京都の古い街角を歩いていると、民家の屋根の上に髭を生やした人形のようなものが鎮座していることに気が付きます。無料メルマガ『おもしろい京都案内』では著者・英学(はなぶさ がく)さんが、京都にお住まいの方以外はあまり馴染みのないその「正体」について、由来とともに紹介しています。
鍾馗(しょうき)さん
今回は京都の街を歩いているとふと民家の屋根の上に見かける鍾馗さんの話です。どのような理由で置かれているものなのか? その意味は何なのか? といった疑問に迫ります。
京都では鬼門を大変気にします。鬼門は陰陽道で鬼がいるとされている方角です。表鬼門が東北で、裏鬼門が南西です。京都の家の東北や南西の角に鬼が嫌いな南天や桃の木が植えてあるのはそのためです。
また鬼門封じのために東北の角をなくしている建物なども目にします。京都御所の「猿が辻」などもその一つです。また京都の街そのものも中心から東北の方角に当たる比叡山延暦寺や赤山禅院などに護ってもらっているのです。
京都の家の屋根には魔除けとして「鍾馗さん」の姿を見かけることがあります。京都の町家の屋根瓦の上に高さ30センチぐらいの鍾馗さんという瓦人形をよく目にします。これは一体何のために置かれたものなのでしょう? 太刀を持って怖い顔をして正面を睨みつけていますが、どこか可愛らしくもあります。鍾馗さんを屋根の上に置くようになった由来にはある物語があります。
鬼より強い鍾馗さん
鍾馗の歴史は中国・唐の時代まで遡ります。当時の皇帝・玄宗皇帝が病に臥している時に夢の中に一匹の小さな鬼が現れたといいます。その夢の中で鬼が玄宗の妻・楊貴妃の宝物を盗もうとしました。鬼の手が玄宗にかかろうとした時、突然髭面の鍾馗が現れ鬼を引き裂き退治したそうです。そして、玄宗が夢から覚めると病はすっかり治って元気になったといいます。
この話はその後あっという間に広まりました。そして、それ以降髭面の鍾馗は道教の神として祭られるようになったと伝えられています。
なぜ京都を中心に広まった?
昔、三条に新たに薬屋を構えた時に大きな店の屋根に鬼瓦を葺きました。すると向かいの家の奥さんが原因不明の病に倒れてしまいます。原因を探ると、薬屋の鬼瓦により跳ね返った悪いものが向かいの家に入ってしまっていることが分かりました。そこで鬼より強い鍾馗さんを瓦屋に作らせ、魔除けに据えたところ奥さんの病が完治したと伝えられたのです。それ以降、京都では鬼瓦の対面に鍾馗さんを据えるようになったといいます。
ではどうして京都に広がったのでしょう? 京都人の性格上、向かいの家が鍾馗さんを屋根に上げると、同じように自分の家にも鍾馗さんを上げるからだと考えられています。向かいの家にそのようなことをされても京都人は文句を言わず黙って同じことをするからだろうということのようです。ただ、不快な思いをしないよう、近所同士にらみ合いにならないように正面を向いていない鍾馗さんの姿も多いようです。他にも微笑み返しという意味を込めてお多福を対面に据える場合もあるようです。今では屋根ではなく、玄関先に置くだけでも効果があるとも言われています。
昔から伝わる京都の鍾馗さんの姿はこれからもきっと受け継がれていくことでしょう。京都中心部や西陣あたりの特に古い町並みなどを歩く機会があったら是非気にして見てみて下さい。
いかがでしたか? 京都は日本人の知識と教養の宝庫です。これからもそのほんの一部でも皆さまにお伝え出来ればと思っています。