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世界では当たり前。日本も英語を「公用語」にするべき理由

無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』では、英語のエキスパートの山久瀬さんが、海外のメディアで報じられたニュースなどをタイムリーに解説します。

公用語とは一体なんなのか?

今週のテーマは、「英語がアメリカの公用語ではないという事実から学ぶこととは」です。

【海外ニュース】

President Trump embraced a proposal on Wednesday to slash legal immigration to the United States in half within a decade by sharply curtailing the ability of American citizens and legal residents to bring family members into the country.

 

訳:トランプ大統領は、向こう10年の間にアメリカの市民権、あるいは永住権を持った人々が家族を国外から呼び寄せることを厳しく制限し、合法的な移民の数を現在の半分に減らすべきだと考え方を支持すると水曜日に表明した。 (New York Timesより)

【ニュース解説】

先週の水曜日、トランプ大統領がアメリカは受け入れる移民の数を半分に削減するべきだと語ったことは、社会に大きな波紋を広げました。大統領は、移民は英語ができて、経済的にもアメリカ社会に貢献できる人材に絞り込むべきだと語ったのです。

この英語の能力についての議論を考えるときそもそも公用語とは何なのかというテーマを見つめなければなりません。

公用語は、それぞれの国や地域で公に使用される言語を意味しています。この公用語という概念を理解するには、「国語」と「公用語」との違いをしっかりと考えることも必要です。日本では日本語が公用語で、かつ国語でもあります。ですから、公の文書などには日本語が使用されます。そして、日本語は日本文化、日本の歴史を投影させる日本人とは切っても切り離せない言語です。

しかし、このことと日本では日本語だけが公用語でいいのかという議論とを同じテーブルの上で語ることは危険なのです。日本文化を象徴する言語としての日本語は国語です。

しかし、世界の人々が日本で利便性をもって生活するためには、日本語だけが公用語では様々な不便に見舞われるということを知っておきたいのです

 

ここで、トランプ大統領の移民政策の見直しについての発言を、もう一度考え、大統領の発言を冷静に分析すると、彼自身が国語と公用語の二つの概念の違いを理解していないのではという疑念をもってしまうのです。

実は、アメリカ合衆国には、国家レベルでの公用語の規定はありません。しかも、アメリカ国内では32の州が英語を公用語と規定しているに過ぎないのです。

カリフォルニア州を例にとります。カリフォルニア州にはスペイン語を話す中南米からの移民が多く生活しています。従って、選挙公報や確定申告などの公の書類には、英語の他にスペイン語の表記もあります。

他の州でも同様なサービスを提供している事例が多くみられます。

以前私がニューヨーク州で自動車運転免許証を取得するために、交通法規の理解度を確かめる公の試験を受けたことがありました。そのとき日本人向けに日本語の試験問題も用意されていたことが印象に残っています

もちろん、ニューヨークで日本語が公用語だと言い切ることは、拡大解釈しすぎているかもしれません。

しかし、この事例は現実の利便性に即して、様々な言語が公に使用されていることを知る上では参考になるはずです。

こうした言語に対する柔軟な運用をベースにおきながら、アメリカでは国家の伝統や文化を象徴する言語としては独立以来使用されてきた英語が珍重されているというわけです。

 

一方、多数の民族が同居するインドでは、それぞれの地域を代表する言語と並行して、すべての国民が共通して使用できる英語が公用語として採用されています

アメリカやイギリスに公用語としての英語の規定がない反面、インドのように、国家を統一してゆくという現実のニーズから英語を公用語としているケースをアジアやアフリカの多くの国々でみることができるのです

公用語としての言語は、国家や地域に暮らす人々、そこを訪れる人々がいかに支障なく生活できるかということを意識して選択されるべきなのです。実際に2ヶ国語以上の言語を公用語としている国や地域は数え切れないほど存在するのです

このように考えるとき、我々が国としてのサービスや、世界に開かれた国づくりについて考えるとき日本語だけを公用語と規定していいのかという課題に直面します。そして「国語」という概念と「公用語」という概念をまぜこぜにするのではなく、伝統や文化を重んじながらも、人々にとって何が便利なのかという課題に基づいて、公用語を設定するようにしたいものです。冷静に「国語」と「公用語」を分けて制度化するようにしてゆくべきなのです。

 

以前、インドネシアから日本に招いた介護士が正式に日本で働くためには、日本語での認定試験を受けなければならないことが大きな問題となったことがありました。試験で使用されるのは専門用語などがあちこちに使用されている高度な日本語です。

海外からの人材にとって、それは大きなハンディキャップとなるはずです。英語が公用語の一つであるだけで、そんなハードルはずっと低くなります

さらに、資格試験問題などの公の試験やアナウンスをするときに、受験者の多様な国籍などに配慮した公用語の設定があればさらによかったのではないでしょうか。

世界各国の事例に習い、日本でもそろそろ公用語の選定についてしっかりと議論するべき時期にきているのではないでしょうか。そうすれば、世界の叡智をもっと活用できる社会づくりができるようになるのではと思うのです。

 

image by: Shutterstock

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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