2月14日夜に突然入ってきた、北朝鮮・金正恩朝鮮労働党国務委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏の暗殺報道。事件が発表された当日は、様々な情報が錯綜して真相が見えませんでしたが、実行犯とされる女2人が逮捕されるなど、徐々にその全容が明らかになってきました。北朝鮮の関与はあったのか、事件当時の状況や暗殺方法はどれが真実か、そして事件の本当の黒幕は誰なのか、謎が謎を呼んでいます。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが、今回の正男氏暗殺事件の背景について、日本の新聞各紙はどのように報じたのかを詳しく分析、解説しています。
世界を震撼させた、北朝鮮・金正恩委員長の異母兄、金正男氏暗殺の背景を各紙はどう報じたか
【ラインナップ】
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「正男氏 12年にも暗殺未遂」
《読売》…「安心の子育て・介護へ」
《毎日》…「東芝、東証2部降格へ」
《東京》…「「富の集中」日本も」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「正恩時代 狙われ続けた兄」
《読売》…「「保活」戦線 不安の渦」
《毎日》…「北朝鮮、5年前から計画」
《東京》…「命乞い無視 兄を粛清か」
ハドル
細かい情報が集まってくるにつけ、金正男氏暗殺事件のもの悲しさが一層募ってくるようです。今の段階で、各紙の論調にどの程度の違いが現れているか分かりませんが、これを対象にします。《
執拗な排除
【朝日】は1面トップと2面の解説記事「時時刻刻」。11面国際面と36面にも関連。まずは見出しから。
(1面)
- 正男氏 12年にも暗殺未遂
- 韓国「正恩体制で必達」
- 容疑者1人逮捕
(2面)
- 正恩時代 狙われ続けた兄
- 韓国「執拗に排除 性格反映」
- 「毒劇物によるテロ」指摘
- 中国、国内では身辺保護
- 追及強める国際社会
(11面)
- 正男氏殺害 中国痛手か
- 事実上保護「外交カード」
(36面)
- 北朝鮮へ増す不安
- 「変革の期待砕かれた」「拉致早く解決を」
- 赤坂のクラブ 韓国情報収集
- 90年代 正男氏が後継最有力の見方
uttiiの眼
1面記事で《朝日》が直接取材しているのは、「中国政府関係者」
2面の解説は、「
ともあれ、最も重要なのは、この先の中国の動きをどう考えるかだろうと思われる。だが、《朝日》の各面の記事、
まず2面記事で、中国は、北朝鮮の経済改革を推進していた張成沢氏(13年に処刑)との関係が深く、張氏は正男氏の後見人的な役割もはたしていたので、
ところが、11面の国際面は、今回の事件が中国政府にとっての「
結局、何が何だか、よく分からない。
正男氏の涙
【読売】は1面左肩に基本的な事実、2面に解説的な記事、7面国際面にも。見出しを並べてみる。
(1面)
- 正男氏殺害 関与の女逮捕
- 毒殺の見方 男女5人 行方追う
(2面)
- 「命ごい」正男氏狙う
- 「正恩氏の指示 不可欠」見方も
- 韓国の情報機関分析
- 父葬儀 参列できず■国民窮状に涙
- 正男氏 流転の人生
(7面)
- 読めぬ北 中国危機感
- 金正男氏殺害
- 「親中派」も処刑 関係悪化辞さず
- なぜマレーシアで
- 警護なしで行動/中国より警備緩く
uttiiの眼
2面記事には、暗殺の動機の中に、正恩氏の「偏執狂的な性格」(
殺された正男氏の人となりについて書かれている内容は、「中国、
正男氏と中国との関わりについて、《読売》は《朝日》
7面記事に次のような記述。「中国が中朝関係の悪化を見越し、
どこまでが本当のことか分からないが、仮に、正恩氏が軍の傀儡なのだとしたら、「自らを脅かす可能性が少しでもある人間を「
正男人脈は既に一掃
【毎日】は1面左肩に基本的な事実、3面に解説記事「クローズアップ」とQ&Aの「なるほドリ」、
(1面)
正男氏殺害 女逮捕
関与疑い ベトナム旅券所持
(3面)
謎深まる金正男氏殺害
北朝鮮、5年前から計画
体制転覆の危険 除去か
北朝鮮工作員 何をしているの?(なるほドリ)
(9面)
南北対話に冷や水
韓国 広がる衝撃
多くは謎のまま
工作・情報機関による暗殺
正恩氏の指示か
亡命高官ら萎縮
(31面)
日本政府 情報収集
正男氏殺害 偽造パスポート懸念
uttiiの眼
《毎日》の見方は、3面記事に現れている。12年に金正恩体制が始動してすぐに、中国が新体制を不安視し、もしも体制が混乱したら、その時は正男氏を担ぎ、張成沢氏と組ませたいと考えているとの情報が入ったという。対抗して、正恩氏は早い時期から正男氏の人脈と資金源を摘発・除去するよう命じ、その過程で「共和国内の(正男氏)人脈を一網打尽にした」といい、その任務を担当した保衛部は表彰までされたのだという。そして、「
中朝関係をきっかけにした、北朝鮮内部の権力闘争と粛清の最終段階での出来事、という理解のようだ。
3代世襲に反対
【東京】は1面左肩に基本的な事実。2面の解説記事「核心」、
(1面)
- 5年前 北が殺害指令
- 正男氏は撤回を懇願
- 女1人拘束、複数犯か
(2面)
- 命乞い無視 兄を粛清か
- 「正恩体制の脅威ではないのに」
- 支援の叔父処刑 中朝関係に影も
- 混雑する空港 一瞬の隙突く
(5面)
- 恐怖政治に潜む深い闇(社説)
(9面)
- 正男氏殺害現場 騒然
- クアラルンプール 空港にメディア
- 市民ら「スパイ映画みたい」
- 遺体収容病院 北大使館の車
(26面)
- 暗殺の歴史 背後に独裁
- ロシアも反体制派が犠牲
uttiiの眼
《東京》は3面の解説記事で、正男氏が、父、金正日政権の末期に日本などのメディア取材に応じ、「3代世襲に反対」「
26面の「こちら特報部」の「ニュースの追跡」は、暗殺の歴史と独裁についてまとめた記事。「世界を見れば、
そして、アメリカのケネディ大統領、インドのインディラ・ガンジー首相とその息子のラジブ・ガンジー首相のケース、またプーチン政権の下で殺されたロシアのジャーナリストや野党指導者、ロンドンで毒殺されたリトビネンコ氏のことなどを振り返る。
あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
逮捕された女はもう1人の女と旅行に来ていて、別の4人の男に「
もう1人の女(インドネシア国籍のパスポート所持)も逮捕されたとか。最初に捕まった女は、1人で空港をウロウロしているところを逮捕されたとのこと。いよいよ、
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