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このまま行く気か。「共謀罪」が本性を暴かれることなく可決へ

野党により提出された法務大臣不信任案も否決され、安倍官邸悲願の成立にまた一歩近づいた共謀罪。これまで政府は「一般市民は捜査の対象にならない」と説明してきましたが、果たしてそれは真実なのでしょうか。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、これまでの国会等のやり取りを丁寧に分析しながら、この法案の危うさを指摘しています。

一般市民に関係ないという共謀罪法案のウソに騙されるな

法案の正体がバレないうちに通してしまえというわけか。安倍自民党政権は、連立外に控える補完勢力、日本維新の会を抱き込んで共謀罪法案の修正案をでっち上げ、5月19日にも衆院法務委員会で可決するかまえだ。

自公両党と日本維新の会が合意した修正案は、取り調べの可視化録音・録画)を検討することを、法案の付則に盛り込むというのが主要な中身である。

取り調べの可視化は昨年、刑事訴訟法が改正され、裁判員制度対象事件や検察官独自捜査事件に採用されることになっている。

そこに共謀罪の事件も可視化の対象として加えることを「検討する」というのだ。「検討」では付け焼刃にもならないのではないか。

可視化の効果そのものに疑問がもたれているのだ。「任意の取り調べ」は録音・録画されない。実際には「任意別件で聴取され、虚偽自白に追い込まれる例が多い。自白した後、決められたシナリオ通りの供述を録画するというのでは、可視化本来の目的にはほど遠い。

法制審議会委員として、「全事件、全過程での取調べの録音・録画」をめざした映画監督、周防正行氏が5月12日の報道ステーションで、可視化を盛り込む三党合意を「何の意味もない」と批判したのは当然のことだ。維新の賛成を得て、強行採決と批判されないようにしたい政権側の魂胆が丸わかりである。

それでも、数の力で押し切られたら、秘密保護法や安保法制と同じ結果となり、平和と人権を謳った憲法を空文化する悪法三点セットがそろってしまう。

ここは、ぜがひでも、国会やメディアの力で、世論を喚起しなければならない。東京五輪、テロ防止をキーワードに、共謀罪の危険性を包み隠そうとする政府のウソを徹底的に暴く必要がある。

9.11の同時多発テロ以降、アメリカを中心に急速に監視捜査が広がっている。スノーデン氏のリークで明らかになったように、CIAやNSAなど米国のインテリジェンスコミュニティはIT技術を使ってネット通信の傍受、盗聴などを行い、世界から多くの個人情報を集めている。

テロ集団、犯罪組織にとどまらない。一般市民にまで無差別に範囲を拡大している。あなたがたの命にかかわる「テロ対策」なのだから、市民的自由など少々我慢せよといわんばかりだ。

日本政府もそれに追随するかのように、「テロ等準備罪」と名を変えて共謀罪の法案を提出してきた。共謀罪は二人以上が、対象犯罪について合意、計画し、準備したら処罰するというもので、合意、計画があったと捜査当局が疑えば捜査に着手できる。

殺人予備など、いくつかの犯罪に既遂、未遂以前の予備罪が設けられているが、それでは不足で、さらに軽いはずの準備罪、合意するだけの共謀も、捜査の対象にしようとするのだ。

実際に犯罪が行われていないのだから、形のないもの、人の心の内やコミュニケーションを捜査するということになる。それを277種類もの犯罪に適用しようというのである。

常識的に考えて、何の罪もない一般市民が、あらぬ疑いをかけられて、捜査の対象となり、冤罪に巻き込まれる恐れは格段に増えるだろう。

多くの法学者や、ジャーナリスト、有識者が、疑問を呈し、あまたの国民が不安を抱くのは当たり前のことだ。

それを受けて、国会では、政府が言うように「一般の人は捜査の対象にならない」のかどうか、野党議員が追及しているが、頼りない金田法務大臣への攻撃をかわすために雁首をそろえた副大臣、政務官はもとより、林真琴刑事局長すら、論点ずらしで時間を稼ぎ、まともに答えようとしない

そんな質疑の中から、明らかになったのは結局、「一般市民も捜査対象になりうる」という、常識的には疑う余地のない共謀罪の本性である。

5月8日の衆議院予算委員会における、山尾志桜里議員(民進)の質疑を見てみよう。

そのために、まず確認しておかねばならないことがある。「何らかの嫌疑がある段階で一般の人ではないと考える」と言う盛山正仁法務副大臣の発言だ。これが法務省のいわば統一見解となったようである。

捜査当局が嫌疑をかけた時点でその人は一般人ではなくなってしまう。これは恣意的に対象者を決められるということではないのだろうか。どうやって嫌疑があるかどうかを調べるというのか。

山尾議員は捜査手法の一つである「尾行について、こう質問した。

告発された人に嫌疑があるかどうかを調べる段階における警察の活動は金田大臣の言葉では「検討」、森山副大臣の言葉では「調査」と言うようです、この段階での尾行は合法的ですか。

金田大臣は沈黙し、法務省の林刑事局長が答弁した。

嫌疑が発生する前の段階での尾行は、まだ捜査が開始されていないので、できません。

この問答にしたがうなら、嫌疑があるかどうかを調べるさい、尾行などの捜査活動はできないことになる。

そこで、山尾議員は「これまで嫌疑が生じる前に尾行していたら、それはすべて違法だったということか」と問いただした。

すると、林刑事局長は明確な答弁を回避しはじめる。

尾行でも目的によって評価が違う。

尾行は捜査としてはしないということ。捜査以外の尾行があるかどうかといわれても、答えられない。

不明瞭な答弁内容を、山尾議員はこう整理した。

つまり嫌疑が確定していない段階では捜査としての尾行はありえないが、尾行するかどうかは一概には言えない。目的によりけりだと。どう聞いてもそういうことになる。100%ないかというと、そうでもないのだと思う。

嫌疑を確定する前段階の調査とか検討とかいうのは詭弁に過ぎない。捜査しなければ、嫌疑があるかどうかはわからないではないか。捜査当局が一般市民を対象に共謀罪の捜査活動をはじめることは避けられないのである。

ここであらためて、共謀罪法案、すなわち「組織的犯罪処罰法」改正案の肝心な条項を確認しておこう。

組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行なわれる者の遂行を二人以上で計画した者は…

 

その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは…刑に処する

これをもって、金田法務大臣は組織的犯罪集団にかかわりのない人は共謀罪の対象になりえないというのである。

しかし、高山佳奈子・京都大学大学院法学研究科教授によると、「組織的犯罪集団」「合意(計画)」「準備行為」、いずれも捜査当局による恣意的な解釈が可能だ。法案にその中身が限定されていないためである。

限定されていない以上、どのようなグループや組織でも、ある時点から「組織的犯罪集団」と認定されうる。「合意」には、SNSや目配せ黙示未必の故意によるものなど全て含まれる。あまりにも拡大解釈の余地がありすぎるのだ。

金田大臣が準備行為について言うように「ビールと弁当を持っていたら花見、地図と双眼鏡を持っていたら犯行現場の下見」という、いい加減な説明では話にならない。

高山教授は国会の参考人陳述でいくつもの法案の問題点をあげた。

法案には単独犯のテロ計画、単発的な集団のテロが射程に入っていない。2014年に改正されたテロ資金提供処罰法で、テロ目的による資金、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供が処罰の対象になり、これで五輪テロ対策は事実上完了している。

東京五輪のテロ対策に共謀罪法が必要という主張に根拠がないことは明白だ。国際組織犯罪防止条約(TOC条約またはパレルモ条約)を結ぶために必要だという政府の主張についても次のように批判する。

TOC条約との関係で懸念される点がいくつかある。公権力を私物化する行為が含まれるべきだが、除外されている。経済犯罪が除かれているのも条約との関連では問題となる。

具体的には、公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反、警察などによる特別公務員職権濫用罪、暴行陵虐罪などが対象外となっている。

経済犯罪では、会社法、金融商品取引法、商品先物取引法、投資信託投資法人法などの収賄罪が対象から除外され、組織犯罪とつながりやすい酒税法違反、石油税法違反も外されている。さらに相続税法違反も入っていない。

これでは権力や金持ちに都合の悪いものは除外したと受け取られても仕方がないだろう。

読売産経など御用メディアは、「共謀罪」法案に関するごくわずかな論評のなかで、東京オリンピックのテロ対策や国際組織犯罪防止条約の締結に必要だと主張する。

共謀罪を敵視する政党やメディアは、日本が孤立を深めテロの標的となるのを座視せよ、とでもいうのか。

(産経抄1月17日)

問題なのは、野党が「監視社会化する」「一般人が捜査対象になる」などと、極論に走り、国民の不安をいたずらに煽(あお)ろうとしていることだ。

(読売社説5月10日)

自信を持ってそう言えるのなら、なぜ共謀罪法がテロ防止にそれほど重要なのか、一般市民が不当な捜査に巻き込まれない保証は何かを、明確に示してほしい。

真にこの法案が必要であれば、仔細で丁寧な説明ができるはずだが、両紙のどこを探してもそんな記事は見当たらない。官邸の宣伝文句を垂れ流しているだけである。

言論、表現、市民活動が委縮する「監視社会」にさせてはならない。国会は重大な局面を迎えている。

image by: 首相官邸

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