1949年に出版されて以来、「平和教育」のバイブルとして今も読み継がれている『きけわだつみのこえ』。戦没学徒の遺稿という「生の声」だからこそ胸に響いたという方も多いのではないでしょうか。しかし、過去には「編集意図が公平さに欠けている」として、一部の遺族から抗議もあったと言います。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では同書の問題点を探るとともに、「戦後の平和教育」の実態に迫っています。
日本の教育を取り戻す
毎年夏になると取り上げられる学校での「平和教育」。そこにはどんな問題が潜んでいるのか、占部賢志先生(中村学園大学教授)にメスを入れていただきました。
『きけわだつみのこえ』の真実
少し戦後の平和教育の実態に触れておきましょう。学校現場では、長年にわたって「教え子を再び戦場に送るな」というスローガンのもと、手を替え品を替えて様々な材料が教室に持ち込まれ、「平和教育」「反戦教育」が繰り返されてきました。
私が過ごした昭和40年代前半の高校時代には、とりわけベトナム戦争と『きけわだつみのこえ』が頻繁に取り上げられていたのを覚えています。この本はいまだに現場教師にとって「平和教育」のバイブルと言ってよいでしょう。
私が問題にしたいのは、この本に収録されている戦没学徒の文章ではありません。その編集意図です。
これは文芸評論家の小林秀雄さんの本で知ったのですが、戦時下の若者の心情に対して、あの本の編集者たちはあまりに一面的な取り扱いをしたのですよ。戦争に疑念を抱き、最期まで戦争を呪って死んでいった学生の手記は採用されたが、祖国の危急に臨んで決然と出陣し散華した学生の手記はボツとされたのです。
当時、「歴史的記録を世に発表したい」との呼びかけに応えて遺族から寄せられた遺稿は309人分にのぼったといいます。その中から取捨選択され75人分が一本にまとめられて刊行されることになったのですが、そこには意図的な区分けが施されていたというわけです。
ですから、本書が刊行されるや、特攻隊員として散華した子を持つ遺族の一人が、このような編集に対して厳しく異議を唱えたのです。
真にわだつみのこえと題するならば全部の遺墨(いぼく)の中からそれぞれ異なれる性格思想或(ある)いは戦争観或いは死生観を網羅(もうら)して編集してこそ『きけわだつみのこえ』でなければならないのである。
斯(かか)る事は……幾百万の戦死者の霊と其の遺族に対する侮辱にして剰(あまつさ)え社会の良識を誤らしむる残酷行為と言わざるを得ない。
公正さに欠けているというわけですね。
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