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三角大福中にYKK。「派閥政治」全盛の懐かしき昭和を振り返る

今年9月、かつて総理に一番近い男とも言われ、「加藤の乱」で世間を騒がせた加藤紘一氏が亡くなりました。YKKの時代を知る人たちにとっては寂しくもあり、また、一時代が終わったという思いもあるのではないでしょうか。今回の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、YKKを中心に、「派閥政治」華やかなりし頃を振り返ります。

懐かしき派閥政治。あの頃は政治に活力があったが、今は…

今日は最近あまり耳にしない懐かしい言葉になりつつある「派閥政治」を取りあげたい。なぜこの話題を取り上げるかというと、YKK(山崎拓氏、加藤紘一氏、小泉純一郎元首相)の中道の中心である加藤紘一氏が亡くなられたのと、7月に山崎拓氏(元自民党副総裁)が「YKK秘録講談社)」を出版されたからである。書籍にはYKKはどのような政治活動をしたかということが活き活きと描かれている。つい数日前にこの出版記念パーティーが都内で開かれ、小泉純一郎元首相、著者の山崎拓氏、そして、先日亡くなられた加藤紘一氏の三女の鮎子氏(衆議院議員)が集まりYKK派閥時代を振り返った。

政界が少し停滞している…

そこで印象的だったのは小泉氏の挨拶で、今の政治について「政界が少し停滞している。YKKの政局が注目を浴びた当時と違って、活気がない。もっと活気を出せ」というようなことを述べた。今、安倍首相に遠慮してなんとなく意見を言わない空気で、政治家たちも非常におとなしくなっている。派閥政治は非常に問題もあったが、派閥政治時代の政治というのはいったい何だったのかということを振り返ってみたい。

一時代を作ってきた派閥

派閥はそれぞれの時代に有名なものがあった。一番有名なものは「三角大福中」で、戦後の一時代を作った。

それぞれ個性的で強いリーダーシップをもっており、5人全員が非世襲議員であった。そして、この5人は派閥の創業者でもあった。この当時なぜこんなに活気があったのかというと、皆「日中の田中、財政の福田 、国鉄改革の中曽根」というようにそれぞれが個性を持っていた。そして、三木派は「ハト派集団」、中曽根派は「タカ派集団」。財政に関しては、田中派は「財政出動派」、福田派は「緊縮財政派」。こうした個性の違いが政策論争となり、自民党を非常に活気づけ、バランスを保っていた。しかしながら、今はそういうものが無くなったと、皆感じているのだと思う。この5人は皆、総理大臣になられた方々でもある。

この後、「安竹宮」という時代もあった。

安倍晋太郎氏は病気で亡くなられたが、竹下氏、宮沢氏は総理大臣になられ、皆、政治を活性化させたという点もあった。この3人は中曽根氏の後を引き継ぐような形になったが、その後YKK時代がくる。

YKKで政治をかきまわし、政治を活性化しよう!

このYKKは派閥かというと、必ずしもそうではなく、3人とも出身派閥が違う。加藤氏が、腹を割って話せる仲間をつくろうじゃないかと山崎氏にもちかけ、もう一人誰を入れるかとなった時に「小泉氏はどうだ」と山崎氏にいうと「小泉氏は少しエキセントリックじゃないか…」ということだった。そこで、加藤氏が小泉氏と話をして、小泉氏は「俺はエキセントリックだよ。でも、面白い男だ」ということで、3人で政治をかきまわし、政治を活性化させるために時の権力者に対してモノを言っていこうというグループが結成された。

戦国武将に例えるなら…

3人を戦国武将に例えると、以下のようにいわれている。

政治の活性化と共に派閥の衰退となったYKK時代

YKKは政治を活気づかせた。自分に抵抗する勢力に歯向かい、打破し、そして小泉氏は力づくで政権を取っている。小泉氏が政権の座についた際、YKKは味方したのかというと必ずしもそうではなくそれぞれ別の活動をしている。しかしながら3人はしょっちゅう集まっていた。YKK秘録を読むと、月に2、3回は料亭に集い、政治を活性化させるための議論をしている。

一方で派閥は諸悪といわれ、派閥が急速に衰退し始めた。これはなぜかというと、「政治とカネの問題」が大きい。派閥順送りの人事が適材適所でない人事を生み、派閥間の抗争「角福戦争」などがしばしば政治的混乱をもたらしていた。総理、総裁の座を巡る熾烈な戦いが、結果的に「政治とカネ」の問題を引き起こし、族議員が出現し、金権政治が批判により汚職が明るみとなった。このことによって、この頃から「派閥」はよくない流れになっていく。

同時期に政治改革も

もう一つの要因としては「政治改革」。「中選挙区制」から「小選挙区比例代表並立制」に変化し、派閥に入るトクが失われた。このことは非常に大きい。これまでは派閥が推して、中選挙区には複数候補がいたので押し込めたが、小選挙区になると1人なので党が力を持ち、幹事長か総理が力を握る。このことによって幹事長や総理に対してモノが言えなくなるという状況になった。

私は1、2年生議員と一月に1回程度議論をするが、派閥に入らないという人も徐々に増えてきた。政党助成金が出来カネの威力が消えた。政党助成金は党におカネが入り、党が力を持つようになったということも非常に大きな要因であると思う。

そういう意味でいうと、派閥の存在意義が無くなってきた。かつては、派閥の存在意義はあり、政策、教育機関として人を育てるということがあった。今は総理や幹事長に気に入られると育てられるというようになり、派閥とは関係なくなってきた。今や派閥は仲良し倶楽部に毛が生えた程度で、意味がないと感じる人が多くなってきている。そして、それが安倍一強体制を作っているともいえる。

政策論争から政治の活性化を

現在の一強体制は、強いようでいて、その反面単一の弱さを感じるところもある。それに対抗しているのが、今の小池百合子氏かもしれない。小池氏は都民ファースト、コンパクトなオリンピック、無駄遣いしないなどの自分の原則を決め、そこでガンガン押していき世論を味方にしている。こうなるとかつての派閥の長もなかなかモノをいえなくなるという側面もある。

考えてみると小池氏は派閥を渡り歩き派閥の権化のような人だが、その人が脱派閥になった。渡り歩いたが、自分を忘れなかったというところが大きかったのだろう。皮肉な結果ではあるが、世論を味方に自分の意見を持つということが、これからは大事なのかなというように思う。

民進党ももう少しまとまっていないと力になりにくく、下手すると無くなる可能性もある。一強の自民党にも問題がある。政治をもう少し面白くしてほしいと思う。その為には、政策論争をやり、少し派手に議論をしてほしいとも思う。

※ブログに『YKK秘録(講談社)』の出版パーティーの画像とその様子が書かれた加藤鮎子氏サイトのブログ「『ykk秘録』出版記念会にて祝辞をのべました」のリンクを掲載しております。ご興味をお持ちの方は合わせて参照ください。

時代を読む

(TBSラジオ「日本全国8時です」10月4日音源の要約です)

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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