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小池ファーストに翻弄される「都議選」の真の争点を読み解く

7月2日の投開票に向け、熱戦の火蓋が切って落とされた東京都議選。安倍首相が自民党役員会で「厳しい戦い」という認識を示すなど、小池知事率いる都民ファーストの会の優勢が伝えられています。今回の選挙について、アメリカ在住で政治分野に精通する作家の冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「都議選有権者を動かしているのはネガティブな怒りであって、それ以上でも以下でもない」としています。

「都市型の小さな政府論」を考える

都議会議員選挙が告示されました。今回は小池知事の率いる都民ファースト」という党が登場しており、自民党と議席の奪い合いをする格好となっています。その争点ですが、表面的には魚市場の建物の地下水がどうのという、ほとんど無意味な問題が問題になっているわけです。

本来は、この東京都政に関する政策の選択肢がしっかり議論されていて、この選挙が政策への民意反映へのチャンスになるべきです。具体的には、

  1. 地方から東京への一極集中を受け入れるか、拒むのか?
  2. 来るべき高齢単身者世帯の激増に対して歳出減で備えるのか、税収増を狙うのか、それとも給付減にしてゆくのか?
  3. 経済成長を狙う場合に、準英語圏にしてアジアのビジネスセンターを狙うのか、それとも日本語の事務仕事にこだわって行くのか?

という3つの大きな選択が必要であるわけですが、どうも都政の当事者の皆さんは面倒な選択はしたくないようです。これはこれで大きな問題です。

では、本当に「魚市場の移転に関わるスッタモンダに関する印象」で勝負を決めるつもりなのかというと、必ずしもそうでもないようです。政治的な争点としてあるのは、とりあえず次のような構図です。

では、この「都民ファースト」というのは、「都市型の小さな政府論」ということでは、大阪の維新にも似ているわけです。また、現在は民進党を構成している「旧みんな」にも似ています。では、この3者、つまり、都民ファースト、大阪維新、旧みんなというのは、どこが違うのでしょうか?

実はこのように、明らかな相違があるわけです。橋下徹氏の敵は府市労組だったので、過剰なまでに右派ポピュリズムに訴えたわけですし、その点で小池知事の敵はハコモノにカネを使うドン的なるもの」であるために、少し違うわけです。

こうした「都市型の小さな政府論」というのは、昔はなかったわけです。70年代から80年代ぐらいまでは、いわゆる「革新知事」などというのが流行した時代もあったぐらいです。

この「革新知事」ブームというのは、社会が平和主義だったからとか、環境問題に敏感だったから起きたのでは「ありません」。そうではなくて、都市部の納税者が「税金のバラマキの対象として、供給側ばかりというのはおかしい」のであって「自分たちにもバラまいて欲しい」と考えた中から出てきた現象です。

それが、ある時点になると、「バラマキのニーズ」が弱くなって、一時期には東京も大阪も芸能人知事が生まれたりしました。あれは一種の過渡期的現象と言っていいでしょう。そして、現在は反バラマキ」ということになったわけです。ちなみに、名古屋の河村市政なども「都市型の小さな政府論」のバリエーションということが言えそうです。

そう考えると、こうした「都市型小さな政府論」の特殊性は明らかです。東名阪といった経済的に繁栄している地域に独特の「自分は納税しているが、その税金が間違ったハコモノ、あるいは公務員の給料に使われている」という「ネガティブな怒り」を政治的なパワーに変換するというマジック、それ以上でも以下でもないのです。

その発想には、全国に通じる普遍性はありません。また、それぞれの大都市が本当に抱えている中長期の課題に対して向き合う姿勢もありません。ただ、基本的には「保守バラマキ」である自民党の「田舎性」が、大都市で顕在化した部分だけ「田舎的なバラマキは止めて欲しい」と怒ってみせる、それだけであって、政治的にはほとんど意味がないように思います。その都市そのものの課題にも、全国レベルでの課題にも向き合う姿勢がないからです。

image by: 小池百合子 Facebookページ

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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