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【書評】この出会いが世界を変えた。サントリー史上最強のふたり

今回の「3分間書評」で取り上げるのは、芥川賞作家・開高健氏と、彼を社員として雇い入れ、二人三脚で会社を育てたサントリーの佐治敬三社長の絆を描いた1冊。2人の奮闘ぶりはもちろん、マッサンとの確執などサントリーの裏面史などもつづられている極上のノンフィクションを『毎日3分読書革命! 土井英司のビジネスブックマラソン』からご紹介いたします。

佐治敬三と開高健 最強のふたり』  北康利・著 講談社

こんにちは、土井英司です。

よく、「人生にムダはない」と言われますが、人との出会いほど、それを痛感させてくれるものはありません。

就職で失敗したおかげで生涯のメンターに出会ったり、離婚したおかげでベストパートナーに出会ったり、これまで読んだ本、周りの人の話だけをとっても、枚挙に暇がありません。

本日ご紹介する1冊は、そんな運命を変える出会いの中でも、極上のエピソードを、気鋭の作家がつづった1冊。

対象となったのは、佐治敬三と開高健

生産量世界一のウイスキーを作ったサントリーの二代目社長、そして同社のコピーライターとして数々の伝説を築き、在職中に芥川賞を受賞した天才作家の心の交流が、名著「白洲次郎 占領を背負った男」の著者、北康利さんによって、見事に描かれた作品です。

良いノンフィクションというのは、本当に読み終えるのが惜しいほどの楽しみを与えてくれるものですが、本書もまたそんな1冊。

若い頃、養子に出され苦しい青春時代を送り、後に父の仇を取るべく勝算なきビール事業に挑んだ佐治敬三。

ベトナム戦争の最前線に身を投じ、生涯うつに悩まされながら、次々と名作をつづった開高健。

一世を風靡したトリスウイスキー、伝説のPR紙『洋酒天国』、世界一の大ヒットにつながったサントリーオールド…。

2人の友情によって作られた事業はことごとく当たったのですが、本書ではそこに至るまでの関係者の苦悩と努力が描かれています。

本書では脇役となる、「神谷バー」の仕掛け人にして当時日本最大のワインメーカー神谷酒造の神谷伝兵衛、阪急東宝グループ総帥の小林一三など、粋な人物が何人も登場し、物語に華を添えています。

何よりワクワクするのは、才気あふれる人材が次々と集まり、サントリーを盛り立てていく様子。

経営者ならきっと、こんな会社を作りたいとジェラシーを感じてしまうのではないでしょうか。

サントリーと竹鶴政孝との確執や、佐治敬三が養子になったいきさつなど、サントリー裏面史についても書かれていて、いろんな意味で楽しめる1冊でした。

>>次ページ ビール事業黒字化の決め手となった開高のアイディアとは?

いくつか気になったポイントを引用しておきましょう。

サントリーがまだ寿屋と呼ばれていた時代、佐治は失職中だった開高を拾い上げ、宣伝部のコピーライターとして、はたまた伝説のPR雑誌『洋酒天国』の編集長として活躍する場を与えた。作家志望だった開高に、二足のわらじをはくことを許したのも彼である。おかげで開高は在職中に芥川賞を受賞することができ、本格的な作家デビューにつながった。

「竹鶴はん、ほんまもんのウイスキーつくりたいんや」
願ってもない申し出である。信治郎は15歳下の、まだ29歳の青年に、寿屋の未来を託したのだ。

「絶対に上場しないとは一遍も申し上げていないんです」と前置きしたうえで、「公開、先に立たず」と言い放った。株式公開して、後悔しても知らないぞ、というニッカへの痛烈な皮肉である。

「ザ」という定冠詞をつけて高級感を出す開高のアイデアは、その後、サントリーのみならず、世の中に広まっていく。そして佐治も開高もこの世を去ったのちのことだが、まさにこの「ザ」を冠した商品が、敬三の悲願だったビール事業黒字化の決め手となるのである。

開高は集めた宝石のうち、特に高価なものは革袋に入れてアタッシュケースにしまっていた。鍵の番号は「007」。いかにも彼らしい。
彼の死後、この革袋の中身はきれいになくなっていた。すべて世話になった人たちに配りきってこの世を去っていったのである。

開高がよく色紙に書いていた言葉がある。

 

明日、世界が
滅びるとしても
今日、あなたは
リンゴの木を植える

 

もともとは宗教改革で知られるマルティン・ルターの言葉だと言われている。まるでこの言葉を実践するかのように、開高は人生の最後の最後まで生きることをあきらめなかった。

世の長寿企業の共通点は、創業から長い時間が経っても、社内に起業家精神が横溢していることである。サントリーがまさにそうであった。

あの時代はみんな気が違ってた。私も当時はゴルフもせんし、絵も描いてないから1日中仕事してた。1日1日が楽しかったねえ。朝から晩まで働いて、後は酒飲むだけだったから。みんなが「狂」の時代でした。何かに取り憑かれるように仕事していた。だが、誰かに怒られるから仕事しようというのでなく、さりとてやらねばならないと目を吊り上げたわけでもない。周りの「狂」の気分に同化してしまっていつの間にか働いていたんだ。

開高健が考えた「ザ」という表現が、創業者・鳥井信治郎も、息子・佐治敬三も成し得なかったビール事業の成功を導いた、というくだりは感動でした。

父と息子の愛、そして一流の男同士の友情を描いた、優れたノンフィクションだと思います。

ぜひ読んでみてください。

image by: Shutterstock

 

毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン
著者はAmazon.co.jp立ち上げに参画した元バイヤー。現在でも、多数のメディアで連載を抱える土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介する無料メルマガ。毎日発行。
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