「謙虚」「謙遜」は読めたとしても、「謙る」となるとなんと読んでいいのやら…、というように、訓読みになると途端に読みが危うくなる漢字ってありますよね。今回の無料メルマガ『1日1粒!「幸せのタネ」』では著者の須田將昭さんが、そんな言葉の成り立ちなどを紹介しています。
やまとことばほど難しい
とある小説の中に
謙って辞去した。
という一節がありました。「謙る」で一瞬「ん?」となりました。
「謙遜(けんそん)」「謙虚(けんきょ)」など、「謙」を「ケン」と音読みで読ませるのは普通ですが、なかなか訓読みにはお目にかかりません。
これは「謙る」は「へりくだる」と読みます。「謙遜」などの熟語の意味から考えたらわかるのですが、送り仮名が「る」しかないと戸惑いますね。
実際、『常用漢字表』には「ケン」はありますが、「へりくだ(る)」という読みは載っていません。使ってはいけないということではありませんが、一般には平仮名で表記することがほとんどでしょう。
よく熟語で使われて音読みでは簡単なのに、訓読みになると難しい。こういうのはよくあります。
訓読みは、古来から日本にあった「やまとことば」に中国から伝来した漢字に当てたものです。身の回りの単語(体の部位、「やま」「かわ」など自然環境の言葉)や簡単な動作はそれほど難しいことはありません。
- 目、鼻、口、手、足
- 山、川、空
- 読む、書く、食う、寝る
「難読漢字」などのクイズでよく出てくるのは、「熟語(=音読み)ではなじみのある漢字なのに、訓読みになると難しい」というものですね。
- 退く・退ける
- 諭す
この辺りはまだ想像がつく範囲でしょうか。「しりぞ(く・ける)」と「さと(す)」です。「退却」から「しりぞく」という言葉の連想ができるかどうか。「諭す」はやや難しいかもしれません。「教諭」は「おしえ、さとす」のがお仕事です。
- 集る
- 唆す
「集(つど)う」だとすぐピンとくるのですが、「集(たか)る」はなかなか難しいかもしれません。「ハエがたかる」と言えば連想できますか? 「唆す」は「殺人教唆」など、推理小説、ミステリーではおなじみの漢字ですが、「そそのかす」と平仮名書きが一般的ですね。
基本的には『常用漢字表』に載っている読み方ができればおおよそ問題はないはずですが、ちょっと古い小説などを読むときにはそれではおいつかない、ということがあります。特に、明治、大正あたりの近代文学では往往にしてあります。
自分が文章を書くときには平仮名の方がいいかもしれません。相手が読めるとは限りませんので。でも、読めた方が理解は深まるだろうなと思います。
やまとことばなのに漢字で書かれると難しい。なかなか手強い相手です。
読めなくても意味はわかる。それは漢字の良さです。「謙る」は読めなくても「謙遜、謙虚という言葉から、多分、なんか低姿勢になってるんだろうな」と想像つきます。「集る」は読めなくても「なんか集まってるな」とはわかります。
漢字は「表意文字」としての特色を持ちますが、漢語のときだけでなく、やまとことばを表すのにもその威力を発揮しています。
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