトと野菜のカンパニー」としました。そして、その定義を具現化した商品「野菜生活」が誕生しました。「野菜生活」は同社の中核商品へと成長します。

さらに、カゴメラビオ(旧雪印ラビオを買収)を完全子会社化し、「乳酸菌免疫力)」という新たな経営資源を獲得しました。

この買収により、カゴメがこれまで定義してきた「トマトと野菜のカンパニー」という枠を超えて、再度、自社のコア・コンピタンスの定義を見直していく必要があると判断しました。

そこで同社は、トマト、野菜、乳酸菌を「自然の仲間」とひとくくりにし、ブランドステートメントとして「自然をおいしく楽しくKAGOME」を発表しました。カゴメのブランドを再定義したのです。

ブランドステートメントの「自然」とは、自然の恵みがもつ抗酸化力や免疫力を活用し、食と健康を深く追求することです。「おいしく」とは、自然に反する添加物や技術に頼らず、体にやさしいおいしさを実現することです。「楽しく」とは、地球環境と体内環境に十分配慮し、食の楽しさの新しい需要を創造することです。

ブランドを浸透させる努力を行った

飲料や食品など事業単位で顧客に提供する価値を明確にし、商品開発と自社ブランドのコミュニケーションを行っていきました。再定義したブランドを社内に浸透させるために、社長自らが社員に直接ブランドの意味について説明を行っていきました。

ブランドを確立する上で、ブランドを社内に浸透させることは非常に大事なことです。崇高なブランドメッセージなどを開発しても、それを社員が十分に理解していなければ、有効なブランドメッセージを対外的に発信していくことはできません。

そのため、社員研修を行うなどして社員に浸透させることに注力しました。地道な努力により、社内に統一したブランド観を構築することができたのです。

次に、顧客にブランド価値を伝えていくことに注力していきました。年間1万人を目標とし、講演を行うことで啓蒙していったのです。また、取引先の関係者を工場見学に招待し、現場・現物を見せることでブランドの魅力を伝えていきました。ロゴやパッケージなども新たなブランド価値を示すものに変更しました。

再構築されたブランド価値を伝えるための活動を地道に行っていきました。自社のコア・コンピタンスを明確化し、コア・コンピタンスに沿った商品開発と事業展開により、カゴメの企業ブランドを確固たるものにしたのです。

ブランド価値を構築するということは簡単なことではありません。しかし、一度構築されたブランド力は、見えない資産として大きな力を発揮します。時間はかかりますが、カゴメのような確固たるブランド力を確立することは非常に大事なことです。

企業が永続的に発展していくためにはブランドの確立が欠かせません。カゴメの事例はその重要性を端的に示しているといえそうです。

image by: Tabatterstock

 

店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業
著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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