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一点の曇りもないの大嘘。今度は政府公開の「議事要旨」に疑惑

いまだ疑惑が払拭されない加計学園グループの獣医学部新設問題。複数回にわたってこの問題を追求してきたメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんは、加計学園関係者の出席が秘匿されたと言われている「愛媛県、今治市に対する獣医学部新設計画のヒアリング」の疑惑に対して、政府が公表した「議事要旨」の内容に疑問を呈しています。

議事要旨に盛られたウソ。これで「一点の曇りもない」といえるのか

「これは公文書偽造だろ!ひどすぎる」

今年8月16日 、民進党の加計学園疑惑調査チームは内閣府などの官僚を呼び、国家戦略特区ワーキンググループの議事要旨について、激しく矛盾を追及していた。

問題になっているのは、2015年6月5日の愛媛県今治市に対する獣医学部新設計画のヒアリング加計学園関係者の出席が秘匿されたその議事要旨の冒頭に、次のようなやりとりが記されている。

◇藤原(内閣府地方創生推進室)次長 「資料その他、議事内容は公開の扱いでよろしゅうございますでしょうか」

○山下(愛媛県)地域振興局長「はい」

この発言が本当にあったかどうか、民進党の議員たちは何度も繰り返して確認しようとする。

内閣府地方創生推進事務局の塩見英之参事官が明確に答えず、次のように込み入った説明をしたからだ。

「当日は提案者の自治体から非公開のご希望があった。それを踏まえて議事の内容を公開してこなかった。全ての議論が終わったあとに、座長から議事を公開できないかと相談され、提案者が同意したので、それを議事要旨に記し、公開に適するような形にした」

こういうことらしい。2015年6月5日のヒアリング当日、愛媛県と今治市は議事を非公開にしてほしいと要望していた。ところが、今年になって、なんらかの事情で公開の形をとる必要性に迫られた内閣府は、「議事録とは別に、「議事要旨を作成した。その段階で初めて愛媛県と今治市は「議事要旨」の公表を了承した。

つまり、「はいと言ったのは2年後のことである。なのに、それをヒアリング当日のこととして議事要旨に書き込んだのだ。

内閣府によると、公開、非公開についての希望はどの提案についてもヒアリングの冒頭で確認する。2015年6月5日時点の事実に従って「非公開を希望」としたら、辻褄が合わなくなるのだ。

ここで、考えなければならないのは、なぜ今年になって公開に転じたのかということだ。

内閣府によると、ワーキンググループの八田達夫座長(阪大名誉教授)が言い出したらしい。八田氏は国家戦略特区諮問会議の竹中平蔵氏ら有識者議員五人のうちの一人である。

「座長の判断であらためて、この議事の公開を提案したいと相談を受け、再度協議をした結果、議事を公開することになったのです」(塩見参事官)公開を決めたのはいつかという問いには「2月から3月の段階」と言う。

そこで、振り返ってみたい。国会で加計学園の問題が取り上げられたのは、おそらく3月3日が最初だったのではないだろうか。その日の参院予算委員会で民進党の舟山康江議員が森友疑惑について質問するなかで、以下のようにふれている。

「幾つかの報道で安倍首相に第二の森友学園疑惑浮上という報道がありました。総理の親友が経営する加計学園が三十七億円の土地を無償で今治市から提供を受けていると」

この時期、野党は森友学園の小学校新設問題をめぐる疑惑の追及に躍起だったため、舟山議員の質疑は、問題の指摘ていどに終わったが、「第二の森友学園疑惑」として野党の新しいターゲットになることは明らかだった。安倍官邸が緊急事態として対応を急いだことは想像に難くない。

塩見参事官は「2~3月」と時期に幅を持たせたが、八田座長と内閣府が議事要旨を新たに作成する決断をしたことと、メディアや野党が加計問題を取り上げ始めたことが、無関係であるとは到底思えない。

議事要旨公表の意図するところは、6月5日の衆院決算行政監視委員会で、安倍首相が今井雅人議員(民進)に対して答えた以下の答弁で明らかになった。

「この仕組みは国家戦略特区諮問会議できっちりと議論をすることになっている…正々堂々たる一点の曇りもない議論をしてきたのに、総理の意向で決めたかのごとく言われるのは憤懣やる方ないと民間議員がおっしゃっている。議事録も公開されていますから、ちゃんと読んでいただいてから御質問をいただきたい。まさに私の意向というのは入りようがない

安倍首相は、あたかも国家戦略特区の議論が余すところなく公開されているがゆえに、自分の意向など入り込む余地がないといわんばかりだが、実際に公開されたのは議事録ではなく2年近くも後に別途作成した議事要旨」である。

しかも、そこには当初から議事の公開を了承していたかのごとく記載され、出席していたはずの加計学園の関係者の名と彼らの発言説明内容は全て削除されているのだ。明らかに“加計隠し”だが、提案者ではなく「説明補助者」である加計学園側の発言は非公式なもので議事録には載せないのだ、と内閣府は言い張っている。

これについて、民進党の疑惑調査チームは「こういうのを世間一般では改ざんという。何を信用しろと言うのか。議事録を公開していると言うのは、首相の虚偽答弁ではないか」と批判、正式な議事録の公開とともに、八田座長からの説明聴取を求めている。

議事要旨作成について、内閣府の「八田座長から相談があった」という説明を信じるなら、一転して公開のポーズをとるにいたった経緯、真相を八田氏が知っているのは疑うべくもない。

しかし、これまで八田氏は問題を安倍首相から切り離し、岩盤規制改革の抵抗勢力がつくりだしたのが加計疑惑だ、という論理にすりかえる発言を一貫して続けている。

たとえば5月22日の国家戦略特区諮問会議では、薬局の新設規制の問題とからめて、このように発言した。

「新設の薬局は既存の薬局から100メートル以上離して立地すべしという薬事法の距離制限は違憲という最高裁判決が1975年にあった。憲法が保障する営業の自由に鑑みると、新設が需給関係を崩すことは新設を制限する理由にはならないということを判決は示している。同様に、既存の大学や獣医に不利益をもたらすことは、学部の新設を制限する理由にはならない営業の自由を保障し、競争によって利用者の利益を最大化するという観点からは、(獣医学部新設に関する)この文科省告示は明らかに撤廃すべき岩盤規制であります」

これで思い出すのは山本幸三前地方創生担当大臣が、「獣医師は足りているのではないか」という質問に対して語った6月5日の国会答弁だ。

「新規参入が起こってきて、価格が下がっていくんですよ。それが神の見えざる手による、市場メカニズムによる調整なんですよ」

八田氏や山本氏は大学であっても営利を目的とする企業と変わりがないと考えているのだろう。

6月13日に開かれた国家戦略特区諮問会議の有識者による記者会見で、八田氏は内閣府や官邸の隠蔽体質に関する質問に対して、こう述べた。

「こまかいところで批判することは結局、既得権を持っている人たちを利することになる。(提案を)全部を認めていく方向の議論をしていきたい」

獣医学部新設に関するいわゆる“石破四条件”を満たしているか、という質問に対しても、八田氏は「既得権を守りたい人が文科省のうしろにいてどんどん制限していく。(石破)四条件もそうだ」と語った。

つまり八田氏は、加計学園の獣医学部が真に国際レベルになるのか、他の大学では真似のできないものなのかについては、大した問題と捉えていないようなのである。

玉石混交になるのは百も承知、とにかく規制を取っ払おう、ダメなものは淘汰され、良いところが生き残る。そんな考え方なのだろう。しかし、多額の血税を助成金として注ぎ込まねばならない大学の学部新設にも、そんな大ざっぱな理論が通用するのだろうか。

竹中平蔵氏や八田達夫氏の発言を聞いていると、彼らが安倍首相を取り巻いて、規制撤廃のためなら私的な権力乱用さえも許されるような空気をつくりあげているような気さえしてくる。

加計学園問題の本質は、規制改革の是非ではない。総理大臣が親友の獣医学部新設計画を実現させるために、秘書官や補佐官を動かしたのかどうか、総理案件として官僚が忖度し、公平公正であるべき行政がゆがめられたのかどうか、という疑惑の解明だ。

それを「こまかいところで批判し既得権者を利する」(八田氏)と、無理やり別問題にすり替えて混同させようとする諮問会議有識者メンバーの発言は、意図的なプロパガンダと思われても仕方があるまい。

そういう疑念を払拭するためにも、問題の議事要旨で、なぜあのようなウソの記述をすることになったのか、八田座長自ら説明するべきだ。審議の経過が公明正大だというのなら、たとえ特例的であっても、議事録そのものを公表するのが、証明するのにいちばんの近道といえよう。

 

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