元「旅行読売」編集長の飯塚玲児さんが、温泉に関する知識を毎回教えてくれるメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』。前回の記事で、飯塚さんは温泉通なら誰もが知っているけど、初心者にはわかりづらい「温泉のフレッシュ感」について説明していました。今回はその続編として、温泉のフレッシュ感を感じるための要素の一つである、「温泉の香り」について解説してくれています。フレッシュな温泉特有のニオイとは?
温泉の”フレッシュ感”とは何か?(2)
前号に続いて、温泉のフレッシュ感について解説をしたい。 特に今回は温泉の「香り」について、である。
ご存じの通り、温泉には香りがある。 フレッシュな温泉には、その温泉のよい香りがする。 含硫黄泉などは別にして、硫酸塩泉や炭酸水素塩泉などは、湯がフレッシュでなくなると、その香りがあまり感じられなくなるものだ。
泉質ごとに簡単に解説する。 まず含硫黄泉である。 これが一般的にはもっとも温泉らしい匂いがすると言ってもいいだろう。 俗に「卵の腐ったような匂い」というやつである。 しかし、この表現は酷いなぁ、といつも思う。 第一、僕は卵の腐ったものの匂いを嗅いだことがない。 あんなにいい香りを、このような言葉で表すのは納得いかない。 何かいい表現があったら教えてください。
さて、含硫黄泉の香りを「硫黄臭」と表現することも少なくないが、実は硫黄単体には匂いはなく、あの匂いは「硫化水素臭」というのが正しい。
この香りはかなり強いので、湯のフレッシュ感が損なわれてもしっかりと感じられると思う。 だが、湯の鮮度が落ちると、やっぱりほかの部分で違いが表れてくる。 湯の肌触りや浴感などがそうだが、これについてはまた別の機会に譲りたい。
含鉄泉の香りもわかりやすい。 いわゆる「金気臭」「鉄臭」などと表現される。
含鉄泉は酸化が非常に早くて、湯船に注がれるときには、ほぼ赤茶色などに濁っている。 これは鉄分が酸化して析出したもので、「錆」というわけだ。だから「鉄錆の香り」をイメージすると含鉄泉の香りはすぐにわかるはず。
ここから先が難しい。 まず塩化物泉。 塩そのものには基本的に香りがないから塩化物泉の匂いに関して言うと、他の含有物の匂いを探す感じになる。
放射能泉や二酸化炭素泉も、それ単体ではやはり香りがないので同じである。
他の含有物の香りについては、炭酸水素塩泉も硫酸塩泉も単純温泉も同じだが例えば強塩化物泉は鉄分を含んでいることが少なくなくて、これなら含鉄泉と同じく鉄錆の香りがする。
また、特に炭酸水素塩泉に多いが、いわゆる「モール臭」をともなうものも多い。 これは太古の植物などが枯れて分解される過程で残った「フミン酸」(腐食質)という有機化合物の香りで、独特の匂いがある。
ただ、このフミン酸は含有量や分解の度合いなどで色も香りも異なるので、一概にこの匂い、と決めつけることが難しい。 とはいえ基本的な香りはあり、僕は「川の匂い」というふうにとらえている。 どこか懐かしくなるような、とてもいい香りで、塩化物泉などにも含まれていることが多い。
また、同じモール臭でも、温泉によっては俗に「アブラ臭」と表現される独特の香りを持つものもあるし、「稲藁のような香り」の場合もある。
含よう素泉の場合は、独特の「薬臭」があることが多い。 理科の実験室のような薬品の香りである。 むろん、塩素消毒の匂いとはまったく違う。
硫酸塩泉はなかなか難しいのだが、含有成分がカルシウムの場合は、かすかにこげたような匂いを感じることがある。 マグネシウムの場合は、かすかだが薬臭を感じることが多い気がする。
以上、温泉の香りについて簡単に解説したが、実際には温泉は複雑に成分が組み合わさっていることが多く、その組み合わせで香りは一つ一つ違う。
それが温泉の個性であるわけで、塩素消毒などをしてしまうと、その香りも台無しである。
また湯のフレッシュ感が損なわれると、微妙な香りがわからなくなってしまうことが多い。 その温泉固有の良い匂いがするということは、湯がフレッシュだと感じられることにつながっていると思う。
温泉の微妙な「香り」を嗅ぎ取るには、湯口の湯が注がれているところで、湯船にドボドボと流れ落ちているところでクンクンするとわかりやすい。
個人的にはやはり硫化水素臭と、モール臭が好きである。 特にモール臭を湯口のそばで嗅ぎながら、ぬるめの湯に浸かっているのは至福のひとときだ。
これはやはりフレッシュな温泉でないと、存分には楽しめない。
その温泉固有の香りを感じたときには、ああ、フレッシュ感があるなぁ、と思うわけである。
長くなったので、今回はここまで。 次回は温泉の色とフレッシュ感について書いてみようと思っている。 お楽しみに。
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